83 進級パーティー
無事、学年末試験に合格した者達のご褒美は、学年末に開かれるパーティーである。
一年は進級パーティー、二年は卒業パーティーだ。
進級パーティーは学園内で行われるが、卒業パーティーは王城で行われる。
一年間の中で、皆が特に力を入れているイベントである。
この日は、生徒全員が着飾り、社交やダンスなど、出会いに力を入れるのだ。
特にこのパーティーは、婚約者探しに最適なイベントともされ、婚約者のいない者は皆、並々ならぬ力を入れる。
そんな生徒も多い中、ドリス達は自分達で楽しむことにした。
「ドリスのお義兄様に頼んでおいて、正解でしたわ」
「ヴェンデル義兄様のデザイナーさんは、信頼出来るからね」
「私も一緒に仕立ててしまいましたけど、本当に良かったのかしら?」
「予約が取れないデザイナーさんだからね。義兄様に頼まないと仕立ててもくれないから良いんだよ!」
「実は……前々から、その方に仕立てて頂きたかったのですが、ご縁がなくて……夢が叶って感謝しております」
ドリス、ミリィは、ダンス大会のドレスを仕立てる時に、進級パーティーで着るドレスも注文していたのだ。その時同行して居たリーナも、進級パーティー用のドレスを注文した。
ドリスは、ダンス大会と同じで良いと思っていたのだが、ヴェンデル義兄様に、学年末のパーティーのドレスは皆、気合を入れるから、なるべく新しいのを仕立てた方が良いとアドバイスを受けたのだ。
そこで、父のベルンフリートに相談し、ドレスを二着仕立ててもらうことになった。
以前リーナも、ドリスの担当デザイナーの人に仕立ててもらいたいと言っていたので、皆まとめてお願い出来ないか、友人二人を連れてお願いに行ったところ、快諾してもらったのだ。
実はその事がきっかけで、リーナの実家であるブローン領は、大変な騒ぎになったのだが、それはまた別の話。
今、ドリス達は、学園内にある一番広い講堂にいた。
そこでは、皆お待ちかねの、進級パーティーが開かれているのである。
ドリス達は、色合いが違えど、皆、青系のドレスに身を包まれていた。
リーナが皆とお揃いが良いと提案した結果であった。
金髪に碧眼のドリスは、緑を帯びた鮮やかな青のドレス。
黒髪にオレンジの瞳のリーナは、深い湖の様な濃い青のドレス。
淡い金髪にグレーの瞳のミリィは、空の様な淡い群青色のドレス。
形もそれぞれの体型に合わせているが、皆、可愛らしさもあれど、品があり、とても清楚な印象のドレスだった。
「皆、飲み物を取ってきたよ」
ふりかえるとそこには、トールとエル、アンディが立っていた。アンディの後ろには、いつも通りリコが付き従っている。
「ありがとう」
そう言って、それぞれの人からグラスを受け取った。
勿論、学園に通っている間は未成年なので、用意されているのはジュースだ。
「もうそろそろ、ダンスの時間だな」
「そうだね」
すると、急にエルの身体が強張り、「んん!!」と咳払いをした。
「だ……大丈夫? エル」
「ドリス。……俺とダンスを二回は踊って欲しい」
「え!? 二回?」
同じ人と二回以上踊るのは、この国では、婚約者または奥方しかいない。
また、同じ人と三回以上踊る人は、貴女しか見えないという求婚にもなるのだ。
「それって……」
「後日、正式に言いたいんだ」
それで、ドリスはエルが何を言いたいのか、確信した。
「い……いいの?」
「もう……ずっと前から言いたかった。けれど、カミラ様のこともあったから、なかなか言い出せなかった」
急にそう言われてしまったので、ドリスは、内心パニックに陥った。
どうしよう。いきなり胸がドキドキするんだけど!! 胸から何かが……飛び出そう!! 私、普通な顔してるよね? なんか顔が熱く感じるけど……
ドリスはエルの顔をチラッと見ると、顔を真っ赤にして照れていた。
それを見てドリスは益々照れてしまい、でも、離れたくない思いもあるので、思わずエルの袖口をつまんだ。
気づいたエルは、ドリスの手を掴み、軽く握った。
その一部始終を見ていた四人は、ニヤニヤしながらその光景を眺めていた。
「やっとくっつきましたのね」
「本当だな」
「俺、ドリスはもっと鈍感だと思ってた」
「皆様、分かっています? これ、かなりのビッグニュースですのよ!?」
この中で動揺していたのは、ミリィだけだった。
「あぁ。エル人気だもんな」
「えぇ。今日はかなりの取り合いが予想されていたのですけれど……」
エルの周りに令嬢が集まると思いきや、令嬢達は見向きもしなかった。
「結構、きついことをご令嬢達に言ったせいじゃないか?」
ダンス大会のパートナー騒動の時にエルとアンディは、令嬢達に対して、キッパリと選ばないと言ったらしい。
「そうではなく、原因は私だと思いますわ。 失言が恐くなったに決まってます!」
実はそれが、正解だった。
ドリスに手を出すということは、自分の失言が、家に影響を及ぼすので危険だとわかったのである。
触らぬ女神に祟りなし。
皆、自分の婚約者探しに没頭することにしたのである。
ダンスの時間になり、婚約者やパートナーがいる人は、ホールの真ん中に集まって来た。
「行こう」
「うん」
「じゃあ、俺達も」
「はい!」
リーナとアンディを残し、ドリス達はホールの真ん中へ向かった。
「リーナ」
「……踊りたいですけどね。この場は、遠慮しますわ」
リーナには、一応婚約者がいるが、周りも冷めた関係であることを知っている。けれど、それでもリーナが他の男性と踊るのは、あまり好ましくない行為でもあった。
「どうせなら、男に生まれたかったです。そうすれば、踊ることは出来たでしょうに」
「それは困るな」
「はい?」
「俺が、君に求婚出来なくなるからだ」
「……え?」
「婚約がなくなった暁には、私の婚約者となり、ワシューへ来て欲しいと思っている。……嫌か?」
「え……それは。……か……いえ……お願い……出来ますか?」
「約束だ」
グラスを互いに差し出し、カチンと小さく音を鳴らした。
その光景を、リコと精霊達は見ていた。
「アンディ様。漢になりましたねぇ。そう思わないか、エン」
『全くだ』
『ねぇ、ジン。ワシューにはリーナの敵になるような人、いるの?』
『いるかも知れないけど、大丈夫じゃない? リーナは一応、ワシューの公爵家の血も入っているんだし。何よりお似合いだろ?』
『フン! 私の次にね!!』
『ブリギッドらしいな』
「……賑やかになりそうですね」
二人の心から嬉しそうな顔を見て、リコは微笑んだ。
ドリスとエルは、約束通り二回踊ってから、リーナ達の元へ帰って来た。
それはトールとミリィも同じだった。
帰ってくると、なんだかリーナとアンディが良い表情をしている。特にリーナは照れているようだ。
お互い聞くのは野暮と、微笑んでから、食事を摘んだ。
そして、ラストダンスの時間になった。
ダンス大会で優勝した二人が、ホールの真ん中で、優雅に踊る。
周りの人々は、それを見て、うっとりとしていた。
ダンスが終わり、締めの挨拶が近づく中、突然それは起こった。
「アンジェリーナ・ブローン!! 貴様との婚約破棄を宣言する!!」




