表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリスの学園生活が気まま過ぎて困る  作者: 朱村 木杏
第四章 襲撃!! そして……
86/94

82 王城にて


 進級パーティ当日。


 王城では珍しく、朝食を正妃側の王族達と、側女側の王族達、そして王と一緒に取っていた。

 王を中心に、王の左手側に正妃とその子ども達が並び、王の右手側に側女とその子ども達が並んでいる。


 本来は式典などでしか見かけないこの光景に、皆がピリピリとする中、王族達は食事をとっていた。


 正妃クララの隣には、第二王女ユスティーナ、その隣に王太子シュテファン。またその隣に、王太子妃エラと、その息子で三歳になったジークベルトがちょこんと座り、母のエラに手伝ってもらいながら、お行儀良く食べていた。


 本来呼ばれないはずの三歳のジークベルトまでここにいるのは、訳がある。

 なぜだか分からないが、側女側の希望なのだ。


 側女エリーゼの隣には、第一王女であるアリーナ、その隣には第二王子のバシリウスが座っている。

 

 寮にいるはずのバシリウスだが、今日が進級パーティーとのことで、側女エリーゼによって前日に呼び出され、この王城から、パーティー会場の学園へ向かう予定だ。






 今回朝食を一緒に食べる理由は、側女エリーゼの()()()()であった。


「この日は、バシリウスの進級パーティーの日ですもの! この日くらいは私達だけで食事を取りません?」

「私は忙しい。時間を崩したくない。一緒に取りたいのなら、こちらに合わせるが良い」

「嫌ですわ!! クララ様と一緒になるではありませんか!!」

「当たり前だ。彼らは早い」

「何もやっていない割に早いのですね」

「何馬鹿な事を言っている。彼らは仕事がある」

「どこがです? クララ様もユスティーナも何もやっていない……」

「それが馬鹿だと言っているんだ!! クララは、社交をまめにしていて、他国の外交官と話す事もある。ユスティーナは、シュテファンの仕事の手伝いをしている。皆、仕事を持っているんだ。お前らと一緒にするな!!」

「なら!! なぜ、バシリウスがシュテファンの手伝いが出来ないのです? あの子こそすべきでしょう!?」

「能力不足だ。あれを勉強嫌いに育てたのはお前だろう?」


 そう。エリーゼは、子どもの嫌がることを徹底的にさせない親だったのである。


「しかし……!!」

口説(くど)い。一緒に食べたいのなら、私に合わせろ。それが出来ないなら、食べない」

「ならいっそのこと、全員で食べようではありませんか! ジークベルトももう三歳になったことですし」

「まだ三歳だ!」

「バシリウスのお祝いですのよ? ()で祝いたいではありませんか!!」


 側女が王の言葉で開き直り、結局全員で朝、食事を取ることになったのだ。






「今日はバシリウスの進級パーティーだもの。良い天気になって良かったわ!」

「そうですね、母上」

「いっぱい着飾らなきゃね」

「はい、姉上」

「私が見立ててあげるわ」

「それは助かります!」


 バシリウスは、学園の学期末試験をギリギリとはいえ、合格できたのだから、確かに気分も良いだろう。


「誰をエスコートするんだ。バシリウス」


 珍しく話しかけてくる王アウグストに、バシリウスは少し驚きながらも嬉しそうに答えた。


「勿論、エミーリアです」

「はて……それは誰だ?」

「ボーム家の娘ですわ」

「とっても良い子なのですの」

「お前には、婚約者が居たはずだが……」

「あー……そうですね。ただ……私が一緒に居たいのはエミーリアなのです」

「そうね……あの子はちょっと……」

「髪の毛が……ねぇ?」


 この国では、黒髪は大変珍しい。

 それ故、その色を嫌っている者もいる。

 特に過激派側は、敏感だった。


「瞳の色も珍しくて、この国には馴染まないのではなくて?」

「そうですね。この国の色なら、ホッと出来るのですが」


 リーナのオレンジの瞳も、この人達が嫌う原因の様だ。

 確かに、その色もこの国では馴染みがない。

 だからといって、(ないがし)ろにする理由としては、あまりに身勝手な理由だが。


「折角、私が選んだ婚約者だというのに……」

「申し訳ありません」

「そう言えるなら、なぜ、今日のエスコートを頼まない」

「それは……一緒にいるのも辛いからです」

「あれを隣になんて……」

「私も……ありえませんわ」


 王と王妃側の王族達は怒っていた。

 婚約者のリーナを放置しておいて、自分は男爵令嬢と堂々と浮気をしている事に。

 そしてこれで、王の心が決まった。


「そうか……今日は、遅くなるかもしれないが、そちらにも駆けつける予定だ」

「本当ですか!」

「あぁ。一言……いや、長ったらしく、話そうかな?」

「出来れば……簡潔にお願いします」

「なんだ、つまらんな」


 会話が終わると、側女側はすぐに席を立った。


「久々の一緒の朝食、美味しゅうございました。では、バシリウスの準備があるので、これで……」


 エリーゼ、アリーナ、バシリウスは、立ち上がり、退出した。

 過激派側の侍女や侍従達も、それに続く。






 側女側の者達が部屋を出て行くと、シュテファンが口を開いた。


「滑稽ですね」

「全くだ」


 「はぁ……」とアウグストは息を吐いた。


「これで決心がつきましたか?」


 アウグストに、きつい眼差しのシュテファンが問う。


「あぁ。もう分かっていたことだがな。いざとなると……少し来るものがある」

「お祖父様の尻拭いをしただけですよ。父上は」

「そうです。私も分かっているつもりですわ」

「ティーナ……」

「ちゃんとお父様は、私を愛してくださいましたもの。今度は私がそれを返す番です」

「……私は、最低な父親だよ?」

「例えそうだとしても、私を蔑ろには、しなかったではありませんか。褒めてくださったことは、今でも嬉しい思い出です。それに、友人も私に選ばせてくださいました。それだけで十分です」


 ユスティーナは、ドリスの姉、デリアと親友である。

 そこに、アウグストの画策はなかった。

 ……なって欲しいとは思ってはいたが。


「貴方は十分耐えましたわ。私に泣きついたことも、今では良い思い出です」

「こ……こら!! クララ!! 子ども達の前で……」

「おじーさま。おばーさまに、ぎゅーとしてもらったのですか?」


 いつの間にか、シュテファンの息子、ジークベルトがアウグストの側まで来ていた。


「ジーク!? いつの間に」

「申し訳ございません!! ジーク。ダメじゃないか、座ってなきゃ!!」


 エラが立ち上がろうとするのを止め、シュテファンが慌てて、ジークを(いさ)めた。


「申し訳ございません。私達こそ気づくべきでした」


 侍女や侍従達が、頭を下げた。


「良い! 頭を上げろ。ジーク、なんでお祖父様の元に来たんだー?」


 アウグストは猫撫で声でジークを自身の膝に座らせると、ジークは悲しそうな表情で答えた。


「あのね。おじーさまが、なきそうなかおをしてたから! ぎゅーとしてほしい?」

「ジーク……お前は良い子だなぁ!!」


 アウグストは可愛い孫をぎゅーとすると、ジークもぎゅーと返した。

 離すと、ジークはシュンとした顔になった。


「どうしたんだ?」

「わたしは……エリーゼさまたちがきらいです。すきになれなくて……ごめんなさい」

「いいんだよ。黙っているだけ立派だ。これからもそういうことがあっても言ってはいけないよ。本人の前では特にね」

「はい!」


 アウグストは改めて、心を固めた。


 こんな小さな子も耐えているんだ。もう、終わらせよう。






 一方、側女側では、こんなやり取りをしていた。


「母上。このような場を用意して頂き、ありがとうございます」

「いいえ。ダメ元で言って見るものね。もう、こんな食事会は二度とないから」

「えぇ、本当に。何だか向こう側が間抜けに見えたわ」


 それには、皆、クスクスと笑いながらうなずく。


「お母様はよろしくて?」

「良いのよ。政略だしね。新しい相手なんてすぐ見つかるわ。あ! バシリウスには迷惑かけないようにするつもりよ!!」

「お願いします」

「貴方も、覚悟は決まっているの?」

「当然ですよ。姉上は迷っているのですか?」

「いいえ。確認よ」

「今夜は、私達にとって、素晴らしい日になるのだから!!」

「あの人達が牢にいる姿が目に浮かぶわ! ……どうしようかしら?」

「まだ早いですよ」

「えぇ。全ては、今夜……ね」


 側女側は、怪しい笑顔を浮かべた。







 この日に思っていた以上に互いの相手が予想外のことをするとは、誰も思わなかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ