73 過激派側ではその頃
乗馬大会が終わり、皆が一息ついている頃、納得がいかないとばかりに怒っている、過激派三人娘がいた。
「どうして私たちがこんなことをしなければなりませんの!?」
「全くですわ!」
「当然のことをしたまでだと言うのに!!」
彼女たちの名前は、アリアネ・グロッグ侯爵令嬢、ベルタ・ビットナー伯爵令嬢、グロリア・ケール伯爵令嬢と言った。
今現在、三人は、乗馬大会での買収行為の罰として、厩舎の掃除をしていた。
ドリスは、下位貴族なのに目立ちすぎる!!
出る杭は打たれると言うように、ドリスの身に余る行為に上位貴族、特に過激派である三人組は我慢ならず、杭を打ったのだ。
ドリスの乗る予定の馬に、興奮作用のある草を嗅がせ、ドリスを危険に晒そうとした。
結果的にはそうはならなかった事も考慮され、退学は免れたが、買収行為は違反。罰として、毎日、厩舎の掃除をすることになった。
ちなみに、買収された調教師は解雇されている。
今、学園を退学になったら、彼女達は間違いなく廃嫡される。
それが嫌で、渋々、厩舎の掃除をしているのだ。
「こんな臭いところ、もう、居たくありませんわ!!」
「けれど、やらないと廃嫡ですよ」
「仕方がありません。やらないと、行く宛が無いのですから」
嫌々、手を動かす三人であった。
一方、第二王子バシリウスは、寮の自室でイラついていた。
「クソっ!! 何で虫ばっかり評価が高いんだ!」
リーナは成績優秀で、今までの試験も三位以内をキープしている。
しかも、乗馬大会にも出場し、二回戦まで進んだ。
バシリウスは今のところ、三十位が試験の最高順位だ。
剣術も乗馬も、大会には程遠かった。
「何で、女のくせに、俺より目立ちやがって! アンディも同じ虫の癖に俺よりも……クソっ!!」
「……殿下」
「おい! あれは本当に進んでいるんだろうな?」
「はい。滞りなく」
「……私には、それを教えてはくれないのか?」
「どんなものにも適性というものがございます。……殿下と私には、ありませんでした」
「お前のことは聞いていない。で? その適性がある者に指示は出したのか?」
「もう既に出しておりますが……今は静観した方がいいとの結論に至ったと」
「早く消えて欲しいのに……父上はこのことはバレていなんだよな?」
「はっ! それは細心の注意を払っております」
「なら良い。俺も手を出すなと言われているしな。だが、歯がゆい」
「あ! バシリウス殿下。エミーリア様がもうそろそろご到着されるかと」
「あ、もうそんな時間か! 出迎えの準備を」
「はっ!」
侍従は、事前に用意していたお菓子を素早くテーブルに並べた。
するとドアから、ノック音が聞こえた。
「はい」
「……エミーリアです」
カチャと扉が開いて、春の風が吹き込む様な、穏やかな空気に包まれた。
「エミーリア!!」
「バシリウス様……私、この階自体立ち入り禁止のはずですが……どうして通れたので……」
「あぁ、それは警備兵に言っておいたからね。待っていたよ! さ! こちらへ。お菓子を用意したんだ。一緒にお茶をしよう!」
「……はい」
席に着いて、二人でお茶を楽しむ。
「そうだ! 君に似合いそうなネックレスを見つけたんだ。受け取ってくれる?」
「バシリウス様。大変ありがたいのですが、もう、たくさん頂いておりますので……」
「気にするな! 私がもらって欲しい」
「……はい」
「エミーリア。君は欲がなさ過ぎる! もう少し我儘言っても良いんだぞ」
「もう、十分良くしてもらっています……」
「何かあったら、私にすぐ言うんだ。わかった?」
エミーリアはおどつきながらも、うなずいた。
とある場所のとある部屋に、二つの影があった。
「進捗はどうだ?」
「脅しはしているが、向こうも力をつけてきていて、おいそれと手が出せないレベルになっている」
「虫を攻撃したらどうかな?」
「それも得策とは言えない。しかも、何やら入れ知恵をされている様で、今後厄介な存在になりつつある」
「そうか……」
「今は、警戒されているだろう。気を抜いたところを狙わねばならない」
「なら、しばらくは無理だな。それまでに、こちらを整えておくか。まぁ、隙が出来たらいつでもやってくれて構わないぞ」
「仰せのままに」
一人の影が去ると、もう一人の影がため息をついた。
バシリウスは、エミーリアとかいう男爵令嬢に夢中……か。これだけ操りやすい駒はないな。王は良いものを創ってくれた。
それに比べ……今は、静観しろと言ったのに、手を出すなんて……。躾がなっていないなぁ。しかも、こちらで用意した金で、散財するとは……。しばらく黙っていてもらうか」
すると、先ほどとは違う一人の影が、突然浮かび上がった魔法陣から現れた。
「これは……如何致しましたか?」
「こちらは、もう少しで完成といったところだ。其方は?」
「残念ながら……」
「もう少ししたら、手練れを派遣しよう」
「おぉ! ありがたい!!」
「この国と結べるのは、我々にとって悲願だからな」
「必ずや、達成致しましょう」
一人の影が魔法陣の中へ消えると、もう一人の影がほくそ笑んだ。
こちらも急いで準備しなければ!
一人の影は、すぐに仲間に指示を出した。
「すぐに過激派側に通達を」
一人の影が差し出したリストの中には、過激派側の現役の大臣、有力貴族、騎士団に至っては、そのトップである元帥も含まれていた。
「あ! 待て。 通達する前に娘を呼んでくれ」
「かしこまりました」
執事が出て行ってしばらく経つと、十五歳くらいの女が部屋に入ってきた。
「失礼致します。お呼びですか? お父様」
「あぁ。例の件、励んでいるか?」
「えぇ。ですが、なかなか思い通りには……」
「躾は確かに大変だな。だが、必要なことだ。お前にとっても、この国にとっても」
「承知しております」
「あちら側の準備は整いつつあるとのことだ。……後は、分かるな?」
「はい、お父様」
女はにっこりと微笑んだ。
そんな娘をみて、一人の影は結構とばかりに、微笑みながらうなずいた。




