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三十九節

 そして最後に、モモちゃんがいろいろ吟味して持ってきたのは、花柄のワンピースだった。


 ネイビーの深い色に、淡い青の小花がちりばめられている。胸元は深いV型だけど、胸元が見えるほどではないからさほど気にならなさそう。背中は編み上げになっていて、ちらりと肌色が見えるような感じだったけど、本当に少しだけの肌見せだったから、これなら着られそうと思えた。


「かわいい!」


「そうでしょそうでしょ~丈は短めだけど膝上十センチくらいだから! ウエストが絞られててエリカちゃんのスタイルの良さがしっかり出ると思うよ!」


 こんな調子でモモちゃんは、いろいろなものをあたしに勧めては「かうぁいぃぃしんじゃうぅう神いぃ!」と叫びながら次々と買い物かごへ洋服を放り込んでいった。


 途中で口をはさむのも疲れてきてしまったあたしは、生き生きと買い物するモモちゃんにすべてを任せ、いろんなファッションの知識やコーディネートのコツを教えてもらいながら楽しく買い物した。


「よしっ! とりあえずお洋服はこんなもんね。次行くわよーっ!」


 結局三時間もユウカママの店で買いあさった我々一行は、モモちゃんを先頭にして意気揚々と店から出た。あまりにも買った量が多く、持ち歩くのは大変だろうとのことで、一部だけ紙袋に入れてもらってあとは神社の家へ送ってもらうこととなった。


「いいのが買えたか?」


 店の入り口の白い椅子でのんびりと座って待っていた霆門が、あたしに声をかけてくる。女子の買い物に突き合わせてしまって、申し訳なかったな。だいぶ待っただろうに、霆門は嫌な顔ひとつせずに、いつもと変わらない態度のままだった。


「ごめんね、すっごい待たせたよね! うん、おかげさまでいろいろ買えたよ」


「もう~エリカちゃんってば何着てもスーパーモデル級に似合うから、迷っちゃったー! あぁぁエリカちゃんを着飾れるなんて、なんて幸せなのー!」


 大きな紙袋を下げて店から出てきたモモちゃんが、ほくほく顔で叫んだ。霆門は静かに微笑んでいたが、その紙袋をさっとさらうようにモモちゃんから奪うと、スタスタと歩き始めた。


「あら、ありがとうございます。意外と紳士なんですね」


 モモちゃんは霆門の厚意を素直に受け入れ、感謝を述べた。霆門はひょいと肩をすくめて、別に、と一言いったっきり、たいしたことではないようにそのまま歩き続ける。


「ずいぶん買ったんだな」


「えへへ……実は、まだ買ったものが他にもたくさんあって……残りは郵送してもらうことにしたの」


「ふうん、そうか。お前の服、いつも同じ変なTシャツばっかりでつまらなかったからな。よかったじゃないか」


 うぅぅ、ここでもあたしのTシャツセンスは伝わらなかったか。ていうか、霆門いつも変なTシャツだなって思ってたってこと!?


 恥ずかしさと悔しさでなんだか複雑なまま、あたしは霆門の隣を歩いた。あ、と霆門は小さく声を上げる。


「ああ、そうそう。金なら心配するな、ナオに任せろ」


「ちょっと、ナオさんをなんだと……! でも、ユウカママがほんっと安く売ってくれたから、お財布的にもまだ大丈夫だよ!」


 ほぼタダ同然の値段で売ってもらっちゃったけど、本当に大丈夫だっただろうか。「娘がもう一人増えたみたいで嬉しい」と言ってもらえて、あたしもすごく嬉しかった。


 もうこれは、お洋服買うときはユウカママのお店一択だなー! お洋服買わないときでもついフラっと寄ってしまいそう。いつでも遊びに来てね、という言葉がお世辞か本音かはあたしには分からないけど、ユウカママのやさしさに甘えてみたくなった。


 あたしたちの少し先を歩くモモちゃんは、ご機嫌に鼻歌を歌いながらどこかへと向かっていた。商店街を中ほどまで通り過ぎ、一軒の店の前で立ち止まる。


「次はここだよー!」


「わあ、ここ!? すごい素敵なお店……!」


 白く塗られた木の壁に、白い床が広がっているのがガラス越しに見えた。オリーブや観葉植物が並べられた入り口には黒い黒板がちょこんと立っており、メニューがずらりと書かれていた。


「カット、シャンプー、カラー……ここ、美容室なんだね」


「そうなのー! お父さんが経営してる美容室だよ。ちゃんと予約はとってあるので、どうぞー!」


 からんからん。ドアにつけられたベルが軽やかに響く。中に入ると、美容室独特の薬っぽいかすかなにおいと、柑橘系シャンプーのいい香りがした。


「おぉ、おかえりモモ。いらっしゃい、エリカさん」


 そこに立っていたのは、なるほどモモちゃんのお父様にふさわしい、ダンディなイケメンだった。


 茶色のあごヒゲはきれいに切りそろえられ、軽くパーマを当てた明るい茶髪は軽く後ろへ流すように整えられていた。パリッとした白シャツに、濃いこげ茶のベスト、黒いズボンがすっごく似合っていた。


「紹介するね、私のお父さんです!」


「初めまして、賀田矢 達城です。よろしくね」


 おぉぉ、ダンディは声までイッツ・ダンディ。低く響く声は耳に残る重低音ボイスで、心地いい。


「初めましてっ、神籬 エリカと申します。こっちは友達の霆門です。えっと、今日は……」


 友達の親御さんに挨拶するなんて機会今までなかったあたしは、わたわたと不格好に頭を下げて挨拶した。


 そっかぁ、モモちゃんのお父さんは美容師さんなんだ。かっこいいなぁ。でも、ここで何をやるんだろう?


 疑問が顔に出ていたのだろうか、モモパパはふふっと楽しそうに笑った。


「今日はモモから、あなたのヘアアレンジを頼まれていましてね。さあ、こちらへどうぞ。モモ、お茶をお出しして」


「はぁい!」

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