24 ナサニエルは私の息子なのに(スローカム伯爵視点)
「グラフトン侯爵閣下、こんなところで魔力を暴走させないでください」
魔法省の魔法使いが、慌てて奥の部屋から駆けつけて来る。そのなかにナサニエルの姿も見つけた。
「ナサニエル、お前のせいでグラフトン侯爵閣下が猛烈にお怒りだ。まずはお前が謝れ。自分の独断で成績簿を偽造したことを白状しなさい。グラフトン侯爵閣下も鬼ではない。可愛い弟のためにやったことだと言えば、必ず叙情酌量の余地があるはずだ」
「はい? クラークが可愛い弟ですか? そのように思ったことは一度もないですね。それに、成績簿を偽造した覚えもないです。でも、まず魔法の暴走を止めましょう。グラフトン侯爵閣下、デリア嬢とグラフトン侯爵夫人のお顔を思い浮かべてください」
「ナサニエル君、大丈夫だ。暴走しているわけではない。きっちり調整している。このばかどもを、一瞬だけ氷漬けにしようとしただけだから安心したまえ」
「グラフトン侯爵閣下。私たちを殺す気ですか?」
「まさか! 寝言を言っているようだったので、きっちり目を覚まさせようとしただけだ。頭を冷やしたほうが良かろうと思ってな」
マクソンスの前髪と眉毛はピキピキに凍っていたし、私は氷の粒がひげの先に生まれ、白い霜をまとわせていた。
「これ以上は怪我をさせてしまいますよ。凍傷でも起こしたら傷害罪になります」
「全く残念なことだ。法治国家ゆえに、このような明らかな嘘吐きにも、きっちりと弁護する機会が与えられるとは忌々しいばかりだ。こいつらは全ての罪をナサニエル君に押しつけようとしたんだぞ。到底、許せない」
「もしかして、それで怒っていただいたのですか?」
「もちろん、そうだ」
なんだ? この二人の周りにだけ存在する温かい空気は?
まさか、ナサニエルはグラフトン侯爵に気に入られているのか?
「とにかく裁判で会おう。ここは君たちのような者が来るところではない」
しっしと追い出されて戸惑う。風魔法の使い手に、外に吹き飛ばされ尻もちをついた。
「けしからん! 私はスローカム伯爵なのだぞーー」
「そんなこと存じ上げていますよ。ですが、グラフトン侯爵閣下の方が身分がずっと上ですので」
冷たく言われて、すごすごとその場を去るしかなかった。帰り際に、チラリとガラスばりの庁舎のなかを見れば、ちょうどカフェテリアでナサニエルとグラフトン侯爵が、紅茶を飲み始めたところだった。時計をみればちょうど12時で、昼食の時間だ。これから一緒に食事をするらしい。
(なぜあれほど親しくなったんだ? まるで、親子のようじゃないか! ナサニエルは私の息子なのだぞ!)
急に優秀なナサニエルが、もったいなく思い始めたのだった。




