84 婚約破棄と第二王子反乱!!
締めの挨拶をしようと、副学園長が壇上へ向かう途中、勝手に壇上へ上がった生徒がいた。
そしてその生徒は、特定の生徒に向かって、叫んだ。
「この場で私から言っておきたいことがある。アンジェリーナ・ブローン!! 貴様との婚約破棄を宣言する!!」
叫んだのは、ロザリファの第二王子、バシリウスだった。
呼ばれた当の本人のリーナは、うんざりとした顔をしながらも、すぐに表情を切り替え、バシリウスへ話しかけた。
「宣言と仰いましたね? ですが、結婚破棄は殿下の力だけでは成立しないこともご存知でしょうか?」
「すぐに成立するに違いない!! なぜなら私はエミーリアを愛しているからな!!」
「……なぜ、そう確信しているのです?」
リーナは違和感を覚えた。ロザリファ王は、何かがなければ、決して簡単に破棄するとは言わない人。バシリウスのその言葉はおかしかった。
「それはな……私が王になるからだ」
バシリウスがそう言った瞬間、空間魔法を使って、複数人の賊が現れた。
それには皆、慌てて逃げようと出入り口に急いだが、そこにもバシリウスの仲間達がいた。
「皆に告ぐ。そこを動くな。他の者達は……分かっているな」
バシリウスの合図に過激派の生徒達が、ドリスとリーナに向かって走ってくる。
「アイリス!!」
『任せて!!』
ドリスが手の平に乗っている種を急成長させると、巨大な花が咲き過激派の生徒達に向かって、バフンと粉を吹いた。
吹きかけられた相手は、次々に倒れ、眠ってしまった。
「ブリギッド!!」
『この前ので良いよね?』
「勿論ですわ!!」
大きな炎を纏った拳が二つ出てきて、ドリスの取りこぼしをボコボコに殴った。
その光景に、バシリウスは唖然とし、慌てて叫ぶ。
「動くなと言っている!!」
「動いてないではありませんか!!」
実際にドリスとリーナは一歩も動いていなかった。
エル、トール、ミリィは、すぐに避難していた。
現れた賊達に対して、エルとトールは拳で戦い、剣を奪って相手を牽制した。そしてミリィや生徒達を守るように、前に立つと、剣を敵に向かって構えた。
「きゃー」と悲鳴が聞こえたので見ると、空間魔法を使って出てきた賊が生徒に迫っていた。
アンディが、風の結界を出現させる。
そして、迫ってくる敵達に狙いを定め、切り裂くように風を飛ばした。
仲間がバタバタ倒れていくのを見て、他の賊達は近づこうとしない。
リコは、アンディの結界から溢れてしまった人を避難させていた。
そこに、ロザリファの騎士団が入ってきた。
「そこまで!! 不届き者共、動くな!! 王の命により、そなた達を捕縛する!!」
一師団の団長であるベルンフリート・アルベルツが叫んだ。
あっという間に、騎士達は空間魔法から出てきた者達と過激派達を捕縛した。
勿論、バシリウスも。
「お前ら!! 私が誰だか分かっているのか」
「分かっていますとも! では、こちらにいらっしゃる方はどなただかご存知でしょうか?」
ベルンに促され、その人を見たバシリウスの顔は真っ青になった。
「身内の失態。私は恥ずかしいよ。バシリウス」
「……父上」
そこには、ロザリファ王アウグストが立っていた。
「なぜ……」
「なぜ? それは、ここに来る道中に襲われかけたことかな?」
「それとも吹っ飛ばされた奴らのことでしょうか」
さも、羽虫を追い払った風に言うベルンに対して、バシリウスは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「これは使いたくなかったのだが……」
バシリウスはそう言って、小瓶を取り出し、床に落としてそれを足で踏んだ。
黒い煙がモクモクと立ち上り、周りのもの全て、黒く変えた。
アンディがリーナへ指示を出す。
「これは淀みだ!! リーナ!!」
「分かりましたわ!!」
『任せて』
ブリギッドは、輝く炎を辺りに散らす様に放った。
炎は黒い煙をどんどん消していき、瞬く間に黒く変色したところまで、綺麗になった。そして炎は消えた。
「嘘……だろ」
バシリウスは、呆然とした。
「これで終わりだ、バシリウス。色々聞きたい事がある」
「……クソッ!! お前ら!! 空間魔法はどうした!?」
空間魔法から出てきた者達は、互いを見つめ合ってから答えた。
「無理です。やっているのですが、何故か発動しないのです」
「今縛っている縄は、どこかの国からの献上品だ。魔力を抑える効果のあるもので、魔力を使う犯罪者を縛るのに良いと以前貰ったのだ。まさかこんな形で役立つとは思わなかったが」
王への献上品は多数ある。
魔力を使わないこの国では、「使わないのでは?」と思うものまで、献上されるのだ。
「……終わった」
バシリウスの口から、やっと弱音が出て、ガクンと膝をついた。
多数の過激派の生徒達は皆、捕縛され、牢に入れられる事になった。
しかし、過激派の生徒の中には、この事に全く関わっていない者も何名かではあるがいた。
その中には、エミーリアも居たのである。
「彼女は、本当に知らなかったのか?」
「……はい。本当です。私は一切この事を彼女に話していません」
バシリウスは弱々しい声で、答えた。
「エミーリア嬢。数多くバシリウスから、プレゼントを貰っているね。全部返品しなければ、君も牢に入ることになるのだけど……」
「私には勿体ない品物ばかりでした。すぐにお返しますので、一緒についてきてもらえないでしょうか?」
「ベルン」
「はっ! 何名か俺について来い!!」
エミーリアは、バシリウスからのプレゼントを全て渡した事で、牢へ入るのを免れた。
「君達、よくやってくれた。本来なら叱るべき所だが、君達がいなければ、こうは上手く行かなかっただろう。礼を言うよ。ありがとう」
アウグストが頭を垂れた。
「頭をお上げください!! 私達には勿体無いお言葉にございます」
「アンジェリーナ嬢。君との約束は果たすよ。バシリウスとの婚約は白紙とする。後日改めて、皆に伝わるようにしよう」
「……ありがとう……ございます」
「こちらこそ、こちらの都合で、君を縛ってしまったこと、申し訳なかった。今後、婚約したい相手がいたら、すぐに許可しよう」
そう言い残し、アウグストは去って行った。
ドリスはベルンを見つけ尋ねた。
「お父様! ちょっと聞きたいことが」
「なんだい? 手短に頼むよ」
「王城も襲われたんじゃ……」
「大丈夫。王太子が抑えてくれているはずだ。それに、黒い煙も見えない。無事だったんだろう」
「……良かった」
「お疲れ様、ドリス。まさかあんな植物を操ることが出来るなんて、思わなかったよ」
そう言って、ドリスの頭に手を乗せ、撫でた。
「わ……私はもう、そんな歳では……」
「こう言う機会はなかなかないんだから、いいじゃないか。デリアもさっさと行っちゃうし、ドリスも卒業後には出て行っちゃうんだろう?」
「そ……それは……」
「俺の許しを得ないと、ドリスと結婚なんてさせないからね。そう伝言しておいてくれ」
そう言い残し、ベルンは去って行った。
この事件は、学園パーティー襲撃事件と名付けられ、これをきっかけに、ロザリファの貴族社会に大きな変化が訪れたのだ。




