77 リーナの怒りとミリィ合流!
啖呵を切った女子は、自分が言ってしまったことの意味を理解したようで、徐々に顔が青くなってしまった。
「い……今のは、言葉の綾というもので……」
「貴女、確かご実家は侯爵家よね? 最近、不況らしいと伺っているわ。それに比べて、ドリスのアルベルツ家は、お近づきになりたい貴族が多くて困っている様子。我が家も、是非にと手を挙げたわ」
「……ブローン公爵家が?」
「潰すという言葉を使うなんて……私は散々、ドリスの友人と言っていたのに、聞いていらっしゃらなかったのね。私がドリスの味方というのは分かることでしょう? 貴女の発言は、ブローン公爵家を敵に回したの。……お分かり?」
不敵に笑うリーナに、その場に居た皆が恐怖を覚えた。
「ねぇ。ドリスはどうしたい?」
リーナに尋ねられたので、少し考えてから、ドリスは口を開いた。
「私をエルのダンス大会のパートナーと認めて、付きまとい行為等をやめてくだされば、先ほどの発言は不問とします」
それは正直、彼女達のプライドが許さない行為だった。
しかし、これは願ってもいない提案。
その場に居た女子はすぐにうなづき、リーダー格の女子も渋々うなずいた。
女子達が黙ってさっさと去っていった後、二人はため息をついた。
「ありがとうリーナ! 助かった~」
するとリーナは、怒りの形相を浮かべていた。
「エルには、お説教が必要のようね……」
「リーナ…?」
「ドリス。これは貴女のせいじゃないわ。全部エルのせいよ。ドリスが下位貴族だってこと、忘れているわね。ドリスに彼女達が向かないように、仕向ける必要もあったのよ。もう!! 抜けてるんだから!!」
「リーナがまるで、私の騎士のようで格好良かった。女神だったよ!!」
「当然でしょ? けれど、ドリスも今後、注意してね」
「はい!!」
「アイリスもよ!」
『任されました!!』
『さすが私のリーナ!!』
ブリギッドは満面の笑みで、リーナを褒め称えた。
ドリスとリーナは自分達のクラスに着くと、食堂を早くに出て行ったため、そんなことが起きていたとは全く知らないボンクラが、ドリスのクラスを訪れた。
「ドリス、リーナ。今日、ダンスの練習……」
二人に睨まれて、エルは肩を竦ませた。
「エル? ダンスの練習がどうしたの?」
「あ……うん。うちのクラスでやらないか? 教室の借用申請はもう出してあるから」
「わかったわ、エル。後で話があるのだけれど……」
「わ……わかった。後で……」
二人が怒っている意味がわからず、エルはその場を立ち去った。
エルは自分の教室に戻ると、さっきあった事をトールとアンディ、侍従のリコに話した。
「え? 二人が怒ってた?」
「あぁ……覚えがなくて……」
すると、トールとリコが苦い顔をしながら合わせた。
「やっぱり」
「ですね」
二人にしか分からない会話に、エルとアンディは首を傾げた。
トールが分からない二人のために、解説を始める。
「朝にエルは、女子達を追い払っただろ? 彼女達はその怒りをドリスにぶつけたんだろうな。きっと。……もしかしたら、脅したかもしれない」
「え……」
「エル。もしかして、ドリスに近づくなって言わなかったの?」
「……言ってないな」
「だからだよ。忘れてない? ドリスは下位貴族だよ」
それを聞いた瞬間、エルの顔が青くなった。
「それなら、俺も同罪だ。その場に居たのに、気づかなかった」
「アンディも、エルも。大事な人を守りたい時は、先回りして封じる。言質を取っとけば、ある程度はどうにかなることもあるんだ。多分ドリスは、侯爵位や伯爵位の子にやられたんだ。リーナが味方で良かったな」
リーナは公爵令嬢であり、貴族の階級もトップだった。
「リーナが守って、何とかなったんだろう。……放課後は二人で一緒に怒られたら?」
苦笑するトールに、エルとアンディは暗い影がかかったような顔になった。
放課後、ドリスとリーナは、エル達のクラスを訪れた。
「まず、私達が怒っている理由をお話しいたしますわ」
リーナは、昼に起こった出来事を語った。
見る見る内に顔が青くなっていくエルとアンディを見て、リーナの瞳がつり上がった。
「よぉく、分かりましたわ。お二人とも、お仕置きして欲しいようですわね」
そしてリーナは、激しく二人を叱り倒した。
そんな二人を尻目に、トールはドリスと呑気に話している。
「大変だったな、ドリス」
「……トールはその場に居なかったの?」
「教室申請しに行ってたから、俺はその場には居なかったよ」
すると、一人の令嬢が教室に入ってきた。
その令嬢は、緩いウェーブの淡い金髪に、グレーの瞳の美女だった。
「あ、ミリィ!」
「アナトール様」
「トールで良いよ」
そう言うと、ミリィは動揺したのか、顔が真っ赤になった。
「では……ト……トト……トォー……ル?」
真っ赤な顔をして、カミカミのミリィに、トールは心の中で少し悶えた。
「……言いにくかったら、様付けで良いや」
それを聞いて、ほっと一息ついたミリィは、安心した顔で言い直した。
「では、トール様」
横で見ていたドリスはたまらず、トールの背中を手でパシッと叩いた。
「っ痛!!」
「もう! トールったら!! こういうことは、二人っきりでやってよ!!」
「だからって叩くことないじゃん!!」
「あ……ゴメン。癖で」
ドリスは元々、ご近所の平民のおば様方と交流があり、おば様方を見て育ってしまったので、気を抜いてしまうと今だにその癖が抜けないでいたのだ。
「まぁいいけど。……領民のおば様方を思い出すよ。もっと淑女らしくしろよ」
「ごめんなさい!!」
「お待たせしました、ドリス。始めましょう」
リーナの後ろにいた二人は、ゲッソリした顔で足元がおぼつかず、フラフラしていた。
「……そんな状態で、ダンスなんて出来るの?」
「やる!!」
「……やるに決まっている」
エルとアンディの目から、やらせて頂きますと訴えかけられている気がした。




