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第5話 嵐の予感

不時着したヘルメス号では調査隊により管制コンピュータの解析が進む。


解析を指揮している軍のロード少尉は、優秀なコマンド隊員でコンピュータ技師。ハッキングスキルはかなりのものだ。

彼は船のメインコンピュータと繋いだ携帯機器を操作する。

そしてその画面を見ながら言った。

「この大量のデータ、どうやら侵入する時に集めた地上の様子と、監視網の電波情報だな」


「こっちの警戒態勢を調べるのも目的って訳か」と、隣に居るバン中尉。

バンは警備隊の指揮官で近接戦技術で並ぶものの無いスキルを持つ。サラの拳銃を銃撃して叩き落としたのも彼だ。

「これだとあらかた把握されただろうね」とロード少尉。

「これを使えばかなり侵入が楽になるぞ」とバン中尉。


彼等の指揮官らしい老人が「戻る前に抑えて良かった」

するとロード少尉が「いや、既に発信された形跡がある」

「つまり背後の通信衛星を経由してノーマに送られたって事か」とバン中尉。

「いや、現在も送信中だ」とロード少尉。

老人が「とりあえず送信を止められるか?」


ロード少尉は配線パネルの蓋を外し、いくつかのスイッチを切る。

そして「これで止まった筈だ」

「送信中のデータの中味は解るか?」と老人。

「音声データのようだな」とロード少尉。

老人が「再生できるか?」


ロードは機器と繋いだ端末を操作し、音声を出力する。

端末から若い女の子の声が流れる。

「あるよ。国力を軍備より文明再建に全振りして、戦争なんかする気の無い平和ボケ国家になってるって事でしょ・・・つまり今、ノーマから攻め込んだら、無防備なこんな星、一ころって事だよね」

「早急に対策が必要だな」と、脇で聞いていた老人が言った。



翌日、ザナ首脳部からの派遣として、三人の男性がアンナの家を訪れた。不時着船で調査隊を指揮していた老人と二人の軍人、バンとロードだ。

対応したレイとアンナに、老人は言った。

「私はザナ管理委員のゼルという者だが、ノーマから来た三人の少女兵と面会したい」


奥に三人を呼びに行こうとするアンナに、ロードが言った。

「その前に、彼女達が着ていたパイロットスーツを調べさせて欲しいんだが」

アンナは「変な事に使いませんよね?」


洗濯機から出されて干されていたスーツが持ち込まれ、センサーにかけられた。盗聴と送信の機能を持つ部品が発見される。

ロードはそれを示して「これで彼女達の会話データを、宇宙艇を通じてノーマに送る仕組みになっていたようだね」



サラ達三人が案内されて来る。


ゼルは自分達の身分を名乗ると、話を切り出した。

「率直に言うが、ノーマの現状を教えて欲しい」

「祖国を売るような真似は出来ません」とサラは言った。

「そうだろうね。だけど、事態は想像以上に深刻なんだよ。これは君達の会話だよね?」


そう言ってロードは情報端末を出して音声データを再生した。サラ達の声が流れる。

「・・・無防備なこんな星、一ころって事だよね・・・」


サラ達はしばし唖然とし、そしてサラは言った。

「私達の周りに盗聴器を仕掛けたんですか?」

「盗聴器はこれだよ。君達が着ていたスーツに、君達を派遣した人達が仕掛けたんだよ」とロードは言ってスーツに仕掛けられた盗聴器を見せた。


サラは「ノーマ軍が? 何のために」

「調査データとして自動的にノーマに転送するためさ。君達は調査データを帰還して提出するつもりだったと思うが、帰還せずとも遠距離通信で手に入れるようになっていたのさ。つまり君達が帰還出来なくても困らないようにね」とロードが説明。



「そんな・・・私達、捨て駒だったって事ですか?」

サラは唖然とした表情でそう言い、そしてつい先日に自分が言った言葉を思い出した。

(居なくなっても、誰も気に留める人が居ないって事で、私達は偵察隊に選ばれたの)


そんなサラを見て、ゼルは言った。

「ノーマって星、精神的に荒れてる状態と、お見受けするよ。元々囚人星が男性への不信で国を造ったらそうなるってのは解るけどね」

アンナは「皆さんだって犯罪者だったんですよね?」と反論する。


それに対してバンは言った。

「確かにね。ただ、犯罪にも色々あってね、私は政治犯だった。軍人として政府を批判して罪に問われたのさ」

そしてロードも「私は思想犯。政府の情報統制に対する反対運動で捕まったよ」


サラは「それじゃ、ゼルさんも?」

「禁止された技術を開発した罪でね」

そう言うゼルにサラは「それってもしかして、人工子宮ですか?」


ゼルは言った。

「そうだよ。こう見えても、この星で人工子宮を普及させたのには、それなりに貢献したつもりだ。それで委員会の椅子も貰ってね。普及が進んで、私の役目も終わったんで、調査隊のお飾りな責任者みたいな事をやってるけどね」


「弾圧とか酷かったんですか?」

そう問うサラにゼルは「各惑星の政府による・・・だけどね。けど、だからあんな戦争になったんだよ」

「そんな独裁をみんなが受け入れたんですか?」とサラ。

ゼルは「権力者が女性だと同情を買って、批判が起きにくく弾圧しやすいんだよ。だから大戦前は大抵の星で女性が権力握ってた」


それを聞いてサラは声を荒立てる。

「それはおかしいです。男性の闘争本能と権力欲が戦争と圧政を産んで人類を不幸にした結果だって・・・」

「ノーマの教科書にそう書いてあったんでしょ?」とゼルは言った。

「あ・・・」



サラはようやく、問題の本質が理解できたような気がした。自分は何も解っていなかったんだ・・・と。

そして「解りました。知っている限りをお話します」


ゼルは言った。

「それはありがたい。ただ、あまり悠長な事も言ってられなくてね。君達の船が来た後、ノーマに無人探査艇を派遣したんだが、探査艇はデータを送信した後消息を絶ってね。探査艇が拾った放送電波のデータなんだが、どうやら君達が派遣されて消息を絶った事が公表されて、奪還のためにザナに侵攻すべしってメディアを使って煽っているらしい」


「私達が戦争の原因になるんですか? そんなの嫌です!」と、リアは泣きそうな声で叫んだ。



サラ達は三人個別に担当官の面接を受けて、ノーマの現状を知る限り話した。


ノーマの体制確立を主導した女囚たちのリーダーだった者が少数の執政委員会で惑星を支配し、軍が大きな権限を握っている。

一般人には、お飾り的な意見申告制度が与えられているが、世論は政府・軍部と繋がるメディアが抑え、政府に不都合な意見は闇に消える。

そうした体制を維持する原動力になってきたのが、ザナに居る男性に対して煽られた警戒心だった。


ザナ指導部はとりあえずの方針を決めた。サラ達を早急に帰還させ、ザナからの侵攻の可能性は無いと、状況を報告してもらう。

それで事が収まると、実は首脳部の誰も信じてはいなかったが・・・。  

そしてヘルメス号の修理が進む。

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