89 ギラザックとテレシアと私達の先
ご都合主義満載回です!
二年生に進級して初めての新学期。
久々に学園に行き、ドリスはエルと正式に婚約をした事を伝えたが、トールとミリィからも婚約の報告があった。
リーナはというと、宣言通り、進級パーティーから半年の間は、婚約しないそうだ。
ドリスがフィーネのことを報告すると、皆、目を丸くして驚いていた。
「ちょっと!! どうして教えてくださらなかったの!?」
「すごい!! そんなこと出来たのですね!! 私、その能力欲しいです」
「確かに、情報収集には最適だな」
「殿下はご存知だったでしょう?」
「ジンに聞いていたからな」
「アンディ!! それなら私にも」
「リーナは直接ドリスから聞きたいだろうなと思って」
「~~その通りですけど!」
「本当に俺しか、言っていなかったのか」
そこで話が留学生の話に変わった。
「ギラザックとテレシアから、王族が一人ずつ来ることになりましたの」
「それって……人質?」
「そうだ」
進級パーティーの一件で、ギラザックの王族は、国民のクーデターにより、引き摺り下ろされ、新たに公爵家が王族になることが決まった。最後まで、国民が支持していたため、国民の信頼が厚い公爵家が王族になることに異論はなかった。
ただ、可哀想なのが、ロザリファに人質として留学に来た第三王女である。
この前まで、ただの公爵令嬢だったのに、突然王女となり、しかもロザリファに人質として来ることになったのだから。
「実は、もうギラザックのシンディ王女とは、お会いしているのです。とても内気そうな方でしたわ」
リーナは、シンディが馴染めるよう、時折話し相手を務めていた。
実はこの後、ギラザックでの食料不足が大問題となった。追い詰められた者達は、魔獣達を手当たり次第に襲い、神として祀っていた魔獣達にまで手を出した。
終いには、ロザリファに攻め込もうと兵を挙げたのである。
しかし、ギラザックの民達に襲われた、炎の大精霊は怒った。炎の大精霊は、眷属の精霊にギラザックの者には力を貸すなと命じた。ギラザックでは突然炎の魔法が使えなくなり、混乱が起きた。
やがてギラザックは降伏し、ロザリファの属国になる事が決まったのだった。
「私、ギラザックのため、良くしてくれたロザリファのために、ここに残って頑張ります!!」
この後、シンディ王女は、ギラザックとロザリファの架け橋となるよう、尽力することになる。
しばらくして、ロザリファの王女ユスティーナが、ギラザックの女王として即位し、シンディの兄と結婚する事が正式に決まった。
ユスティーナは、女王になると決まった事で決意を固め、ドリスの力を借り、精霊を視えるようにした。
「実は学生時代から、精霊にお祈りしていたの。デリアから聞いていたドリスの真似をしていたのよ」
ユスティーナに憑いていたのは、上位の風の精霊だった。
その精霊の力を借り、情報を手に入れ、シンディの家族で一番まともそうな思考の王子を指名して、夫にしたのである。
一方、テレシアから来たのは、第二王子ベアートゥスだった。
話し相手になっているのは、アンディだ。
「ベアートゥス王子とは、私が話し相手になっている。隠してはいるが、実際野心家だ。特にドリスは気をつけろ。まだ狙われているぞ」
ベアートゥスは、父王からドリスをどんな手を使っても良いから、連れて来るように言われているらしい。
それがロザリファ王に伝わり、ベアートゥスのロザリファ滞在延長が決まったのだが、本人は嬉しそうだった。
「実は私、父と兄が大っ嫌いなのです!!」
そう言って、ベアートゥスは、テレシアの内情を話し始めた。
テレシアは今、完全にテレシア王の独裁社会なのだそう。その王と考えが良く似ているのが、ベアートゥスの兄の王太子だ。
国民をものとして扱い、フィーネのような特殊な精霊憑きを集め、家族を人質に取る。
「私には一歳年下の弟がいるのですが、攻撃系の精霊ではなかったため、蔑ろにされています。無事なら良いのですが……」
ベアートゥスは上位の雷の精霊憑きだったため、対応は長男と同じだったが、ベアートゥスの弟の精霊は、上位の聖の精霊。
異常効果無効の身体の持ち主で、他人にかかっている異常効果を治すことも出来る。普通の王なら、喉から手が出るほどの力だが、テレシア王は例外だった。
そのベアートゥスの不安は的中する。
ベアートゥスが留学中に、テレシアで内戦が起こったが、ベアートゥスの弟が最前線で戦っていたのだ。
そのことを知ったベアートゥスは、ロザリファ王に直談判した。
「俺をテレシアの王にしてください」
それを聞いたロザリファ王アウグストは、面白いとベアートゥスの後ろ盾となった。
その後アウグストは、他国の外交官との場に、必ずベアートゥスを連れて行くようにした。やがて、ミーシェ王国、ワシュー王国、ギラザック王国の後ろ盾も得て、ベアートゥスはテレシアに帰国した。
帰国早々、ベアートゥスは王と王太子達をロザリファから借りてきた、精鋭の騎士達と共に拘束した。
そして、国民の望み通り、父王と兄である王太子を処刑し、内戦を終わらせ、正式にテレシアの王となった。
以後、彼は、他国との外交に長けた外交王と呼ばれるようになる。
ちなみにクーデター軍と戦っていたベアートゥスの弟は、撤退の度に、敵味方関係なく、周りにいた兵士や騎士達の異常効果を治療していたという。その結果、国民から反感を買うことなく、生き延びることが出来た。やがて彼は、国王軍の総帥として君臨する事となったのである。
話は戻り、それぞれの進路の話になった。
「ところで、皆は将来について考えているか?」
「そういう殿下は?」
「私は兄の補佐をしようと考えている。外交と……国の近代化を上手く出来ないか、考えているんだ」
「では……私は、語学を覚えることに集中しますわ。外交には欠かせませんもの。他国の事ももっと知らなければ」
「私は、痩せた土地でも育ちやすい、野菜の研究がしたいかな」
「俺も手伝うよ。あと、ポーションの研究に力を入れたい」
「皆よく、考えているんだな。俺は、跡取りじゃないから、商会を創りたいと思っているんだけど……何にするか」
「なら、出版社はどうでしょう? 今、トール様のご実家は印刷業にも携わっていますよね? 本作りに興味はないでしょうか?」
「出版社ね。……面白そうだ」
「そして、妻である私の本を創ってもらうのです!!」
「ミリィらしい」
「使えるものは使わなくては!!」
ミリィが本を書き、それをトールの会社が企画し、トールの実家で印刷する。
「……いいかも!!」
トールは俄然、やる気が出たようだった。
そして、時はあっという間に過ぎていく。
本来は二年生編でやりたかった事をギュッとこの回に凝縮しました。
かなり駆け足な展開のため、「え? え?」 と思う人も多かったと思います。
無理矢理まとめたので、こうなってしまいました。
次回はついに最終回です。




