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三十三節

「霆門が、聖華高校に?」


 信じられない気持ちで、もう一度確認するように尋ねると。霆門は、なぜかハァとわざとらしくため息をついてみせた。


「ヤナギはしばらく使い物にならん。相当力を消耗したからな。またこんなことがあって姫様のたまごに傷がついたらどうする」


「……あー。そうよね、はいはい。あんたはいつだって姫様が大事なのよね!」


 何よ、ちょっと期待して損したわ!


 しかしあたしの言い方が気に入らなかったのか、霆門は明らかにむっとした表情でこっちをにらみつけてきた。


「なんだ。言いたいことがあるなら言ってみろ」


 むぉぉぉ……! カワイクない言い方ー!!


 あたしは思いっきりイーっと歯を出して威嚇すると、モヤモヤした気持ちをぶつけるように声を張り上げた。


「お前が心配だから、とか、あたしの心配をしてくれると思ったんです~!」


「はっ、俺がお前の心配!? 台風や雷がきても動じないような可愛げのないやつの心配なんてするわけないだろ」


「なんですってー!?」


「霆門……ほんと、あなたってば素直じゃないですねぇ……」


 ぎゃいぎゃいと言い合うあたしたちの横で、なぜかナオさんがほろりと涙を流しながら、誰に言うでもなくそうぽつりとつぶやいたのを、あたしの耳は捕らえていたのだった。


「……お前、怖いんだろ」


 先ほどまで言い合っていた口調とは違う、ぼそっとそっけなく言い放つ霆門。


「自分が信じられないことばっかり起きて。そういうのが不安な気持ちは分かるよ。日常をめちゃくちゃにされる辛さも」


「霆門……」


「別に、だからってわけじゃないがな! お前に任せてたら、いつまでも姫様の復活が成されないような気がする」


「ひどい! ちゃんと仕事は仕事としてやるもん!」


「はいはい」


 軽口を叩きあっていたけれど、正直、本音の部分を話せば――ほんのちょっぴり、安心した。


 なんだかんだ、霆門はいつもあたしの味方をしてくれる。助けてくれる。


 イヤミがない言い方というか、すぐにぶつくさ文句を言うから、霆門は裏表がなくて安心するのかもしれない。あたしのダメなところはダメって、ここまではっきり言ってくれる人は霆門が初めてだった。


 だから……一緒にいて、気楽なのかも。


「仕方ないですねぇ。そういうことなら、ナっちゃんも助力いたします!」


 ナオさんはやおら元気にこぶしを上げ、そう宣言した。


「ただし、学校が始まって間もないですし、すぐには入学手続きも終わらないと思います。その間は、これを」


 そう言ってナオさんは、懐から赤いお守りを手渡してくれた。真っ白な狼が刺繍されたそのお守りは少し小さめのサイズで、制服の内ポケットに入れても邪魔にならない。


「おまもり、ですか?」


「ええ。ピンチのときはこれを掲げて、ていとー! と叫んだら、すぐ霆門が助けに来ますからね」


 あはは……。ナオさんもずいぶんなジョークをぶっ飛ばすものだ。


 だけどナオさんの表情は真剣そのもので、わざわざピッ! と人差し指を立てて強調して言われると、冗談でしょなどと茶化す空気にはならない。


「わ、かりました」


「ずーっと肌身離さず持っていてくださいね。どうやらエリカさんは、闇に狙われているようなので」


 そうだ。あたしは今、闇に狙われている。正確には、普通の男子高校生を使って自分の手は汚さずに人を襲う、弱虫卑怯クソヤローが。


「あたし、嘘つくやつも嫌いですけど、卑怯なやつはもっとも大嫌いなんです! そんなやつなんかに負けませんから」


 ぐっ、とお守りを握りしめて高らかに宣言するあたし。


 そうだ。そんなやつなんかに負けてやるか。心を闇に落としてなんかやらない。卑屈で卑怯者の計画に、おとなしく従ったりしてやんないんだから!


 あたしは明日に向かって、そう強く決心するのだった。


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