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MTG

作者: おとのみ

 チャットでMTGをしようと言われたのでマジック:ザ・ギャザリングの準備をしていたら、後輩に笑われた。MTGとはミーティングのことらしい。だったらミーティングと言えば良いのに、と僕は思った。もちろん思うだけで言ったりはしない。それくらいの分別はあるけれど、誰もそのことで褒めたりはしてくれない。後輩とのMTGは一時間に及んだ。七割方は後輩の自慢話だったが、彼は満足そうだった。それなら僕の方に不満はない。もちろん呆れることは呆れるけれど、それだけのことだ。


 卵かけご飯をTKGと略すのは問題ない。むしろ、その方が格好良い。けれど、ミーティングをMTGと略すのは納得できない。そのことを娘に話したら、どうでも良いでしょそんなこと、と言われた。全くその通りだ。MTGだろうが、KPIだろうが、PDCAだろうが、そんなことはどうでも良いのだ。誰もそのことを分かっていない。四十歳の妻がいて、中学生の娘がいて、愛想のない犬がいて、それ以上何を望むのだろう。僕には理解できない。


 休日に、家族でハイキングに行った。娘は嫌がっていたけれど、アイドルのDVDの話を持ち出したらついてきた。丁度良い水辺があったので、僕らはそこで休むことにした。何もゴールを目指しているわけではない。日が暮れてきたら引き返せば良い。それだけの話だ。僕は持ってきた折りたたみの椅子に腰掛けた。妻と娘は、川の水で遊びながら何やら話していた。気持ちよく晴れた日だった。僕はいつの間にか眠ってしまった。目を覚ますと、西の空が赤く染まっていた。妻と娘の姿が見当たらなかった。僕は慌てて、妻に電話を掛けた。

「もしもし」と僕は言った。

「あら、もしもし」と妻は言った。

「今どこにいるの」

「あなたが良く眠っていたから、もう帰ってきちゃったわよ」

 妻は当たり前のように言い放った。そんなのってあんまりだ。


 電車を乗り継いで家に着いた頃には、日付が変わりそうな時刻になっていた。妻と娘は、ベッドに入ってぐっすり眠っていた。まったく、こんな仕打ちをうけるような事をした覚えはない。そのことを後輩に話したら、先輩のビジョンと奥さんのビジョンがずれていたんですね、と後輩は言った。どうやら、この世にまともな人間は一人もいないらしい。

 

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