13 優しいグラフトン侯爵夫人とデリア嬢(ナサニエル視点)
「この子は昔から正義感の強い子でしてね。クラーク様の不祥事で、ナサニエル様が辛い立場に立たされていることに我慢がならないのですわ」
真っ青な顔で弟のやらかしの謝罪に来た私は、確かに同情を誘う存在かもしれない。庭園を散歩することを再度勧められて、それ以上断っては失礼になると思い、デリア嬢に案内をしてもらう。
夕暮れ時、庭園には品種ごとにまとまった薔薇が植えられていた。異なる香りや形状が楽しめ、深紅のバラだけでなく薔薇以外のピンクや白、紫の花々も混ざり合い、まるで庭園全体が彩り豊かな絵画のような美しさだった。
さすがはグラフトン侯爵家の自慢の庭園だと思う。グラフトン侯爵夫人が散歩を勧める理由がよくわかった。
「赤い薔薇が特に綺麗ですね。今まで花をゆっくり眺めたこともなかったです」
「クラーク様はピンクの薔薇の方が好きだとおっしゃいました」
「私はピンクの薔薇より大輪の赤い薔薇が好きですよ。高潔で優雅な孤高の存在です。憧れですし、自分もそうなりたい」
「まぁ、私も同じようなことを考えていました。私が生まれた日に、両親が赤い薔薇を庭園に植えました。それから、私のお誕生日ごとに種類の異なった赤い薔薇が増えていきます。私も薔薇のようになりたいです」
「すでになっていますよ。むしろこの薔薇たちより格段に綺麗です」
デリア嬢の頬が赤く染まった。本当のことを言っただけなんだが、これじゃぁ、愛の告白みたいだ。気まずい空気のなか、次の会話の糸口が見つからない。
「ところで、ナサニエル様は人混みがお嫌いですか? 『ナサニエル様を夜会などで一度もお見かけしたことがなかったわ』と、お母様がおっしゃっていました」
話題が変わって助かった。ほっとしたこともあって、バカ正直にその理由を話す。
「両親から『貴族が集まるパーティ等には出るな』と言われています。私が出席するとマクソンス兄上より目立ってしまうからです」
「確かに兄弟のなかで一番素敵ですものね。ただ、ナサニエル様は冷たい印象のお顔立ちですから、損をしているかもしれませんわ。もっと笑った方が女性受けが良くなりましてよ」
「女性受けは気にしていません。家庭の温かさを知らない人間は、家庭を持つべきじゃないと気づきました」
デリア嬢が切なそうに顔を歪めた。また、彼女の同情心を刺激してしまったのだろうか?
サロンに戻るとデリア嬢からとんでもない言葉が飛び出す。
「お母様。ナサニエル様にディナーを召し上がっていただきましょうよ。ナサニエル様、一緒に食事をする予定の方はいらっしゃいますか?」
「えっ! いないです。いつも、一人で宿舎の食堂で食べています」
「宿舎の食堂なんて味気ないわ。絶対、グラフトン侯爵家のディナーの方が美味しいわ。遠慮なんていらないです! お母様、ナサニエル様は家庭の温かさを知らないから、独身を貫くらしいです。そんなのって、悲しすぎます」
『パーティに出るな』と両親から言われたことも、全てグラフトン侯爵夫人に話していくデリア嬢は、どうしても私のことが気になるようだ。
しかも、それはグラフトン侯爵夫人のなにかを刺激したようで、まるで息子に対するような温かい眼差しが私に向けられた。
「なんだか放っておけないですわね。とにかく、デリアが言うようにディナーを食べていきなさい。デザートも用意しますからね。顔色が悪いのも、きっと栄養失調かもしれないわ。好き嫌いはいけませんよ。野菜もお肉もお魚もバランス良くね?」
実の母親にさえ、そんな言葉をかけてもらったことはない。なぜだろう? この方たちといると涙腺がやたらと緩む。きっと、私の目は涙ぐんで赤くなっている。
グラフトン侯爵夫人もデリア嬢も、私の顔を見て「うん、うん」と頷いているのは、ちょっとおかしい。まるで子供になったような気がしたのだった。




