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ドリスの学園生活が気まま過ぎて困る  作者: 朱村 木杏
第三章 大会盛り沢山!!
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74 ダンス大会のパートナー問題


 乗馬大会が終わり、ホッとしているのも束の間。

 今、生徒達はある問題に悩んでいる者が多かった。


 ある日、ドリスの担任ボイス先生が、皆に向かってダンス大会の要項を発表した。


「もうそろそろ、ダンス大会の時期だ。知っていると思うが、男女一組のパートナーのみが、出場することができる。

 婚約者同士が通例だが、婚約者じゃなくてもお互いに同意していれば、出場可能だ。

 優勝者は、年度末に開かれる進級パーティーのトリを務める権利を与えられる。

 これが今年最後の大会だ。頑張ってくれ。

 あぁ!! それと、大会後すぐに、学年末試験があることを忘れるなよ!」


 これは数日前の出来事。

 発表を聞いた瞬間、皆、ダンス大会のことで、頭を悩ませていたのだ。






「ドリス! エルと出場しませんの?」


 目をキラキラと輝かせながら、ドリスを見つめるリーナにタジタジになった。

 しかも、リーナの瞳はオレンジ色なので、余計にキラキラして見える。


「……分からない」

「こちらから、誘ってみては?」

「お誘いなんて、いっぱいありそうじゃない」


 エルは今や、婚約者にしたい男子ナンバーワンを手にしているほど、人気者になってしまった。

 剣術大会、乗馬大会でも好成績を残し、テストでも十位以内には入っている。なので、乗馬大会の後は、常に女の子がエルの周りにいて、いつの間にか、遠い存在になってしまった。


「それに最近……会ってないし」

「私この後、アンディと精霊授業をするのですけど、その時にエルへの伝言をお伝えしましょうか?」

「……ううん。良い。ありがとね、リーナ」

「ドリス……」

「それよりリーナは?」

「……私は、パスですわ」

「アンディは?」

「……ドリス。私、これでも婚約者が居ますのよ? 婚約者を差し置いて、出る訳には参りませんわ」

「その婚約者は、他の子と出るんじゃない?」

「私がアンディと出たら、ふしだらな女として、噂になりますわ。公爵家にも傷がつくのです。……いつもいつも。損をするのは女の方です! 今の私には、選ぶ自由がないの!!」

「……リーナ」

「けれど、練習は出来ますわよね!」

「……そうだね」






 精霊授業に向かったリーナを見送り、ドリスは久々にある場所へ向かった。


 カラカラと引き戸を開ける。

 ここは、エルと出会った温室だ。

 しばらく来て居なかったが、たまに気分を落ち着かせたい時に来て居た。ここへ来ると、アイリスの調子も良くなるので、どちらにも得なのだ。


 ベンチに座ろうとすると、先客がいた。


「エル!?」

「……ん? ……………………ドリス!?」


 ベンチで寝ていたエルが飛び起きた。


「どうしたの?」

「い……いや。最近、女子が集まって来て、息苦しいから……ここなら来ないと思って……」

「そうだったんだ。……大分お疲れ?」

「……かなり」

「そっか……」


 少し沈黙が流れた。


「ドリス、ここ座れよ」

「あ……うん」


 ドリスがエルの隣に座ると、何故か身体がさっきより熱くなるのを感じる。


「そういえば! エルはダンス大会に出場するの?」

「ドリスは?」

「まだ」


 すると、意を決した様にエルは立ち上がり、ドリスの前に立って、ひざまづき、手を差し出した。


「……ドリス。俺の……ダンス大会のパートナーになってください!!」

「ふぇ!? ……え? 誰か他の人がパートナーになるんじゃ……」

「ドリス以外とする気はない!! ……ドリスが良いんだ!!」

「……はい」


 エルの手を取ると、エルが顔を真っ赤にさせながら、震えていた。


「……ダメかと思った」

 

 片手で顔を覆いながら立ち上がり、弱々しい声を出す。

 その姿に、ドリスはエルを愛おしく思った。


「エルじゃなかったら……断ってた」

「え……」


 エルが片手を顔から離すと、ドリスはうつむきながら、顔を赤くしている。


「じゃあ! すぐに、大会に応募しよう!!」

「……うん!」


 二人は手を繋いで、大会の申請場所へ急いだ。







 精霊授業をしていたリーナは、わざと傷つけたアンディの手を治す訓練をしていた。


「もう! わざと傷つけるなんて!」

「たまたま紙で切っただけだ。気にするな!」

「いえ、紙でわざと……」

「リコ!!」

「私の授業のためとはいえ……もうやらないでください」

「そうですよ。傷つけるなら、私を……」

「リコさんも!!」

「……分かった。では、これを治してくれ」

「……はい。ブリギッド、お願い。治してくれる?」

『うん! リーナの頼みならチャチャっとやっちゃうよ!!』


 リーナに傷がある所に向かって、手をかざす様指示したブリギッドは、力を使った。


 ボッ!


 炎がアンディの傷があるところに灯った。

 普通なら、慌てるところではあるが、これは浄化の炎と言って、穢れを浄化したり、体力を回復したり、治癒にも効果があるものだ。


 アンディの手の切り傷は、見る見るうちに治っていき、綺麗に治ったところで炎が消えた。


「やりましたわ! ありがとう! ブリギッド!」

『当然!』


 えっへんとブリギッドが、鼻を高くしていると、アンディは冷静に口を開いた。


「リーナ、手を見せてくれ」

「はい?」


 アンディはリーナの手を取り、何かを確認している。


「うん。移ってはいない様だ。成功だな」

「移るって……傷が移ることがあるんですの!?」

「前も言っただろう。自分に傷を移してから治す術者も居るんだよ。リーナの場合、正しく治らなかった場合に起こるかもしれないことだ。ちゃんと覚えててくれ」

「分かりましたわ」

『そんなヘマしないもん』

「万が一の話だよ。これで今日の授業は終了だ」

「ありがとうございました」


 精霊の授業が終了すると、リーナは気になっている事をアンディに尋ねた。


「アンディはダンス大会……出ますの?」

「いや、今回は見送るよ」

「誰か居ないのですか? 人気がありそうですけれど」

「積極的な女子に押されて困っているよ。けれど、私は本当に踊りたいと思う相手とそうなりたい」


 リーナの瞳を見て、アンディは真面目な顔を向ける。


「リーナ。私はいつか、君と踊れればと思っている」

「え……」

「君には婚約者がいるから、表立って誘えないだけだ。君を色んな意味で傷つける訳にはいかないからな」

「そ……それは……」

「もし、婚約が無くなることがあれば、すぐに私は君を婚約者にしたい」

「え……えぇ!?」


 リーナの顔が真っ赤になった。


「ワシューに来る気はあるか?」

「行きたいとは……思っていました。けれど……」

「焦らなくていい。どうなるかは分からないからな」


 それを聞いて、シュンとなったリーナを見て、アンディはクスリと笑う。


「諦めた訳ではない。それだけは覚えていてくれ」

「は……はい」





 その様子を見ていたリコは、アンディの成長に心の中で涙していた。


 やっと、腹黒坊ちゃんなアンディ様にも、春が……!!


 二人の周りには、暖かな空気を纏っていた。








この時期にリーナとアンディが二人きりになるのは、危ないのではないか? と思った人もいるでしょう。

しかし、この時期はダンス大会のパートナー探しに皆、奔走しています。

二人が友人として一緒にいることを知っている周りは、それどころではないのです。

もう当たり前の光景になりつつあるので、二人きりになっても、騒ぐ人はいないのでした。

まぁ……ご都合主義だから出来ることかもしれませんね。

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