78 ダンス練習と本番!!
まずはミリィの自己紹介から始まった。
「シューラー伯爵が次女、ミリィと申します。ミリィとお呼びください」
「ミリィは、この学年の五大美女の一人なんだ」
「何? その五大美女って」
「聞いた事ないわ」
「当事者達が知らないのか……」
そこで、五大美女の話をすると、その中に入っていることを知らなかったドリスとリーナは、驚愕の顔をした。
「聞いてないよ!?」
「私もですわ!!」
「それは仕方ありませんよ。主に男子の間で広がっていた噂ですから」
「あれ? ミリィは知っているの?」
「えぇ。私は、情報屋ですから」
手帳を出して、にっこりと笑顔になった。
「でも、自分がその中の一人って知った時は、恐れ多いと思いました」
「私も。今聞かされても、納得できないよ」
「同じく。自覚はありませんわ」
「この五大美女は、それぞれの階級で一番美人な女子のことだからな。ちなみに男子版もあるぞ」
「そう言えば……その中に入っている、エミーリア様なのですが、最近気になりまして……」
「何か不審な動きでもしているの?」
「彼女とは同じクラスなのです。最初は、積極的にバシリウス殿下にくっついていたのですが、次に殿下のご友人にくっつき出したかと思えば、今では話しかけられるのが億劫という態度でいらして……」
「やっとあの方の本質がわかったのかしら?」
「さぁ? 元々謙虚な姿勢を崩さない方なので、ほんの僅かな変化過ぎて、他の方はお気付きでは無さそうですが……」
「……とりあえず、気をつけた方が良さそうだね。ミリィ。過激派以外の人に接近したら、教えてくれる?」
「勿論です!」
「さ! 気分入れ替えて、踊りますか!」
「だな!!」
エルはドリスに、トールはミリィに、アンディはリーナに、それぞれ手を差し伸べた。
それぞれの手を取って始まった練習は、三者三様。
エルとドリスは、少し速いペースでステップを踏んでいた。
トールとミリィは反対に、ゆったりと、しっかりステップを踏んだ。
アンディとリーナは別格だった。
お互いの息が合っているのか、とても優雅で誰もが見惚れるダンスを踊る。
この二人が大会に出場するなら、確実に優勝するだろう。
だが今はそれが出来ないと分かっていることもあり、皆も見ていて歯痒い思いだった。
「……先生が決まったね! お手本見せて! リーナ、殿下」
「任せて! アンディ」
「あぁ。リーナ」
それからダンス大会までの間、二人の先生にみっちり鍛えてもらい、ドリス達は今までより格段に上手くなっていった。
ついにダンス大会当日を迎えた。
ダンス大会は、参加人数によって、グループ分けが決まる。
今回は、参加人数が少なめなのでグループ分けはされず、全員同じ場で踊って、一回戦、二回戦と進み、最後の決勝戦で三組が争い、順位が決まる。
また、一年と二年は別に行うため、婚約者であろうとも学年違いは認められない。
「ドリス!! ミリィ!! 貴女達なら一位を狙えます!! この私が言うのです!! 存分に力を発揮なさい!!」
「「はい!! リーナ先生!!」」
「エル、トール。最初より、ぎこちなさはなくなったから、思う存分踊ると良い」
「ありがとう、アンディ。付き合ってくれて」
「俺、ダンス苦手だったから、助かったよ」
「……リーナの様に、先生とは言ってくれないんだな」
「リーナ先生に比べたら……アンディはアンディだし……」
ダンスの指導中、リーナは鬼教官かというほど、厳しかった。
それに比べ、アンディは、的確な指示を淡々としていた。
勿論、アンディも先生と呼べる素質があるのだが、リーナが群を抜いていたせいで、指導中はアンディが心の拠り所になっていたのだ。
「じゃ! 行ってくる!!」
「頑張るね!!」
「教えてもらったことは、しっかりやるよ!!」
「リーナ先生のように、優雅に踊るよう心掛けます!!」
そして、二人一組のそれぞれの戦いが始まった。
ドリスのドレスは、瞳に合わせて水色にした。
たまたまだが、エルの瞳の色でもある。
エルも胸から覗くハンカチは、水色だ。
「エル。勝とうね」
「そうだな。少なくとも勝ちたい人ならいる」
「うん……私も」
「……行こうか。ドリス。手を」
「ありがとう」
二人は手を取り合い、指定の位置に立った。
ミリィのドレスは、トールとの相談でグリーンになった。
お互い領地が田舎で、緑が多い地域のため、その色になった。
「何とか形になって良かったよ」
「これでまた入賞をすれば、トール様に注目が集まりますわね……」
「嫉妬?」
「……はっきり言わないでください」
「ミリィさえ良ければ、俺の婚約者にって思っているのに?」
「え!?」
「やる気出た?」
「……出ました!! 絶対入賞……いえ、優勝したいです!!」
「その意気だ。行こう、出番だ」
ミリィはトールの差し出した手を取って、指定の位置へと向かった。
若干、浮き足立った気持ちを抑えながら。
音楽がかかると、皆、一斉に動き出した。
例年より少ないとは言え、ぶつかる可能性もある人数の多さだ。
慎重に踊り過ぎて、力を発揮出来ていない者もチラホラいる。
そんな中、ドリスとエル、ミリィとトールは、思う存分に力を出した。
曲が終わり、皆席に戻ると、しばらくしてから第一回戦の結果が発表された。
「審査の結果を発表します。呼ばれた組は、第二回戦へと進めます。…………エルヴィン・アピッツ、ドリス・アルベルツ組…………アナトール・ファルトマン、ミリィ・シューラー組……」
「皆様! よくやりましたわ!!」
「文句無しだ」
「ありがとう!!」
「ぶつかりそうで焦ったー……」
出場者控え室がある廊下で、リーナとアンディに労われ、ちょっと照れる出場者組。
しかし、リーナの渋い顔が選手達を動揺させた。
「どうした? リーナ」
「おい、何で出場者ではないお前がここに居る」
ドリス達の後ろからやって来たのは、この国の第二王子のバシリウスとダンスパートナーであるエミーリアだった。
「友人達を労って何が悪いのでしょう?」
「お前が、ここにいることこそ悪い。俺の前から消えて欲しいね」
その言葉に、ドリス達も怒りの形相を向けた。
「ん? なんだ。その顔は」
「バシリウス様、休憩時間が無くなってしまいます。私……疲れてしまいまして……」
「ごめん、エミーリア。こんな奴らに付き合っている暇なんて無いんだった。さぁ! すぐに控え室へ」
バシリウスはそう言って、エミーリアの肩を抱き、控え室へと入っていった。
残されたドリス達の思いは一つだった。
打倒! バシリウス!!
廊下で皆、静かに燃えていた。




