81 試験結果
次の日の放課後。
ドリス達は呼び出され、事の詳細を王城の騎士に聞かれた。
ちなみに来たのは、ドリスの父で、一師団の団長のベルンフリート・アルベルツ子爵とその部下達だった。
「皆様。今日はご協力頂きありがとうございました」
「こちらこそ、出向かなければならない所、足を運んで頂き、感謝する」
アンディが代表で応対していた。
エルは会った時にドリスの父と知って、いつも以上に固くしていた。
「では、我々はこれで失礼します。あ、君達は先に帰っていてくれ。娘に話があるんだ」
騎士達はうなずき、先に退出した。
「皆、怪我はなかったかい?」
「はい! 大丈夫です!!」
「ドリス。お転婆とはいえ、あまり傷を作っちゃいけないよ」
「はい、お父様」
「それと、皆、このことを探りたいだろう?」
それを聞いて、皆の肩がビクッとなった。
「この件は、こちらに任せてもらえないかな?」
穏やかな顔でにっこりと答えたベルンに、皆はたじろぐ。
「それと、ローレンツから伝言。例の情報屋……と言っていたかな? この件は大人が動いているから、手を貸せないとのことだよ」
「なら、私のジンが……」
アンディがそう言った瞬間、ベルンの目が真剣な目になる。
「個人で知る分には構いませんよ。けれど、皆に知らせるのは、緊急性がないもの以外はやめて欲しいのです。一応、これは王命ですよ」
「……そちらのルールに従おう」
「分かってもらえて良かった。この件は危険ですから」
何とも言えない威圧感に、皆、息を飲んだ。
「あ、そうそう。もうすぐ、学年末試験だろう?」
その言葉に、皆はすっかり試験のことを忘れていたと気づいた。
「良い点取って、家族を安心させるんだよ。頑張ってね」
そう言って、ベルンは部屋を後にした。
「釘を刺されてしまったな……」
「そういえば昨日、試験勉強していたの忘れてた。調べる気満々でいたよ」
「あんな出来事があれば、試験のことを忘れてしまうのも、分かりますわ」
うんうんと、皆で同意し合った。
「……大人しく、勉強するか」
「お……俺は、良い成績を取らないと、ドリスのお父上に、嫌われる気がする」
「もう、遅いんじゃない?」
トールがからかうようにそう言ったのは、以前エルはドリスの姉、カミラを貶める発言をし、アルベルツ家関係の女性陣の前で、謝ったということがあったからだ。
「……嘘だろ」
絶望的な顔をしたエルに、ドリスは励ました。
「もう、大丈夫だと思うよ。当事者のカミラ姉様が許しているんだから」
「ドリス、俺は今回一位を目指す」
「……それは、私のライバルになるってこと?」
そう、ドリスはここまでの試験で、連続一位の記録保持者だった。
「私も居ますわよ? エル」
「俺もだ。……分かっているか?」
「……分かっている」
急に皆の空気が変わり、四人の間に見えない雷がバチバチと交差した。
「何でこうなるかな……」
「では、トール様には私が教えますね」
「ありがとう、ミリィ」
「私も……トール様と二人きりで……幸せです」
「ミリィ……」
こんな殺伐とした空気なのに、二人の周りだけピンクのオーラに包まれた。
後にリコがこの日のことを「カオスでした」と話していた。
殺伐とした雰囲気の中で、ピンクのオーラを放つトールとミリィが異常だったと。
その後、それぞれ怒濤の試験勉強をし、学年末試験に臨んだ。
「試験の結果を発表するぞー。また、うちが断トツ一位だ!! これで、総合でうちのクラスが一位になった。本当に……おめでとう!!」
「おぉーー!!」と歓喜の歓声が教室内に響いた。
「順位表はもう張り出してある。あとで確認する様に。ちなみにこのクラスに赤点は一人もいなかった。安心してみると良い」
先生が出て行ってから、すぐにドリスとリーナは順位表を見に行った。
張り出された順位表をその場にいた皆は、食い入る様に見つめた。
一位 ドリス・アルベルツ
二位 アンディ
三位 アンジェリーナ・ブローン
四位 エルヴィン・アピッツ
五位 ミリィ・シューラー
六位 アナトール・ファルトマン
「悔しい!! また三位でしたわ!!」
「良し! 一位を守った!!」
「え? 六位以上って……私達全員?」
「上位独占!?」
そこに、エルとトールとアンディが現れた。
エルは順位表を見た途端、顔を真っ青にし、足から崩れ落ちた。
「美形のこの姿は、爽快だな」
「可哀想じゃないのか?」
「アンディは美形だから、普通の気持ちはわからないよ」
「この顔をたまに面倒だと思うこともあるのだが……」
「……美形は美形で大変だよな」
特にアンディは中性的美形なので、苦労するだろうとトールは勝手に予想した。
「にしても、やっぱり悔しいな。結局ドリスには勝てなかったか」
「えーと。俺は……何これ」
「六位だよ、トール」
「嘘でしょ?」
「その目でもう一度見て見なさいな」
「……へぇ?」
今度はトールが壊れてしまった。
「どうしましたの?」
「ミリィ」
真っ青の顔になりながら、順位表を見て、口をあんぐりと開けて固まっているトールを見て、ミリィは両手を口元に持っていき、肩をビクつかせた。
「まぁ!? トール様に一体何が?」
「これ」
順位表に促すと、納得した。
「上げすぎてしまいましたのね」
「ミリィって教え方、上手なんだね」
「いいえ、トール様の理解が早いのですわ」
「あぁ……それは、俺も教えている時に思った」
復活したエルが、答えると、トールも「嘘」とつぶやいた。
「おめでとう! トール!!」
「これなら、ご両親も満足するでしょうね」
「やり過ぎ~~~~!!」
泣きそうな声でトールは小さく叫んだ。




