70 乗馬大会本番です!!
乗馬大会は、学園の授業でも使用される、乗馬場で行われた。
出場者は、出場順に乗馬の技術を披露する。
審査員の教師達によって、次に進める選手の発表をされる。
一回戦は出場者全員で披露し、その中の上位六名が二回戦へ進出出来る。その中の上位三名が最終戦へと進むことが出来る。勿論、進出するごとに、段々難易度が上がっていく。
最終的に上位三名で競い、順位を決める大会なのだ。
馬は個人が慣れ親しんでいる馬ではなく、学園所有の馬を使って行われる。
誰がどの馬に当たるかは分からないので、選手達は引き合わされて初めて、自分と相性が良い馬なのかが分かる。
大体において、女子には気性が荒い馬はあてがわれないことがほとんどである。しかし、男子の実力者にはそんな馬があてがわれることもある。
この大会は運も必要なのだ。
「ドリス! 今日はライバルですわよ!」
「勿論! 勝負だよ、リーナ!」
女性陣が火花を散らす中、男性陣は肩の力が抜けている。
「トール。調子は?」
「ん~……馬の調子次第だな」
「トールのことを聞いたのだが……」
「俺の調子が良くたって、馬の調子が悪けりゃ意味ないから。こればかりは、相性の問題もあるし」
「そうだぞ、アンディ。以前、うちの領の兵士に聞いた事がある」
恋人が出来たばかりで浮かれた兵士が、彼女に良いところを見せようと、少し難易度が高い障害に挑戦したら、途中で馬が怒って、言う事を聞かなくなってしまった。
その馬は雌で、兵士の事が好きだったらしく、他の女にかまけた兵士が許せなかったらしい。
「だから、俺はいつも馬に乗る時は、平常心を心掛けている」
「エルの言う通り! 馬に気持ちが伝わるからな。勿論、緊張も伝わるぞ」
「そこまで考えていなかった。確かに、今思えば、私が緊張している時の馬の動きが、硬かった気が……」
「馬との相性に気がいく人が多いんだよな。頻繁に馬に乗る機会があれば分かるけど、分からない人も多い。特に学園のは、自分の馬ではないから、引き合わされた馬に合わせて、動かなきゃいけない」
「それが鍵だよな。気性が荒い性格だと、従わせるのが難しい」
「気分が乗らない馬も難しいよ。その辺は人と同じだよな」
今回乗る馬は、比較的大人しく、扱いやすい馬が多かった。しかし、気性の荒い馬もいない訳ではない。扱いやすい馬の中に調子がいまいちな馬が居り、その代役で出場する事になったそうだ。
「馬は教師の裁量で決まるからな。俺とエルは、その馬になりそうだ」
「俺はどんな馬でも良い。領だと、自分の馬なんて居なかったし」
「アピッツ領に行った時に、乗っていたのは違うのか?」
「あぁ。正確に言うと、兵士のだ。皆のために比較的大人しい馬を借りた」
「俺も、自分のはないよ。自分のって贅沢だし、色んな馬に乗ってたなぁ」
「……場数が違うな」
「馬が常に一緒の環境に居たからな」
「魔獣も……だろう?」
「うん。可愛かったろ?」
「まぁな」
その会話で、大分肩の力が抜けたアンディは、柔らかい笑みを見せた。
「アンジェリーナ・ブローン」
「では、行ってきますわ!」
ドリスは手を挙げて答えると、リーナも同じ様に返した。
厩舎に着くと、教師がリーナに渡す馬のリードを持っていた。
「よろしくお願いしますわ」
馬に向かって言うと、それに答える様に「ぶるる」と鼻息で答えた。
リーナは比較的、大人しい馬があてがわれた様だった。
「では、参りましょう」
リーナは、馬にまたがり、優雅に指定されたコースに入って行った。
「始め!」
馬は、リーナの指示に従い、丁寧に障害物をこなし、難なくクリアした。
「ありがとう」
優しい声でお礼を言うと、嬉しいのか尻尾をブンブン揺らした。
「ドリス・アルベルツ」
「よし!」
リーナの次に呼ばれたので、すぐに厩舎へ向かった。
「よろしくね!」
ドリスがそう言うと、馬は、落ち着きなさそうな様子だ。
ちょっと気性の荒い子かも
本来こういう馬は、女子にあてがわれることはないが、今回出場した中ではトップクラスだったため、ドリスに順番が回ってきたようだ。
ドリスが馬にまたがっても、落ち着かなかった。
う~ん。勢いに任せて行ってみるか!
「始め!」
「それ!」
ドリスの合図に、馬が勢いよく動いた。
ちょっと荒く、ペースも早いが、難なく障害物をこなして行く。
最後のジャンプには、大分余裕を持ってジャンプした。
ドリスが振り落とされないか、ヒヤッとなるものだったが、無事着地し、怪我もなく終了した。
それを見て居た男性陣は、全員固まっていた。
「あの馬……なんで、ドリスに」
「ジン。教師、又は調教師になど、怪しげな動きがあるものを見つけて、教えてくれないか?」
『あぁ。これは明らかにおかしいもんな』
風の精霊達の声を聞くため、ジンは目を閉じて集中した。
「ドリスは色んなところから狙われているからな。よく、あの馬を乗りこなしたよ」
「……落馬しなくてホッとした」
「もし、そうだとしても、ドリスにはアイリスがいる」
「そうだった。強い精霊さんが憑いているんでした」
「だとしても……許せない」
エルが怒りをあらわにすると、トールはからかうような口調でなだめた。
「馬に悟られるぞ~。落ち着け。俺達もあそこに立たなきゃならないんだ。今は、その時じゃない」
「……」
『わかったぞ』
「誰だ?」
『ブローン領のこと、覚えているか? その時の三人組の女達だよ』
アンディが説明すると、「あいつらか……」と二人は顔をしかめた。
『調教師を買収して、あの馬が興奮する匂いを嗅がせたらしい。少しだけだったせいか、気性が荒いと周りに勘違いさせるくらいだったようだ』
「ろくなのが居ないな。過激派は」
「全くだ」
『一応、他の教師が気づいて調査中。まだバレて居ないけど、時間の問題だな』
「私の番が来た時に、それとなく教師に進言しよう。自力で辿りつければ良いのだが……」
アンディは、馬小屋の辺りを睨みつける様な目で見ていた。
裏でそんなことがあったとはつゆ知らず、女性陣は呑気なものだった。
「ドリス、どうでした? 私は馬を戻していたので、見れなかったのですの」
「気性の荒い馬に当たっちゃった」
「え!? そんなはずないでしょう? 女子には必ず、大人しい馬のはずですわ!!」
「でも、そうだったよ」
『気性が荒いってより、興奮している感じだったけどね』
「そうなの? アイリス」
『ちょっと変だったよ、あの馬。それでも乗りこなしちゃうドリスがすごいけどね!!』
「高評価が期待出来そうですわね」
『リーナも絶対通ってると思うから、安心して!』
「ありがとう、ブリギッド。私は出来ることをやり切るだけですわ!!」
「リーナ、殿下の乗馬、見たくない?」
「勿論。見たいですわ」
「すぐに始まっちゃうから、戻ろう」
「そ……そうですわね!! 急ぎましょう」
二人は早足で、待機所に戻った。
恐らく、普通の乗馬大会では、自分がよく乗っている馬と出場することが普通だと思います。
この世界では、自分の馬以外の馬に乗ることも多いので、学園側が用意した馬に乗って大会を行うことにしました。




