08 ホイルス先生、キレる
リーナと友人になった次の日。
それを咎める人が出て来た。
ドリスは放課後、リーナに付きまとう三人組につかまり、あまり人気の無いところへ連れて行かれた。
「貴女、下位貴族なのに、どうしてアンジェリーナ様と、ご歓談なさっていますの?」
「友人になったのです。友人と話してはいけませんか?」
「はぁ!? どうして、下位貴族の貴女なんかと、アンジェリーナ様が友人など!!」
「私が友人になりたかったから、申し出ましたのよ」
突然の声に皆、振り向くと、そこにはリーナが立っていた。
「私の友人に何か用かしら?」
「アンジェリーナ様!! 授業をさぼるような人と、なぜ、ご友人などと!!」
「彼女はさぼっていませんわ。その授業の単位をもうすでに、満点の成績で取得なさったそうですから」
「「「えぇ!? 嘘でしょう!?」」」
三人組がどよめくと、アンジェリーナは口を開いた。
「私の友人ですから、手出しは無用ですわ。もし、何かしたら……分かっているのかしら?」
「え……それは……」
すると、三人は駆け足で逃げ出した。
「はしたないこと」
リーナは三人組に向かって言うと、ドリスに近づく。
「ありがとう、リーナ」
「どういたしまして。こういうことがあるから、極力私の側を離れないこと!」
「それは難しいよ」
「ドリス。貴女はまだ、周りにサボリ癖のある生徒と勘違いされているわ。機会を作らないと、ダメ令嬢のレッテルを貼られちゃうわよ?」
「今言う方が、ダメかなと思って。多分あの三人組が、ホイルス先生に進言しに行くよ。『貴方の授業、さぼっている方がいらっしゃってよ?』なぁんて」
「そうね……近いうちにあるでしょうね」
「その時はその時!」
「楽観的で羨ましい」
「なるようにしか、ならないからね。先生もその辺りは分かっているでしょ」
それは、わずか数日後に訪れることになる。
「ホイルス先生、貴方の授業をさぼっている、ドリス・アルベルツという生徒がいます。何か対処しなくてよろしいのですか?」
その言葉を聞くと、上位貴族の大半がニヤニヤとざわついた。
「問題ないな。アルベルツはもう、このドラッファルグ語とミーシェ語の単位を取得しているからな。今頃は、私が頼んだ、ドラッファルグ語の翻訳作業をしているのではないか?」
それには、クラス全員がどよめいた。
「どういうことです?」
「だから、彼女は事前に私のところまで来て、試験を受けたのだよ。どちらも文句無しの満点。私が教わることがあっても、彼女に私が教えることは何一つ無いよ」
さらにクラスがどよめく。なのでホイルスは、追加でこんなことを言った。
「その試験は、お前達が学期末にやるような問題じゃない。それより遥かに難しい。私だって解けるかどうかというくらい難解な問題ばかり書いたものを、アルベルツはさらっと解いた」
ホイルスは黒板に書き終えたのか、チョークを置き、皆の方向に向いた。
「彼女は、この学園で才女と言われた、アマーリア・ブレンターノ元伯爵令嬢の娘だ。アルベルツの姉で、養子に入った、デリア・ブレンターノ伯爵令嬢は、この学園を総合一位の成績で、卒業している。……おかしなことはないだろう?」
皆はシンとしながら、上位貴族は顔をしかめながら聞いていた。
「この学園は、爵位も大事だが、それ以上に成績と実力が最も大事だ。優秀な人材だからな。ロザリファ王は、優秀な人材が好きなことでも知られている。王は、平民でも優秀な者を雇いたいとおっしゃっているほどだ。……そして、ここ最近、上位貴族の学力低下を嘆かれている」
それには、上位貴族の面々は、ぐうの音も出なかった。
「実力があるということで、この学園では優遇され、上に立つこともあり得る。そのことをしっかり覚えておくように。それにもし、王城で働く場合、学園の成績がものを言う。お前達、弱い者いじめをしている暇があるのか?」
それには、男子側に戦慄が走った。
「今ので大分、時間を減らしたな。少しスピードを上げる。それに不満なら、こんなくだらない質問をした者を責めるんだな」
この時ホイルスは、このクラスの授業を厳しくすることを決めた。
「ってことがあったのよ」
リーナは、放課後にドリスと寮まで帰る間に、授業中に起こったことを話した。
「だから、私を見る目が変わったのね」
皆それ以降、ドリスへの評価を変えた。成績優秀なドリスに文句を言えば、自分が周りから攻撃されてしまうからだ。
ただでさえ、上位貴族は、近年劣っているとのレッテルを張られている。何か問題を起こせば、王城勤務は夢のまた夢。
男達は、争わない道を選択。女達は二つに別れ、下位貴族はドリスを下位貴族の星と敬い、上位貴族はしかめっ面しながらも、ドリスには構わなくなった。
「これで、平和が来るかな~」
「まだまだでしょうね」
「貴族って面倒」
「本当に」