07 高貴なお姫様。アンジェリーナ・ブローン公爵令嬢
この話からアンジェリーナと接触しますが、作者の知識がなく、愛称をリーナとしました。
本来はアンジーとの事ですが、アンジェから始まる名前が多いので、差別化したいなと思い、そんな愛称になりました。
実際はない架空の愛称かもしれませんが、どうか疑問に思わないでください。
入学式の翌日から授業は始まった。
一年生は基礎科目と呼ばれる、主に一般常識に当たる教科を学ぶことになる。
国語である、ロザリファ語。算術、歴史、地理、現象という科学的に立証が出来ることを教わる授業や、外国語として、ミーシェ語、ドラッファルグ語も学ぶ。
また、体育という体を動かす授業や、馬術、ダンス、マナーの授業もある。
男子はこの他に剣術があり、女子にはお裁縫がある。
その日の授業の中に、昨日合格を勝ち取った授業があったので、その時間だけ図書室で自習していた。
終業の時間が終わり、靴箱へ向かう途中、アンジェリーナが一人でいる所を発見した。
「よし!」と意気込んで、ドリスは立ち向かうことにした。
基本、下位の者が上位の者に話しかけてはならない。
だが、ここは学園。意を決して声をかけた。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
「……何かしら?」
「失礼致しました。私は、ドリス・アルベルツです。アンジェリーナ様に、質問があって参りました」
「質問?」
「はい。アンジェリーナ様は、精霊が視えるのですか?」
この質問に、アンジェリーナは目を見開いた。
「どうして、そんな質問を?」
「私は、精霊を視るのが夢なのです! 毎日祈ってはいるのですが、視える兆しがありません。アンジェリーナ様なら、視えるかもと思ったのです」
「あぁ……そういうことね」
ホッとしたような、穏やかな顔になった。
それは、教室ではあまり見せない素の表情の様だ。
「残念だけど、私も視えないの。母から教わる前に、倒れたのでそのまま……祈り続けてはいるのだけれどね」
「あ……申し訳ございません。そのような事情とは知らず……」
「いいの! 面白半分で聞いて来る人じゃないだけ良いわ」
「そういう方もいるのですね」
ドリスが素直にそう言うと、アンジェリーナはクスッと笑いながら言った。
「今日、一部の授業を、おさぼりになっていた方だったから、最初はそう思ったのよ」
「さぼっていませんよ?」
「え? どういうこと?」
きょとんとした顔で、ドリスがそう言うと、アンジェリーナは訝しげになる。
「私はもう、その授業の単位をとったのです。昨日、ホイルス先生に試験をしてもらいました」
「え!? ドラッファルグ語の授業を?」
「ミーシェ語もです。どちらも満点でした」
アンジェリーナは、口を丸の形で固まってしまった。
ミーシェ語とドラッファルグ語は、この世界の三大言語に入る。
特に、ドラッファルグ語は難解で、覚えられない人がほとんどだ。
なので、この学園では、筆記が出来れば良しとしている。
ミーシェ語は一番簡単で、使いやすい言語であることから、覚える人も多い。試験には筆記と聞き取りが出る。
三大言語のもう一つが、我が国のロザリファ語だ。授業で国語は必ず出なければいけない授業なので、免除はさすがに無理だった。
「え……っと、優秀な家庭教師の方がいましたの?」
「家庭教師というか……母に教わりました。学園に通っていたときは、才女と言われていたそうで」
「まさか! 貴女のお母様は、アマーリア・ブレンターノ様ではありません!?」
「そうです。今は、アマーリア・アルベルツですけれども」
「私の憧れの方なのです! ……アルベルツ!? あ! お姉様のカミラ・アルベルツ様には、昔、パーティーで助けて頂いたことがありまして……」
「カミラ姉様に!? そうなのですか?」
「えぇ! 迷子になっていたところを助けて頂いたの」
「そんなことがあったのですね」
思わぬ縁にドリスが驚いていると、アンジェリーナが緊張している顔で、お願いをしてきた。
「ドリス様! 私と……よかったら、ご友人になってくださいませんか?」
「え!? 私、子爵位ですよ!? よろしいのですか?」
「良いに決まっています! 私の家族は、ドリス様の家族の方を好意的に見ておりますので、絶対大丈夫ですわ!」
「私の方こそお願いいたします!」
こうしてドリスは、アンジェリーナ・ブローン公爵令嬢と友人になった。
この日から、大きな後ろ盾が出来たことを、ドリスはまだ、気付いていない。
やったー! 初めて学園で友人ができたよ!! 嬉しい~~!!
「よかったー。私、同じ下位貴族の友人も出来なくて……」
「私もよ」
「アンジェリーナ様にはいらっしゃるではないですか?」
「二人きりのときは、敬語はやめて。 名前もその時は、リーナで良いわ」
「なら……リーナは、三人組の子がいるでしょ?」
「彼女達は、私に付きまとって来るだけよ! 友人ではないの」
「そういうことなんだ。 昨日話しかけようとしたら、三人組が来たから、話しかけられなかったの。 そのときに、リーナが暗い顔になったから、どうしてかなって思って」
「顔に出ちゃっていたのはまずいわね。しっかり引き締めないと」
「それより、笑顔でいた方がいいんじゃなくて?」
「それが出来れば、苦労はしないわよ」
そういえばアンジェリーナは、ずっと真顔でいることが多い。私の姉のカミラも、緊張するとそんな顔になってしまう。
「カミラ姉様に似ているね」
「カミラ様にも、お揃いって言われたわ」
「ふふっ……リーナってなかなか面白い人だね」
「私と平然と話せるドリスもすごいと思うわ」
ドリスとリーナ、2人は顔を向き合って、いつの間にか笑い合っていた。
この縁は、長く続きそうな気がする。
ドリスはやっと、学園に通うことが楽しくなって来た。