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ドリスの学園生活が気まま過ぎて困る  作者: 朱村 木杏
第四章 襲撃!! そして……
91/94

87 これで円満解決!!

とってもご都合主義な展開の回になります。


 フィーネの件から、数日後。

 ドリスは、アルベルツ邸に戻り、部屋で勉強をしていた。


 トントン


「はい」

「ドリスお嬢様の専属侍女を連れて参りました」

「入って」


 ドアを開けて入ってきたのは、スラッとした体型に、そばかすの格好良い顔立ちの、ドリスと歳が近い侍女服の女が立っていた。


「フィーネと申します。生涯、ドリス様の専属侍女として仕えることを誓います」


 フィーネはそう言って、ドリスに向かって、深くお辞儀した。







 どうしてこうなったかというと、それはドリスがフィーネを捕まえた日に(さかのぼ)る。


 ドリスは、フィーネから話を聞いた後、すぐに王城から馬車の手配をしてもらう様、部屋に備えついている連絡配管を使い、寮の管理人と兵士達にお願いした。


「すいません! 私の部屋に賊が入りました」


 すぐにドリスの部屋に数人の兵士達と、この階の管理人が慌てて到着した。

 学園にいる教師と王城への連絡は済んでおり、ドリスは縛られたフィーネと共に、王城からの兵士を待った。

 父であるベルンフリートが学園に来てくれ、王城行きの護送用馬車に、ドリスとフィーネが乗り込み、フィーネの事について、ドリスの考えを話したのだ。


「お父様、お願いがあります。フィーネはエミーリアで、テレシア王国の密偵ですが、フィーネとその家族を助けて欲しいのです!!」

「……まずは、どういう事か聞こう」







 ドリスはフィーネから聞いた話を要約した。

 

 フィーネは元々テレシア王国でも、ど田舎とされる領の貧乏農家の生まれで、家族は祖父母、両親、兄弟合わせて九人の大家族だった。

 フィーネの精霊の能力が十歳の時に国にバレると、家族全員王城へ連れて行かれ、フィーネの家族は、全員牢屋に入れられてしまった。


「お前が、しっかり仕事しないと、家族を殺す。失敗してもだ。……いいな」


 そう言われ、フィーネは必死に仕事をこなした。

 ロザリファに来て、エミーリア・ボームとして行動し、元第二王子バシリウスに近づき、情報を探ったり、ドリスを拐えとテレシア王の命令を受けて、今回拐おうとして捕まった。……と。







「でもね。それに、フィーネが失敗したせいで、家族全員が処刑されるかもしれないの。フィーネは捕まったから、王はもう極刑で良いって言う人らしいの!! やった事は、簡単に許されることではないけれど……私は、フィーネを助けたい!!」

「それで? どうしたいのかな? ドリスは」

「私がまだ、国王陛下から褒賞を頂いていないことは、覚えていますか?」

「……ここでおねだりするのか」

「でも、メリットはあります!!」


 ここでドリスは、自分の家で、使用人を募集している所に目をつけた。


「フィーネとその家族をうちで雇うのです。ちょうど私の侍女に空きが出たし、新しく領を賜ったのでしょう? そこに、フィーネ一家を連れて行くのです」


 そう。父のアルベルツ子爵は、今はアルベルツ()()だ。それに伴い、新たに領も賜った。侍女も多く必要となる。そんな中、結婚のため退職するドリスの侍女もいるため、ドリスは目をつけたのだ。


「現地で募集しようと思っていたけれど……確かに丁度いいね。賃金はフィーネの事もあるから、少なくすれば良いし」

「ちなみにどれくらい払ってくれるのです?」

「うーん。ローレンツとの相談次第だけど、フィーネ一家(いっか)で、新人使用人二人分って所かな。これくらい」

「そ……そんなに頂けるのですか!?」


 フィーネが驚きを隠せなかった。

 なぜならその額は、フィーネが平和に暮らしていた時の三倍の額だったから。


「さすがに八人には、辛い額だろう?」

「いいえ! この中に食費が入っていないのなら、かなりの額です」

「ちなみにフィーネの家族は、農家だっけ? 何が出来るの?」

「畑仕事ならお手の物です。農家ですし、虫もうちの家族は怖がりません。祖母と母は料理が作れますし、布があれば、服も作っていました」

「なら、色々頼めるな。分かった。もし、王が承諾したら、うちで引き取ろう」

「ありがとうございます」

「まだ、早いよ」


 ドリスの晴れ晴れした笑顔に、思わず苦笑するベルンフリートだった。







 王城へ着き、すぐさま陛下へ謁見をした。

 先ほど父に話した説明をドリスがすると、一瞬苦い顔になったが、承諾してくれた。


「ただ、もう処刑されていたのなら、申し訳ないが……」

「それも……承知しております」


 王は、すぐにテレシア国への緊急連絡を行った。

 精霊が視える国限定だが、緊急の時の連絡手段として各国から渡されていた、丸くて大きい水晶の一つを持って来させ繋いだ。


 ある言葉を唱えてしばらく経つと、水晶玉に、四十代後半くらいのほうれい線が目立つ男が映し出された。


「お久しぶりだ。テレシア王」

「ロザリファ王。緊急連絡とは如何程……」

「私の国の貴族の令嬢を(かどわ)かそうとしたそうだな」

「……要求は」

「こちらで捕らえたフィーネとその家族をロザリファで引き取りたい」

「……それで良いのか?」


 そう尋ねた理由。それは、そのような事件を起こした場合、王族の子の他に、有力貴族達の子息を数名、人質にすることが普通だったからだ。それが貴族ではなく平民を、しかも、引き取りたいというのは、破格ともいえる条件であった。

 国民が奪われてしまうが、テレシア王にとって平民が数名他国に渡る程度、痛くもかゆくもない。


「あぁ! 出来れば、我が国の学園に入学出来る人材がいれば、是非、受け入れたい」

「……それで手を打とう」


 フィーネの家族を引き取る事と、テレシアの王族一人を人質にする事で、この件は解決となった。

 その後、すぐに通信は途切れた。


「まだ、大丈夫そうだった。心配ないだろう」

「……ありがと……ございまず」


 涙を流すフィーネにドリスはそっと、背中に手を添えた。






 その二日後、ベルンフリートがテレシア王国まで行き、フィーネの家族を引き取ってきた。


 アルベルツ邸で、フィーネと家族の感動的な再会を見ることが出来、ドリスは感無量だった。

 自分がしたことは、ただの偽善かも知れないが。


 フィーネは、ドリスの生涯専属侍女として、ドリスに忠誠を誓うことになった。それが、フィーネへの罰だと王は言う。


 数日、アルベルツ邸で過ごしたフィーネの家族は、アルベルツ領へ向かうことになった。フィーネとはいつも会える訳ではないが、居場所が分かっているだけ良いとお互い笑顔で見送った。


 領の場所は、何と以前あった所と同じで、しかも、エルのアピッツ領とトールのファルトマン領の間にあった王領が、アルベルツ領だという。いつの間にか、また妊娠した姉のカミラに、「結婚しても領が隣なんて素敵」とドリスは言われてしまった。






 時間は戻り、ドリスの部屋から案内した侍女が出て行くと、ドリスは口を開いた。


「フィーネ、もう普通に話して良いよ」

「ありがとう! ドリス様!! もう色々助かっちゃった」

「私がしたことは偽善だよ」

「それでも! 私達にとっては救世主です!!」

『ドリス様! 助けてくれてありがとう!! 俺のせいで、フィーネと家族がこんな目に合うなんて耐えられなくてさ!』

「ファントムって男なの?」

『俺に性別はない!! 俺は特殊な精霊だからな!!』


 テレシア王国では、ファントムの様に特殊な精霊が生まれる事があるらしい。ファントムは闇属性だがその中でも性別がないのは珍しいという。恐らくファントムが誰にでも変身出来る精霊だからではないかと、ドリスは勝手に想像した。ちなみに魅了の精霊は聖属性だそう。


「ドリス様が良い人ってことは知ってたんだけどね」

「そうなの?」

「私さ、バシリウスとよく一緒にいたじゃない? もう、バカでクズだなぁと思って嫌だったんだよね」

「それは……」

「周りの取り巻きも、あいつの家族もそうでさ。もう、アンジェリーナ様が可哀想で」

「どうして?」

「あんな奴と婚約者で。あの方にあんな奴は勿体ない!!」

「言えてる!!」


 「あはは」と互いに笑い合った後、またノック音がした。


「ドリス様、お見えになりました」

「今行きます」

「お供致します」


 ドリスの後ろをフィーネが付き従う。

 実は今日は、フィーネの件以外にも大事な事がある日だったのだ。




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