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二十二節

 その言葉に、いち早く反応したのはモモちゃんだった。


 あたしに向けている笑顔のマイナス100000度くらいの冷たい目で、ギロリとカナデくんを見上げる。どうしても彼の方が背が高いので、小柄なモモちゃんは見上げるしかない。


「え。なんで?」


 モモちゃんは端的に不機嫌を表情化すると、カナデくんをにらみつけた。しかしカナデくんは、そんな刺すような視線もどこ吹く風で優しく微笑む。


 なんなんだこの人たち、メンタルが合成樹脂過ぎるだろ。あたしこんな風ににらまれたら絶対泣いちゃうわ。


「おれ、あんま中学の知り合いいなくてさ。一人で座るのも寂しいし。な、いいだろ? エリカ」


 だからぁぁぁ! なぜあたしに振る!?


「ええぇ……えーっと……まぁ、いいんじゃない?」


「そっか。ありがとう。ならもう入ろうぜ、みんな動き始めてるし」


 カナデくんの言葉に後ろを振り向けば、確かに他の生徒たちが流れるように体育館の中へ入っていっていた。


 あぁ、出遅れた……いきなり二人が、というかモモちゃんが敵意バリバリに口撃し始めるから……


 しかし。モモちゃんは、別の部分がとっても気になったらしい。ぴくり、と形のいい綺麗な眉毛を跳ね上げて、「エリカ、だって?」と低い声でうなった。


「は? は? みんなが動くから自分も行くの? 主体性もない同調精神の塊のただの男子のあんたが、なんで私のエリカちゃんを呼び捨てしてるの? しぬ?」


「まーった! 待ったモモちゃん! ねっ、あたしは呼び捨てとか気にしないから! ほら~遅れる前に入ろうね~」


 やばいやばいやばい。これ以上二人に喋らせていたら、大合戦でもおっぱじめそうだ。


 ただでさえ、こんな美少女とこんな美少年が二人並んでいて目立つのに、さらに口論も始めたもんだから周りの視線がエグい。もうここに立ってるだけで精一杯です、あたし。


 あたしは逃げるように体育館内の中にモモちゃんを引っ張っていった。中は紅白の垂れ幕で壁が飾られており、壇上の机には大きな大きな花瓶に、溢れんばかりの花が飾られている。華やかで、これから学校生活が始まるという彩りを感じた。


 あたしたちは無事、三人並んで座ることができた。青い座席のパイプ椅子は冷たく、それだけにすごく新鮮で――ああ、本当に入学したんだって、その冷たさが現実を教えてくれた気がした。


 あたしを挟んで右側にモモちゃん、左側にカナデくんの位置で座る。


 会場内は独特の緊張感があった。後方には保護者がずらりと立っており、中学と違って保護者席なんてないんだなぁなんてのんきに考えていたら。


 左隣のカナデくんが、とんとん、と肩を指先でつついてきた。


「ん?」


 なんだろう、と隣を見れば、カナデくんはニコっと笑ってくれた。


「一緒のクラスになれるといいな、エリカ」


 おわはぁぁぁ。ちょっとタイム。一時停止ボタン押して!


 闇の影響が取り払われてから初めての学校生活だけど、こうも違うともはや中学までのあたしは死んだのかと思うくらいだ。大体男の子なんて、あたしを見たらバイ菌扱いするか無視して存在を消されるか、どっちかしかなかったから。


 よって、こんなイケメンセリフ=イケセリに、なんと言葉を返したらいいかまっっったく分からない。戸惑うことはできるんだけど。


 そうやってもごもごモジモジしていると、モモちゃんが隣でフンと鼻を鳴らした。


「冗談でしょ。あんたは別クラスよ、当然。エリカちゃんと一緒のクラスは、私だけでいいわ。ねっ、エリカちゃん」


「友情は尊いけど、サジ加減を考えないと相手にとって迷惑にしかならないんじゃないか」


「エリカちゃん、私って迷惑?」


 おぉ。なぜそういう理論展開になるのだ、美男美女よ。


 そして向けられる、両側からの視線。


 うん。この席、間違いだったかもしれない。


「え、ううん、押しは強いけど……迷惑じゃないよ」


 これは本当、本音の話。モモちゃんは確かに、再会してからすごくグイグイ来てくれるけど、それが彼女の好意からだっていうくらいは分かる。


 逆に、小学校の頃のモモちゃんが思い出せないくらい影の薄い子だったのが、信じられないくらい。


 あたしの言葉に、モモちゃんはにんまりと笑みを深めた。勝利者のような、堂々とした笑みだった。


「ほぉぉぉら見なさい。迷惑なのはあなたのほうではなくて? エリカちゃんは男性が苦手なんだから、離れてお座りなさいな」


 勝ち誇ったようにモモちゃんは胸を張って、虫を追い払うように、しっしっと手を振ってカナデくんを遠ざけようとする。しかしカナデくんもなかなか肝が据わっているというか、くすりと笑ってあたしの方を向いた。


「エリカ、おれは迷惑?」


 おぉおぉぉぉいいいぃ。こっちに振るんじゃない! ていうか何の張り合いなんだこれ! 巻き込むな、一般小市民を!


「えー……迷惑、じゃないけど……」


 そりゃ、あたしなんかのお相手してくれる二人が迷惑なわけではない。


 迷惑じゃないんだけど。ちょっと、この可視化できそうなほどバチバチに火花飛んでる二人に挟まれていると、いつか爆発するというか、感電死しそうというか……


「エリちゃん、きゅーにもてもてなの?」


 あたしの唯一の癒やし、ヤナギがパイプ椅子の下から仰向けにひょこっと顔を出す。この子はいつも出てくる場所が唐突だな……


「わかんないよぉぉ……なにこれぇ……」

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