75 ずっと見ていました!!
ついに!! トールを見ていた、とある令嬢の登場です!!
トールは、情報収集に勤しんでいた。
ふーん。ここがくっついたのは意外だったなぁ。互いに婚約者がいる者同士って……じゃあ、あの二人は政略か。確かに冷えてる感じだもんな。お! この二人か。婚約者同士ではないけど、良いパートナーじゃないか!
現在、ダンス大会の申請期間。
それがきっかけで、パートナーが婚約者になることもあるため、トールは情報収集に余念がなかった。
また、婚約者同士の二人に愛がなく、政略的な婚約であることも分かるので、背後にある家がどんな状態かも知ることも出来るのだった。
やっぱりこの時期は忙しいなぁ。俺は、婚約者なんていないから、気楽でいいけど
そんなことを思っているが、当然強がりである。
出来ることなら、可愛い婚約者と一緒に出たい。
けれど、自分は三男であり、今後、貴族として社交界に入れるかも怪しい。
誰も、平民になるかも知れない人を誘うことはないと思っていた。
……この時までは。
「やっと……見つけましたわ! アナトール様!」
申請場所から少し離れた所を歩いていると、背後から声が聞こえた。
トールが振り向くと、そこには、思いも寄らない人が立っていた。
「な……なんでしょう? ミリィ嬢」
トールを呼び止めたのは、何と、この学年の五大美女の一人。
ミリィ・シューラー伯爵令嬢、その人だった。
ミリィ・シューラー伯爵令嬢。
シューラー伯爵の次女で、いつもテストは十番以内という、才女としても知られている。
緩いウェーブの淡い金髪に、グレーの瞳の美女。
シューラー伯爵家はその昔、王女が降下した家としても知られているほどの、名門だ。
淡い金髪はその名残だろう。
彼女の知的で、ややタレ目の穏やかな顔は、見る者に憧れを抱かせ、男女共に密かな人気があった。
なんでそんな令嬢が、俺を探しているんだ!?
トールが心の中で混乱していると、ミリィが近づいてきた。
「あ……あの! その……アナトール様に……お願いがありまして……」
それを聞いて、トールはピンと来た。
……あ……あー! なるほどね。エルをダンスパーティーに誘いたいんだけど、直接じゃ断られるし、恥ずかしいから、俺に取り持って欲しいと……。あ、そういうこと
「わ……私と! ダンスパーティーに出てくださいませんか?」
わかった。エルと……って……え!?
「お……俺!?」
「はい! アナトール様と……ダメでしょうか?」
「え……っと」
「アナトール様は、婚約者がいらっしゃらないし、勇気を出せばって思いまして……」
「……なんで俺に婚約者がいないって断言出来るんだ?」
「それは、調べれば分かることですわ」
すると、俺と同じような手帳をポケットから取り出した。
「アナトール・ファルトマン伯爵子息。
・ファルトマン伯爵の三男。
・茶髪に凛々しい眉。碧眼にメガネ。
・初代ファルトマン夫人にとてもよく似て、剣にも明るい殿方。
・情報屋としても知られている。
・剣術大会で準優勝。乗馬大会で優勝。先日の中間試験で十位を取った事から、文武両道。
・三男であるため、後継ではないので、あまり婚約者に手をあげる者はいない。
・照れた時のだらしない顔はだらしなさすぎて、すごいと分かっていても遠慮したいという令嬢が続出。
……と、いう調査結果に至りました」
「……なんで……俺を?」
「そ……それは……」
若干顔が青くなったトールに対し、ミリィは顔を赤くし、モジモジとした仕草をしながら手帳で口元を隠した。
「剣術大会の時に、アナトール様に興味を持ちましたの。何で同じ情報屋なのに、剣術にも優れて、乗馬もすごいなんて……!! 私、恋に落ちてしまいました」
「え? 情報屋なの?」
「はい。私、噂がとても好きなのですわ。それに、創作する時にも役立ちますの。私の目標は、小説家になることで、色んな情報を小説に生かしたいのです! 勿論、新聞などに情報を伝えることにも興味がありますわ!」
トールは、恋に落ちたという事実より、ミリィが情報屋であるという事に興味を持った。
あまり知られてはいないが、極少数の令嬢にしか、情報を渡していないことから、ミリィが情報屋だと知る人は少ない。
よって、トールが知らないのも、無理はないのだ。
「俺に恋に落ちたって言っているけど、表面しか見てないよね? それに、もしかしたら平民になる俺に、メリットなんてないと思うんだけど」
「……私の発言で傷ついた点があるなら、謝りますわ」
全くだよ。最後のだらしない顔の件は知りたくなかった
「メリットなんて、考えておりません。この人となら、私の情報収集癖をご存知になっても、受け入れてくれるのではと思ったのです。……それに、アナトール様こそ、私のことを表面しかご覧になっていないのではありませんか?」
「それは……」
「私、良く言われますの。思っていた人と違ったって。私、顔と性格が合っていないのです。それが悩みでもありました。……やっぱり、引きましたよね?」
引きつった笑顔をするミリィに、トールは少し後悔した。
俺が、ミリィ嬢にこんな笑顔を……
「ミリィ嬢。……ミリィ」
「はい」
「俺のダンス大会のパートナーになってくださいませんか?」
ミリィにひざまずき、トールは手を差し伸べた。
「は……はい! 喜んで!!」
急いで手を掴んで赤面したミリィに、トールは愛しそうに微笑んだ。
「これから、互いのことを知っていこう。お互いまだ、知らないことだらけだし。とりあえず、これから申請場所へ行こうか?」
「はい! よろしくお願いします!!」
そこには、淑女らしくない、満面の笑みのミリィの顔があった。




