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1 とても優秀な方と婚約しました

ご無沙汰しております。

新連載を始めました。

お読みいただけると嬉しいです。

基本的に一日二回投稿します。

よろしくお願いします。

 私はイシャーウッド王国に住むグラフトン侯爵家のデリア。なかなか子供を授からなかった両親は、私の誕生を心から喜び、溢れんばかりの愛をもって育ててくださった。

 お父様とお母様の仲睦まじい関係は私の理想で、いつか私もお母様のように慈しみあえる男性と添い遂げたいと思っていた。




 13歳の冬、グラフトン侯爵領のカントリーハウスに、クラーク様がスローカム伯爵夫妻といらっしゃった。クラーク様は14歳で、金髪碧眼の優しい顔立ちの少年だった。


「クラーク君をデリアの婚約者にしようと思っているのだ。彼はとても優秀で見たかんじも悪くない。どうだろうか、デリア? 少し、考えてみなさい」

 突然のお父様の言葉に戸惑っていると、クラーク様がにっこりと私に微笑む。


「初めてお目にかかります。僕はスローカム伯爵家の三男でクラークと申します。デリア様が僕を気に入ってくだされば、これほど嬉しいことはありません」


 クラーク様は華奢で繊細な体つきをしていた。柔らかな金髪は風になびき、ふんわりとした雰囲気を醸し出している。彼の笑顔には無邪気さと親しみやすさが感じられ、周りの人たちを引き込んでしまうような魅力があった。


「デリア。クラーク様に庭園や我が家自慢の図書室を案内してあげたらどうかしら?」


「はい、お母様。クラーク様、一緒に庭園をお散歩しませんこと? 我が家の庭園は王宮の庭園に負けないほどバラの種類が多いのですよ」


「それは凄いですね。ぜひお願いします。花も本もとても好きですから」


 私は庭園や図書室を案内する。彼は熱心に私の説明を聞きながら、グラフトン侯爵邸の壮麗さに感嘆のため息を漏らす。


「この屋敷は隅々まで手入れが行き届いて素晴らしい。つい見とれてしまいます。本の種類も凄いなぁーー。スローカム伯爵邸とはまるで違います」

 特に分厚い本を手に取ると興味深げにパラパラとページをめくった。


「お読みになりたいなら貸してさしあげますわ。今度、こちらにいらっしゃる際に返してくだされば良いのですから」


「本当に? それは嬉しいですね。では、こちらの[古代魔法理論と実践方法]をお借りして良いですか?」

 クラーク様が選んだ本は難解極まるものだった。この本は、古代魔法の奥義に関する研究が書かれており、形態魔法や召喚魔法に焦点を当てている。


 ちなみにこの世界には元素魔法として火魔法、水魔法、風魔法、土魔法がある。大抵の貴族は元素魔法の才能を生まれながらに持っており、複数の魔法を使える者はいなかった。また、魔力量には個人差があり、高貴な血を引く者ほどその力は強かった。


 形態変化魔法や召喚魔法、光や闇の魔法は特別なもので上級魔法とされており、古代魔法に属していた。しかし、今現在においては古代魔法を使える者はいないと考えられていた。


「この本は学者でも難しくて理解できないと有名な本ですわよ。これをクラーク様は読みたいのですか?」


「えぇ、とても興味がありますから。僕は新しい知識を取り入れることが大好きなのですよ」


「古代語がおわかりになるの?」


「古代語なら、なんとかわかります。辞書もありますし、それだけ厚い本をどれぐらいで読めるのか試してみたいです」


(なんて、勉強熱心な方なの! とても努力家なんだわ)


 スローカム伯爵家の方々がお帰りになった後、私はお父様の執務室に呼ばれた。


「クラーク君の印象はどうだったかな? 彼の家庭教師が評価した成績簿を確認したが、どれも素晴らしいものだったよ。来年から王立貴族学園に通うクラーク君は、そこでも素晴らしい成績をおさめると思うぞ」


「私もそう思いますわ。彼はとても難しい本を借りていきましたもの。古代魔法の本を持ち帰りましたのよ」


「ほぉーー。あの本は魔法庁のエリートでも読むのに手こずるものだぞ。わずか14歳の彼が読むとは・・・・・・たいしたものだな」


 お父様は苦笑を浮かべていらっしゃったけれど、嬉しそうな声でクラーク様を褒めちぎった。優秀な男性を婿に迎えることは、グラフトン侯爵家にとってとても重要なことだった。それに、お父様自身がとても勤勉で努力家なので、そのような性質を持つクラーク様を気に入ったのだろうと思うわ。


 ちなみに、王立貴族学園入学前の生徒は、領地で両親が雇った家庭教師から教育を受ける。1年ごとの全教科の評価や平均点、授業への出席状況、備考などが記載されたものを成績簿といい、このように貴族同士で婚約を結ぶ際の参考資料として提出される。通常は格下の貴族から格上の貴族に提出されるため、スローカム伯爵家からグラフトン侯爵家にクラーク様の成績簿や授業態度などが提出され、お父様が把握するかたちとなったのよ。


 それから二週間ほど経ったある日、クラーク様が本を返しにグラフトン侯爵家にいらした。その際、古代魔法についての要点を私に説明してくださったけれど、とてもわかりやすかった。


「クラーク様、このような難しい本をたった二週間で読破なさったなんて凄いです。寝る暇も惜しんでこれをお読みになったのでしょう?」


「はい。まぁ、そんなところです。デリア様に相応しい男になるために頑張りました。褒めていただけますか? ただ、実践するのは難しかったです」


 ほんの少し頬を赤らめながら、上目遣いで私を見つめる表情とその澄んだ青い瞳に、私の胸が高鳴った瞬間に天使が私のハートに矢を放つ。


 グラフトン侯爵家にいらっしゃる度にいただく花束も、私の髪や瞳に合わせたかのような赤いバラで、それも恋に落ちる大事な要素になった。


 その花言葉は「愛情」・「情熱」・「熱烈な恋」ですもの。クラーク様から毎回愛の告白を受けているようでくすぐったい気持ちになるけれど、婚約者から愛されていることを実感できるのは嬉しいことだったのよ。


「デリアはとても愛されているようだわね。スローカム伯爵家は、家の家格としてはグラフトン侯爵家よりも下とされていますが、あれほど優秀な方はそうはいませんからね」


 お母様はそうおっしゃって朗らかにお笑いになった。お母様の出自はデュポン公爵家で、お母様のお父様はイシャーウッド王国の王弟だった。つまり、私のお母様は国王陛下の姪であり、私は国王陛下にとっては大姪にあたる。


 さらにグラフトン侯爵家には隣国ペトルーシュキンの王女殿下が何代か前に降嫁した経緯があり、私のお父様にはペトルーシュキン王国の王族の血が流れている。


 そのような立場の私に、スローカム伯爵家のクラーク様は確かに家格としては不釣り合いかもしれないが、クラーク様がそれほど優秀だという証拠なのだろうと思う。

 私は両親の意に添い、クラーク様の婚約者となることを決意したわ。この頃には、私もクラーク様を好きになっていたのですもの!






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 ※成績簿せいせきぼ


 通常、学年や学期ごとにまとめられた、学生の総合的な成績情報を含む文書です。

 一般的には、全教科の評価や平均点、出席状況、備考などが記載されています。

 学年ごとに発行され、保護者や生徒自身が学績を確認するために使用されます。

 この世界では15歳の王立貴族学園に入学する前は、領地のカントリーハウスで家庭教師から教育を受ける。その際にも家庭教師から成績簿が渡される。もちろん王立貴族学園でも同じように成績簿は存在し、それは貴族同士のお見合いの際の参考資料にもなる。

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