51 女神様を見つけたぞ / 新たな事件!(ゴロヨ小隊長視点)
グラフトン侯爵家の重厚な門には門番が両脇に二人ずつおり、門番休憩所と思われる建物にはさらに多くの騎士たちの姿が見えた。
馬車からナサニエルが顔を出すと、わらわらと騎士たちが寄って来てナサニエルに話しかける。
「今日はお早いですね。おや、そちらの方は?」
「お帰りなさい! もしかして魔法騎士団の同僚の方ですか? ナサニエル様に負けず劣らず格好いいですね」
「やっぱり、魔法騎士団に入団する人ってオーラが違いますね!」
皆とても愛想が良くて、俺なんぞを口々に褒めてくれるのだが、気恥ずかしくなってしまう。俺は自分の容姿をあまり気にしたことはない。漁師だった頃は日々、船で大海原に繰り出し、荒波と戦いながら豊かな漁獲を得る生活を営んでいた。
海の風に晒された肌は貴族たちのように白くないし、女たちに格好いいと言われたこともあるが、それは漁で鍛えた肉体美のことだと思っている。ただ、褒められて悪い気はしないから、にっこり笑っておいた。
門から庭園をゆっくりと走り停車所まで馬車が着くまでに、噴水や花壇を眺めて貴族の優雅さというものを堪能した。寒いなかでも赤い薔薇が見事に咲いているということは、なんらかの魔法が施されているのかもしれない。
出迎えてくれた金髪の女性はとても上品で美しかった。
「あの女神様は誰だよ? あの方がナサニエルの恋人なのかい?」
「違いますよ。あの方はセシルという名前でデリア嬢の専属侍女ですよ。私の愛おしい女性は赤い髪に瞳で、最高に可愛いくて綺麗で美しくて・・・・・・」
「わっ、わかったよ。うん、わかったから」
普段は落ち着いておりクールなナサニエルが、頬を染めてデリアという女性をめちゃくちゃ褒めだした。ぞっこんなんだな、と思うと微笑ましい。そして、実際見たら・・・・・・やっぱり人間離れした美しさだったよ。
「ようこそ、いらっしゃいました! 貴方がゴロヨ小隊長様なのですね? 私のナサニエル様がいつもお世話になっています。さぁ、どうぞ。今日はゆっくり寛いでくださいね」
艶やかに微笑む女性は、確かに言葉では言い尽くせないほど綺麗だった。なにより、ナサニエルのことを本当に愛しているのが伝わってきて、嬉しかった。俺はすっかりナサニエルの兄の気持ちになっていた。グラフトン侯爵閣下もこんな平民の俺に丁寧に挨拶をしてくれた。
「よく来たね。日頃はナサニエル君が世話になっている。これからもよろしく頼むよ。今日は楽しんでくれたまえ」
信じられない。俺のような平民に声をかけてくださることだって奇跡なのに・・・・・・。ディナーには他に人気宝飾デザイナーのヴァーノンという男もいた。
話題はいろいろだったけれど、やはり一番盛り上がったのは、ナサニエルとデリア嬢との結婚式の話だった。ナサニエルが叙爵したら、正式に婚約して結婚するという流れに、俺はとても感動したんだ。近道をしないで自分の手で爵位を手に入れたいなんて、いかにもナサニエルらしい。
第9小隊皆でナサニエルを応援する。ナサニエルが将来魔法騎士団長になれるまで、俺は絶対支えると決めた。キャサリンというセシル様の妹が、素晴らしいウェディングドレスのデッサンを描いていて、それも見せてもらった。
これを元にウェディングドレスが作られ、それに似合う宝石をヴァーノンが作成するという流れだった。思わず俺はレース編みが得意なことを漏らしていた。母親の趣味を見てなんとなく覚えたもので、漁に使う網を補修する際にもその技術は役立った。
「だったら、ゴロヨ小隊長様と私で協力してデリア様のベールを編みませんこと? 二人で作成すれば早くできますし、なにより編み物って楽しいでしょう?」
セシル様に言われてぽーっとなってしまった。一目惚れってやつだ。だから、いくらでもベールぐらい編むさ。ましてや、あのナサニエルの結婚式で使うものなんだろう? 喜んで協力するし、結婚式の日には感動で絶対号泣する自信がある。
「いつでもナサニエル様といらっしゃいね。それから、この子は朝も昼も放っておくと食べないかもしれません。一緒に食べてあげてくださいね。魔法省の頃は一日一食だったこともありますのよ」
グラフトン侯爵夫人がナサニエルを息子のように言うのも微笑ましい。あぁ、ここはナサニエルの家なんだな。そう思った。
それから数日後のことだが、魔法騎士団館で働くあるメイドが、ナサニエルにまとわりつく問題が発生したのだった。




