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七節

 ……は…………?


 ――はぁあああああ!?


「おまけに……なんと汚れていることよ」


 こんな理不尽なことがあるものなのか。


 あたしは好き放題言われて、かぁっと頭に血がのぼっていくのを体で感じた。なんなんだこいつは。いきなり初対面の人間に、貧弱だの、汚いだの!!


 毎日ちゃんとお風呂入ってますけどーーー!?


「な……ちょ、え……!」


 今すぐ大声でなじってやりたかったが、あまりの衝撃にあたしは無様にぱくぱくと口を開閉しているばかり。その間に、生意気金髪不良男子(男の子なんてカワイイもんじゃない)は、すたすたと十河さんのところに歩いていった。


 なんということでしょう。金髪男子は、年上、そして尊敬すべき精神の持ち主である十河さんの頭に! つやつやサラサラオールバックに!! まるでひじ掛けに寄りかかるかのように、どさっと覆いかぶさった。


「ナオ、そいつが巫女候補か? そんなひ弱な魂で、ここの『おつとめ』が務まるのか」


 ナオ、となれなれしく呼ばれた十河さんはしかし、男子の問いかけには答えなかった。その重みでじゃっかん首を横に倒しながら、のほほんとお茶を飲んでいる。


「やめとけ、やめとけ。どうせ現世のおなごに、おつとめができるわけがない。また泣いて逃げ出すのが落ちだ」


「あー……、ひ、神籬さん? どうしたんですか、そんな怖いお顔して……」


 気を使ってくれたのか、十河さんはそう言ってくれるけど。この状況で笑顔になれるほど、あたしは社交スキルが高くなかった。


 くっ……! いますぐそこから離れなさいよ、金髪美男子……! た、確かに年上クール系イケメンと、子猫みたいな金毛美男の組み合わせは、現実とは思えないくらいハマってるけど……あいにくながらあたしは、BLにも二次元にも興味はない!


「ちょっ……あ、あの……!」


「ふっ。なんだ、この娘。まともに言葉も話せんのか」


 鼻でフンと厭味ったらしく笑われて、あたしはとうとう座布団から立ち上がった。


 コミュ障にも、我慢の限界というものは――ある!


「――悪かったわね! まともに話せなくて!」


「!?」


「神籬さん……!?」


 いきなり腹から声を出したあたしに、十河さんと男子は同じように目を丸くしていた。そしてなぜかお互いの顔を見合わせ、ぱちぱちと瞬いている。


「おい、娘……俺のことが、わかるのか?」


「はい!? 当たり前でしょ!? あなた、ここのバイトさんか何か? 年上の十河さんに対して敬意や尊敬の念ってものが足りないんじゃないの!」


「はあ? なぜ俺がナオのことを敬わなければならんのだ」


 むぁあ~憎たらしい!! なんったる言い分!


 男子は偉そうに胸を張ってあたしの目の前までくると、じろりとその形のいい目で見下ろしてきた。普段のあたしならこんな風に反撃なんか絶対できないけど、今は十河さんをまるで手下のように扱う男子にキレていた。


 あたしはいい。百歩譲って、小娘だのなんだのは我慢できる。我慢……できる部分もあるし、できない部分もあるけど! でも、十河さんを悪く言うのは許せない!


「年上を敬うのは年下のマナーでしょ!」


「そんなマナー知らん。敬いたければ勝手に心が敬うものだろう」


「十河さんは全人類平服して称えるべき人ですっ!」


「――ちょちょちょ! ちょっと待ちましょう、ねっ! 神籬さんも落ち着いて!」


 十河さんを巻き込みまくって、ぎゃんぎゃん言いまくっているあたしたち。その間を割るように十河さんが入ってきた。


「おいっ、邪魔するなナオ! 俺がなんたるかをこの小娘に分からせてやる!」


「分からせるですってなんってハレンチ! えっち! セクハラ! イケメンだからってなんでも許されると思うなよおぉ!」


「なんだと!? 誰が破廉恥だ誰が!」


「はいはいはい」


 白い肌を赤く上気させて叫ぶ男子と、首まで真っ赤になりながら対抗するあたし。十河さんは金髪男子をずるずるとひきずって物理的に引きはがす。


「ああ、神籬さん……やはり、あなたも(・・・・)なんですね」


「へ……? あなたも、って……?」


「ああ、いえ、こちらの話です」


 歯切れ悪く、ははは、と笑う十河さん。抱っこされた野良猫のようにシャーシャー威嚇している男子に視線を移す。


「えぇいナオ! 離せ!」


「こんな形で紹介させていただくつもりはなかったのですが……


 彼は、霆門(ていと)と申します。ほら霆門、ご挨拶は?」


「ふん」


 霆門と呼ばれた男子は、相変わらずツンッツンして、やな感じだ。霆門は当然のようにあたしに挨拶なんかせず、十河さんの腕をするりと下から抜け出してサササっと祭壇の裏に逃げた。


 ね……猫だ。猫がいる。


「娘、名は」


「へぁ? あたし?」


「他に誰がいる、うつけが」


 っかーーー。いちいち突っかかるやつだ。時折混じる古い言葉遣いも気になるけど、時代劇でも好きなんだろうか。


 ここで名乗らねば、またそれをネタにやれ挨拶もできない小娘だなんだと言われかねない。あたしは意識的に深呼吸して、なんとか昂った気持ちを落ち着かせた。


「あたしは、神籬。神籬エリカよ」


「ひもろぎ。ああ、たいそう立派な苗字だな。お前にはもったいない」


「だぁ~一言多いなぁ! そんなのご先祖様に言いなさいよ、苗字なんてあたしが自由にできるもんじゃないでしょー!」


「ナオ。本当にこいつがここの巫女なのか。こんな感情的じゃ、務まらんだろう」


 あたしの言い分をまるっきり無視して、霆門は十河さんに向き直った。ぴっ、と立てた親指であたしを指しながら、ずいぶん勝手なことを言う。


 そういえばこいつ、さっきから巫女、巫女って……


「あんた、さっきから巫女ってなんの話よ。あたしが赤袴はいて神社掃いてるよーに見える?」


「見えんな。まるっきり見えん」


「あぁぁ~! っと、霆門、巫女様の件はこれから話そうかと思ってまして。あの、神籬さん」


 困ったような、助けを求めているような。そんな、大人の男の人がするにはかわいらしすぎる顔を浮かべて、十河さんはあたしに向き直った。真正面からじぃっと見られて、あたしは視線を外したくなったけど――やたらと真剣な表情に、逆に目線がそらせなくなってしまう。


 そして、十河さんはとんでもないことを言い出した。


「この神社の、巫女、やりません?」

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