87 これで円満解決!!
とってもご都合主義な展開の回になります。
フィーネの件から、数日後。
ドリスは、アルベルツ邸に戻り、部屋で勉強をしていた。
トントン
「はい」
「ドリスお嬢様の専属侍女を連れて参りました」
「入って」
ドアを開けて入ってきたのは、スラッとした体型に、そばかすの格好良い顔立ちの、ドリスと歳が近い侍女服の女が立っていた。
「フィーネと申します。生涯、ドリス様の専属侍女として仕えることを誓います」
フィーネはそう言って、ドリスに向かって、深くお辞儀した。
どうしてこうなったかというと、それはドリスがフィーネを捕まえた日に遡る。
ドリスは、フィーネから話を聞いた後、すぐに王城から馬車の手配をしてもらう様、部屋に備えついている連絡配管を使い、寮の管理人と兵士達にお願いした。
「すいません! 私の部屋に賊が入りました」
すぐにドリスの部屋に数人の兵士達と、この階の管理人が慌てて到着した。
学園にいる教師と王城への連絡は済んでおり、ドリスは縛られたフィーネと共に、王城からの兵士を待った。
父であるベルンフリートが学園に来てくれ、王城行きの護送用馬車に、ドリスとフィーネが乗り込み、フィーネの事について、ドリスの考えを話したのだ。
「お父様、お願いがあります。フィーネはエミーリアで、テレシア王国の密偵ですが、フィーネとその家族を助けて欲しいのです!!」
「……まずは、どういう事か聞こう」
ドリスはフィーネから聞いた話を要約した。
フィーネは元々テレシア王国でも、ど田舎とされる領の貧乏農家の生まれで、家族は祖父母、両親、兄弟合わせて九人の大家族だった。
フィーネの精霊の能力が十歳の時に国にバレると、家族全員王城へ連れて行かれ、フィーネの家族は、全員牢屋に入れられてしまった。
「お前が、しっかり仕事しないと、家族を殺す。失敗してもだ。……いいな」
そう言われ、フィーネは必死に仕事をこなした。
ロザリファに来て、エミーリア・ボームとして行動し、元第二王子バシリウスに近づき、情報を探ったり、ドリスを拐えとテレシア王の命令を受けて、今回拐おうとして捕まった。……と。
「でもね。それに、フィーネが失敗したせいで、家族全員が処刑されるかもしれないの。フィーネは捕まったから、王はもう極刑で良いって言う人らしいの!! やった事は、簡単に許されることではないけれど……私は、フィーネを助けたい!!」
「それで? どうしたいのかな? ドリスは」
「私がまだ、国王陛下から褒賞を頂いていないことは、覚えていますか?」
「……ここでおねだりするのか」
「でも、メリットはあります!!」
ここでドリスは、自分の家で、使用人を募集している所に目をつけた。
「フィーネとその家族をうちで雇うのです。ちょうど私の侍女に空きが出たし、新しく領を賜ったのでしょう? そこに、フィーネ一家を連れて行くのです」
そう。父のアルベルツ子爵は、今はアルベルツ侯爵だ。それに伴い、新たに領も賜った。侍女も多く必要となる。そんな中、結婚のため退職するドリスの侍女もいるため、ドリスは目をつけたのだ。
「現地で募集しようと思っていたけれど……確かに丁度いいね。賃金はフィーネの事もあるから、少なくすれば良いし」
「ちなみにどれくらい払ってくれるのです?」
「うーん。ローレンツとの相談次第だけど、フィーネ一家で、新人使用人二人分って所かな。これくらい」
「そ……そんなに頂けるのですか!?」
フィーネが驚きを隠せなかった。
なぜならその額は、フィーネが平和に暮らしていた時の三倍の額だったから。
「さすがに八人には、辛い額だろう?」
「いいえ! この中に食費が入っていないのなら、かなりの額です」
「ちなみにフィーネの家族は、農家だっけ? 何が出来るの?」
「畑仕事ならお手の物です。農家ですし、虫もうちの家族は怖がりません。祖母と母は料理が作れますし、布があれば、服も作っていました」
「なら、色々頼めるな。分かった。もし、王が承諾したら、うちで引き取ろう」
「ありがとうございます」
「まだ、早いよ」
ドリスの晴れ晴れした笑顔に、思わず苦笑するベルンフリートだった。
王城へ着き、すぐさま陛下へ謁見をした。
先ほど父に話した説明をドリスがすると、一瞬苦い顔になったが、承諾してくれた。
「ただ、もう処刑されていたのなら、申し訳ないが……」
「それも……承知しております」
王は、すぐにテレシア国への緊急連絡を行った。
精霊が視える国限定だが、緊急の時の連絡手段として各国から渡されていた、丸くて大きい水晶の一つを持って来させ繋いだ。
ある言葉を唱えてしばらく経つと、水晶玉に、四十代後半くらいのほうれい線が目立つ男が映し出された。
「お久しぶりだ。テレシア王」
「ロザリファ王。緊急連絡とは如何程……」
「私の国の貴族の令嬢を拐かそうとしたそうだな」
「……要求は」
「こちらで捕らえたフィーネとその家族をロザリファで引き取りたい」
「……それで良いのか?」
そう尋ねた理由。それは、そのような事件を起こした場合、王族の子の他に、有力貴族達の子息を数名、人質にすることが普通だったからだ。それが貴族ではなく平民を、しかも、引き取りたいというのは、破格ともいえる条件であった。
国民が奪われてしまうが、テレシア王にとって平民が数名他国に渡る程度、痛くもかゆくもない。
「あぁ! 出来れば、我が国の学園に入学出来る人材がいれば、是非、受け入れたい」
「……それで手を打とう」
フィーネの家族を引き取る事と、テレシアの王族一人を人質にする事で、この件は解決となった。
その後、すぐに通信は途切れた。
「まだ、大丈夫そうだった。心配ないだろう」
「……ありがと……ございまず」
涙を流すフィーネにドリスはそっと、背中に手を添えた。
その二日後、ベルンフリートがテレシア王国まで行き、フィーネの家族を引き取ってきた。
アルベルツ邸で、フィーネと家族の感動的な再会を見ることが出来、ドリスは感無量だった。
自分がしたことは、ただの偽善かも知れないが。
フィーネは、ドリスの生涯専属侍女として、ドリスに忠誠を誓うことになった。それが、フィーネへの罰だと王は言う。
数日、アルベルツ邸で過ごしたフィーネの家族は、アルベルツ領へ向かうことになった。フィーネとはいつも会える訳ではないが、居場所が分かっているだけ良いとお互い笑顔で見送った。
領の場所は、何と以前あった所と同じで、しかも、エルのアピッツ領とトールのファルトマン領の間にあった王領が、アルベルツ領だという。いつの間にか、また妊娠した姉のカミラに、「結婚しても領が隣なんて素敵」とドリスは言われてしまった。
時間は戻り、ドリスの部屋から案内した侍女が出て行くと、ドリスは口を開いた。
「フィーネ、もう普通に話して良いよ」
「ありがとう! ドリス様!! もう色々助かっちゃった」
「私がしたことは偽善だよ」
「それでも! 私達にとっては救世主です!!」
『ドリス様! 助けてくれてありがとう!! 俺のせいで、フィーネと家族がこんな目に合うなんて耐えられなくてさ!』
「ファントムって男なの?」
『俺に性別はない!! 俺は特殊な精霊だからな!!』
テレシア王国では、ファントムの様に特殊な精霊が生まれる事があるらしい。ファントムは闇属性だがその中でも性別がないのは珍しいという。恐らくファントムが誰にでも変身出来る精霊だからではないかと、ドリスは勝手に想像した。ちなみに魅了の精霊は聖属性だそう。
「ドリス様が良い人ってことは知ってたんだけどね」
「そうなの?」
「私さ、バシリウスとよく一緒にいたじゃない? もう、バカでクズだなぁと思って嫌だったんだよね」
「それは……」
「周りの取り巻きも、あいつの家族もそうでさ。もう、アンジェリーナ様が可哀想で」
「どうして?」
「あんな奴と婚約者で。あの方にあんな奴は勿体ない!!」
「言えてる!!」
「あはは」と互いに笑い合った後、またノック音がした。
「ドリス様、お見えになりました」
「今行きます」
「お供致します」
ドリスの後ろをフィーネが付き従う。
実は今日は、フィーネの件以外にも大事な事がある日だったのだ。




