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四十六節

 そりゃあダメじゃないよーー! こんな真面目な顔で頼み込まれたら、そりゃダメって言えないよぉぉ……!


「そっか! ありがとう。ごめんね、何が起きたかずっと気になってて。どんな事実でも、ちゃんと話して欲しいんだ」


 あたしのYESの言葉に、ぱぁっと表情を輝かせるハルオくん。


 うーーん! どう説明したもんかなぁ!?


 今度はあたしが頭を抱えたくなった。


 ハルオくんは、恋心はどうか分からないけど――けっこう、鋭い。おまけに、あたしは嘘をつくのが下手であるという自覚がある。中途半端に適当なことを言っても、彼の興味を満足させることはできないだろう。


 それに、下手に隠して、また闇に狙われないとも限らない。それなら、心の準備というか……この世の中には「そういうこともある」かもしれないと、少しでも思ってもらった方がいいのかもしれない。


 あたしは瞬時にそう思考すると、足を止めてハルオくんに向き直った。現実に起きたことだ、ということを伝えるために、真剣に彼の目を見る。


「全部を素直に話したいけど、信じられない部分もあると思う。あたしも、まだ信じられないことばっかり起きてて、全部が現実だって思えないの」


 そして、あたしはハルオくんに昨日の出来事を全て話した。


 あたしが正体不明の、精神を病ませる闇に呪われていること。その闇は誰かが操っていて、あたしを付け狙っていること。そしてその操り人形として、ハルオくんが昨日襲ってきたこと。


 最初は呆けたように口をあんぐりさせていたハルオくんも、だんだんと見る間に顔が青ざめていくのが分かる。まるで、到底この世ではない怪談話を聞いているような。


「……ごめん。こんな話、やっぱり信じられないよね」


 話し終わって口を閉ざすと、ハルオくんはしかしゆっくりとかぶりを振った。そして顎に手をやり、思案するように少し黙った後、ややあって口を開いた。


「……ぼくときみは今朝初めてあった学友だし、お互いに知らない部分がたくさんあると思う。それでも、さっきのやりとりとか……今の話に、嘘はない、と思う……」


 思うけど、と続けて、ハルオくんはうなった。どうこの話を脳内で処理したら良いか、とても困っている様子だった。


「一度、この話は持ち帰って考えてみてもいいかな。それとは別に、ぼくの記憶のないところでエリカさんを傷つけてしまったこと、深くお詫びするよ。本当にごめんなさい」


 そう言って折り目正しく腰を曲げ、深く頭を下げるハルオくん。逆にあたしは焦る。


「そんな! 覚えてないんだもん、そりゃ仕方ないよ。むしろ、この話を真剣に聞いてくれてよかった」


「そりゃあ、こんなに真剣味溢れる話をされたら誰でも信じてみようという気になるよ。受け入れるのは、少し時間が必要かも知れないけれど。それに、きみの叔父さんに助けられたのは間違いなく事実だしね」


 そう言って爽やかに笑うハルオくんは、すごくいい男に見えた。あたしはその笑顔につられるように、ほっと微笑む。


「よかった。今度うちの神社に案内するね」


 なんとか、心配していることが一つ片付いたかな。――そう、油断していた隙。


「――エリカちゃん~っ!」


「ぅおっわぁあ!?」


 後ろからいきなり、モモちゃんが、がばぁっ! と抱きついてきた。人の重みに倒れ込みそうになるも、モモちゃんを廊下に放り出せるか! と謎の使命感による火事場の馬鹿力でその場になんとか踏みとどまる。


 いつも! 登場が! 急だな!!


「モモちゃん危ないでしょっ!」


「だーれ? その子。またエリカちゃんファンクラブの人数増やしてるの? 私だけでじゅうぶんでしょ?」


「いやだからそのファンクラブは即刻永久解散していただいて。この人はハルオくん。ちょっと、聞きたいことがあっていろいろ話聞いてたんだ」


「ふぅん……? 聞きたいこと?」


 あたしの話をまるで小鳥のさえずりのようにポンポンと軽く扱いながら、首元に手を回してしだれかかるモモちゃん。あたしの後ろから、ハルオくんをのぞき見る。


「桜川 春雄です。こんにちは」


「――あーっ!“小魔神ハルオ”!?」


 春の陽気に、モモちゃんの頭のネジが3本くらい吹っ飛んでしまったのだろうか。とんでもない異名を口にするモモちゃん。どうでもいいが耳元で大声を出すんじゃない。鼓膜が破れる。


「しょ、小魔神ハルオ!? なにそれ!?」


「あはは……懐かしい呼ばれ方ですね、それ……」


 ハルオくんが困ったように照れ笑いし、モモちゃんは興奮したようにあたしの後ろから前に回り込み、ぎゅっとあたしの手を握る。


「エリカちゃんやっぱり知らないんだね可愛い永遠に私がエリカちゃんのウィキペディアでいてあげるからね……! ハルオくんって、中学の時全国制覇してて、中学生ながら高校・大学生に混じって柔道やってる、天才柔道少年だよ!」


 な……


 なんですとーーー!?


 こ、こんな小柄で、そこまで腕もムキムキマッチョマンじゃないのに、全国制覇!?


 改めて経歴を紹介されたハルオくんは、照れたように後頭部をカリカリかいていた。


「いや、そんな……先輩たちに誘ってもらって、練習一緒にやってるだけですよ」


「中学生じゃ敵う人いなかったからって聞いたよ。最強中学生の異名もある……」


 いくつ異名があるんだ、ハルオくん!?

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