第6話 帰還の前に
三人が帰国を前にザナの街を精一杯楽しもうと、六人で再び街に出た。すっかりキーツに懐いたジュノとリア。
喫茶店で甘いものを食べ、デパートの服飾売り場を巡り、映画を見て、ゲームセンターで遊ぶ。
「また勝負しようよ。あれからだいぶ練習したんだ」
そう言って機動兵器のシュミレーションゲームで対戦するロディとサラ。ロディは手も足も出ない。
ロディは「やっぱりサラは強いや」
サラは「なんせ本物の訓練受けてますから」
ゲームセンターを出て公園のベンチに座る。一息つくとサラは言った。
「ねえ、アンナ、今まで聞きにくかった事なんだけど、別れる前だから。一つだけ聞いていい?」
「何かな?」とアンナ。
「アンナ達って、女日照りの中で男に育てられたんだよね? 育ての親とかは手を出さなかった?」とサラは問う。
アンナは「レイはそんな事しないよ」
「でも、そんな奴も居るでしょ?」とサラ。
「たまにはね」
そう言うアンナに、サラは「そういう子ってどうなるの?」
「親から引き離されて、養育施設に行くよ」
そう言って遠い目をするアンナは、向こうで三人の少年と歩く女の子を見つけて笑顔を取り戻した。
「あ、エリーだ。やっほー」
サラはアンナが駆け寄った四人を見る。
女の子はかなり男子達に懐いているらしく、隣の男子にじゃれている。反対側に居る別の男子が彼女の頭を撫でる。
アンナは四人を連れてきて、サラに紹介した。
「この子も、そういう親から離れて養育施設で育ったの」
サラは「そんな目に遭ったようには見えないけどね」
「養育施設には同年代の男子が大勢いるからね。みんなに可愛がられて、大抵ああなるんだよ」とロディが説明した。
しばらく彼等と話すアンナ達。
彼女達と別れると、サラはアンナに向き直って、改めて聞いた。
「それじゃ、結局ザナの男たちは飢えたまま、って事になる訳? だったら何のために女の子を育てるの?」
「癒されるってみんな言うけどね」とロディが答える。
「けど、男にとって女って性欲を満たすための存在・・・って、これも多分、ノーマに刷り込まれた偏見なんだよね。ごめんね」
そんなふうに自問自答するサラを見ていたキーツが不意に、思いついたように言った。
「ねえ、あそこを見せたらどうかな」
「けど、大勢で行く所じゃないよ」とアンナが困り顔で言う。
「俺がサラを連れて二人で行くよ。それまでみんなは喫茶店で待っててよ」とロディが言った。
ロディはサラを連れて、いかにも怪しげという感じの店に入る。
受付に「指定無しの会話オンリーで。それと彼女は見学という事で」と言い、奥に通される。
広い店内に多数の低い仕切りに囲まれた椅子とテーブル。あちこちで隣り合わせて座る男性と女性。
女性は皆、かなりの美人で、大人な雰囲気を漂わせているが、中には、いかにも子供という感じの小柄な女性も居る。
一組の男女が席を立つと、奥の部屋に消えた。
開いている所にロディとサラが座ると、一人の女性が来て、ロディの隣に座って、言った。
「若いわね。おいくつ?」
ロディが受け答えし、会話が弾む。
やがて女性はロディの肩に片手を廻し、太ももにもう一方の手を置いた。しばしばロディの頭を撫で、頬に触る。
サラは次第に苛立ちを感じ、ロディに耳打ちした。
「何? この人」
ロディはサラの耳元で「アンドロイドだよ」
サラは「まさか。普通に話してるけど」
「まあ、見ててよ」
そういうとロディは女性に、甘えた声で言った。
「俺って"あいうえお"でさ」
「そう、"あいうえお"なの?」
「それで友達が、"かきくけこ"してさ」
「へえ? "かきくけこ"・・・ねぇ?」
「そういうの、お姉さん的にどう思う?」
「解らないけど、ロディ君って可愛いから何でも許しちゃう」
唖然とした顔で二人を見るサラ。女性は甘えた表情でロディの左腕を抱く。
しばらく会話を続けた後、二人は店を出る。サラは不思議そうな顔でロディに聞いた。
「あの、さっきの"あいうえお"とか、何なの?」
「彼女達、会話で受け答えしてるように見えるけど、その内容を理解してる訳じゃないんだ。適当に相槌をうって、いかにも会話しているような感覚にさせるのさ」とロディは説明した。
サラは不満そうに「ふーん? それであのアンドロイド、セックスとか出来るんだよね?」
「そうだよ。一緒に奥に入った人、居たでしょ?」とロディ。
「ロディも、ああいうのを抱いたの?」
そう問うサラに、ロディは少しだけ俯くと、顔を上げて冷静な笑顔で言った。
「抱いたよ。男女の交わりってのがどういうものか、とりあえず知っておかないと、変な憧れが残って、女性とうまく向き合えないからね」
サラはそれを聞いて悲しそうに唇を噛む。しばらく俯くと、やがて顔を上げて、言った。
「私、ロディの部屋を見たい」
「いいよ」
そうロディが答えた後、二人は喫茶店でアンナ達に合流し、二人で養育施設に行く事を伝えた。




