友人代表として
Prolog
マイクの前に立ち1つ呼吸を置いて私は話し始める。「ただいまご紹介に預かりました佐藤と申します。
翔くん、蒼依さんご結婚おめでとうございます。並びにご両家のご親族の皆様誠におめでとうございます。」
今日私は数少ない友人の結婚式にて友人代表のスピーチをしている。私の人生にとって友人代表としてスピーチするのはこれが最初で最後になるだろう。
話は変わるが人は多くの後悔を抱えて生きていると私は思う。その後悔がその人を強くしたり、足枷となったりする。私の場合は後者かもしれない。彼らの友人として彼らの仲を引き裂いたのだから。彼らが結婚すると聞いた時、私たちの高校時代の頃を思い出し二十代の後半になっても胃の痛みで眠れぬ夜を過ごした。
しかし、これだけは確実に言えるだろう。私の青春は確かにそこにあったと。
episode1
志望校であった難関私立高校への受験を失敗し滑り止めのして受けていた公立高校に入学した僕はあまり浮かない気分のまま初めての授業日に登校していた時誰かから背中を勢い良く叩かれた。
「よっ!なにしょげた顔してんだよ!楽しくいこーぜ!壮太」
「…なんだ翔かよ。俺は楽しみなんかじゃねーよ、ただでさえ志望校落ちたのによ」
「まーだそんなこと言ってんのか?もう終わったことだろ?諦めてこれからを考えよーぜ」
「そういう風に考えれるお前が羨ましいよ」
そんな他愛もない会話をしていると不思議と気分が軽くなるのだからこの羽山翔という人物に助けられるのは中学で出会ってからずっとだ。
「そーいえばさ、クラス一緒なんだよな?」
「確かそうだよ」
「よかったー、最初1人って心細いんだよね」
「お前がそれ言うか?人付き合い苦手なのは俺の方だろ」
「お前はただ人付き合いがめんどうとか言ってやらないだけだろ」
「そういうことにしてるだけだ」
下駄箱から教室に向かうまで部活のこと勉強のことを話した。
教室に着いてドアを開ける。事前に配られていた座席表を見ながら自分の席に座って他の人はどんな人なのだろうと隣に目を向けるとそこには女子がいてこちらを見ていた。
「よろしくっ!」
「よ、よろしく」
少しキョドってしまったのは決して見惚れていたからではなく、彼女があまりに自然に笑ったからだ。普通初対面の人と挨拶をする時緊張から声や表情が強張るしかし、彼女はごく自然に笑ったのだ。私にはその笑顔が警戒心を抱かなくていいのよと言われているように感じ、彼女に警戒心を抱いてしまいその日の会話はそれきりだった。
私が感じたその笑顔の違和感が本物であることを知るのはもう少し後の話だ。