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二十五節

「……私……Bクラスだった……」


 ややあって、ようやく声を絞り出したモモちゃんは、どんよりと沈んで今にも座り込みそうなほど気落ちしていた。どんよりとした空気がまとわりついて、覇気がない。


「モモちゃん……」


 よろよろ、よろりとホワイトボードから離れ、少し遠巻きにその様子を見守っていたあたしのところへ戻ってきたモモちゃんは、どーーんと意気消沈していた。


「死にたい…………」


「そこまで!? いやちょっと待とうよ、ねっ! 隣のクラスにはなれたんだし!」


 思いつめ方マッハかな!? 確かにモモちゃんはいろいろストレートっていうか、直情的っていうか、思ったまま突っ走るくせがあるけど、死ぬのは待とう!


 あたしは慌ててモモちゃんの手を握る。いつもモモちゃんがしてくれるように。そして頭の中で何を言おうか、色々考えた。


 だがしかし、困ったぞ。なんて言えばいいんだろう。落ち込んでる友達を慰める言葉なんて思いつかない。例えば、そう。同じ状況になったら、あたしはモモちゃんになんて言ってもらったら嬉しいかな――


「モモちゃんとは、何があっても友達だよ」


 考えに考えた結果口から出た言葉は、自分でも思ったよりスルッと出てきた。


 そうだよ。クラスが違ってしまっても、あたしたちは友達。モモちゃんがいつもあたしに懐いてくれるたび、あたしはいつの間にかモモちゃんの存在がかけがえのないものになっていたことに、今気付いたんだ。


 あたしの言葉に、モモちゃんはようやく顔を上げた。目に涙をいっぱいためて、それでも何かにすがるようにあたしの手を強く握り返してくる。


「それに、モモちゃんならすぐいろんな友達ができるよ。大丈夫」


「……大丈夫じゃないもん……」


 ぼそっ、とつぶやいた彼女に、いつもの元気はまだなかった。


 それでも、友達、という言葉をぶつぶつと繰り返している様子を見ると、あたしの言葉は耳には入ってるみたい。


 すると、モモちゃんはいきなり、はっとした表情で後ろを振り返った。そこには、談笑している先生方が。


 え。あの。まさか……


「――今からでもクラス変更可能か、先生に直談判してくる!」


「えっ、っちょモモちゃん!……ああ、行っちゃった……」


 止める隙もなく、モモちゃんは先生たちの方へ向かって全力ダッシュしていってしまった。


 案の定、先生方の困り顔が伝播する。けれどもモモちゃんは必死に頼み込んでいるようだ。


「エリカファンクラブ一号のモモ姫、突っ走ってんな」


 エリカファンクラブ、というよりは自身のファンクラブが確実に創立しつつあるカナデくんが、くすくす笑いながらこちらへと歩いてくる。


「あ、カエデくん……生徒代表、お疲れ様。すごいね、あたし全然知らなかったよ。代表スピーチの前だったのに、あたしたちと一緒にいて大丈夫だったの?」


「うん。前日にリハしてたからね。それに、エリカと話したかったから」


 うっ……この人も、まぁまぁ女子に誤解される発言が多い人だ。あたしは恋愛スキルも恋愛資格もゼロの皆無人間だからまだこれを「やさしさ」だと思ってスルーできるけど、一般的女子生徒は一発で恋に落ちてしまいそう。


「そうそう、エリカは何クラスだった?」


「あたし? Aクラスだよ」


「おぉ、おれと同じだ。よろしくな、エリカ」


「うっ、うん、よろしく」


 あーあ……これはモモちゃんが知ったら、荒れるな……


 ただ、クラス分けなんて生徒にはどうしようもない。モモちゃんには申し訳ないけど、休み時間とかお昼になったら積極的に声かけてあげよう……


「ああ、そうだ。エリカ、連絡先交換しようよ。同じクラスになったんだし、いろいろそっちのほうが便利だろ?」


 そう言ってカナデくんは、制服のポケットから黒いカバーのついたスマホを取り出してそう尋ねてきた。


 しかし……困ったぞ。あたし、スマホなんて持ってない。


「え、っと……ごめん。あたし、スマホないんだ」


「は? いやいや、エリカ。案外面白い冗談言うんだな」


「冗談とかじゃなく! その……本当に持ってないの、ごめんなさい」


 すると、さっきまでにこやかだったカナデくんの顔が、しゅんとしょぼくれた。


「そ、っか。まあ、持ってないんなら仕方ないか。教えてもらえるよう、おれも信頼獲得に努めますよ」


 あ。どうやら、カナデくんにあたしが連絡先を教えたくないがための口実だと思われてるみたい。ううぅ。でも持ってないことをどう証明したらいいの? 全裸になる?


「ええと、そうじゃなくて、あたし本当に持ってなくて」


「いいよ。ごめんな、おれもちょっと焦りすぎた。ゆっくりでいいから」


 えええぇ。なんていい人。嫌な顔ひとつせず笑ってそう返すと、何事もなかったかのように「教室見に行く?」なんて提案してくれる。


 うぅ……スマホなんて高価なもの、ナオさんちに居候になってる身で持てるわけがない。今まで連絡を取り合う仲の人なんていなかったから、持つ必要性も感じてなかったし……ちょっと検討しておこうかな……


 そんな会話をしていると、モモちゃんがさっきよりもがっっっくりうなだれ、とぼとぼとした足取りで帰ってきた。


 ああ……あの様子だと、きっと無理だったんだろうな~……そりゃなぁ……


 入学式直後にクラス移動とか、聞いたことないもんなあ。あたしは今にも泣きだしそうなモモちゃんを迎え入れた。


「大丈夫……? やっぱり、ダメだったんだね」


「うぅぅぅ……エリカちゃぁぁん……」

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