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ドリスの学園生活が気まま過ぎて困る  作者: 朱村 木杏
第三章 大会盛り沢山!!
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68 それぞれの思い


 朝、ドリスが教室に行くと、なぜかエルが来ていた。

 ちなみにクラスの人は、まだ一人も登校して居ない。


「昨日、また襲われたって?」

「うん。でも、対処出来て良かった。アイリスが頑張ってくれたんだよ」

「すごいな」

『えへへ~。それ程でも~』


 アイリスはエルに視えないにも関わらず、照れていた。それに、エルに憑いている下位の土の精霊が、拍手を送っている。


「怪我は?」

「全く」

「そっか。良かった」


 ホッとした表情に、なぜかドリスの胸が温かくなった。


「おはようございます。ドリス、エル」

「おはよう、リーナ」

「おはよう」

「昨日の件……ですわね」

「リーナは怪我していないか?」

「ドリスに守ってもらいましたから、大丈夫ですわ。ブリギッドも居ましたし」

「そうか。アンディに聞いた。昨日の賊は女だって」

「うん。ギラザックの賊と同じローブだったから、多分ギラザックからの刺客だと思う」

「ギラザックの賊で、女は初めてですわね」

「テレシアの賊は、女も一人いたけどね」

「二人共。もう少し、危機意識ってものを持たないのか?」

「持ってるけど、ずーっと気を張っているのは疲れるだけだし」

「ですね。私も同感です」

「そういうものなのか」


 エルは肩を竦ませると、クラスの人が登校して来た。


「じゃあ、俺はこれで」

「また、放課後ね」


 ドリスが、エルの後ろ姿に目を向けていると、リーナはニヤニヤして来た。


「エルは心配で仕方がないのですね。ドリスのことが」

「そ……そんなこと」

「心配して貰えるのは、幸せな証拠ですわ」

「……うん」


 リーナは満足そうな表情になり、ドリスはちょっとうつむきながら頷いた。

 頬がピンクになっているドリスを見て、リーナは内心、悶えていた。






 エルが教室に戻ると、登校したばかりのトールが席に着いていた。


「トール、おはよう」

「おはよ~、エル。行って来たの?」

「あぁ。大丈夫そうだった」

「まぁ……ドリスだしなぁ」

「……それでも心配なんだよ」

「もっと皆の前で、俺のものだって主張したら? エル。今、注目されてるからさ」

「注目? 何かしたか、俺?」

「したよ~。優勝しただろ? 剣術大会。あれで、色んな意味で注目が集まってるんだよ」

「色んな意味か……なんだ?」

「男からは見直した声。女からは是非婚約者に……って所だな」

「……困る!!」

「だーかーら、はっきりしとけってこと!」


 エルがトールから注意を受けていると、横から声を掛けられた。


「何の話だ?」

「お! アンディ! おはよ」

「おはよう。で? 何の話だ?」

「エルがモテモテで困るって話」

「ほぅ?」

「何だよ。その笑顔は」

「ようやく自覚したかと思ってな。それより、二人に伝えておきたいことがある」

「何だ?」

 

 アンディがこう言う時は、かなり真面目な話なので、二人は姿勢を正して耳を傾けた。

 すると、あまり聞かれたくない話らしく、互いに円陣を組むように、顔を近づかせ、小声で話した。


「剣術大会の話だ。トールは、絡まれたろ?」

「うん、まぁ……」

「現在第二王子が、王に叱られ謹慎中だ」

「え?」

「トールを陥れようとした者が、退学したのは知っているだろう? 誰の指示でやったか吐かせたら、第二王子だった訳だ」

「マジかよ……そこまで?」

「しかも、第二王子の愛人がいたろ?」

「あぁ。エミーリア・ボームな。そういえば最近、側近達にも手を出しているとか?」

「さすが、話が早いな、トール。それも問題になっていてな。エミーリア嬢が、それを理由に、いじめを受けているらしい。それに怒って、中立派に報復しようとしての行為だったそうだ」

「え? 俺、本当にただの巻き込まれ?」

「その通りだ」

「嘘だろ。勘弁してよ~」

「でも、いじめは良くないよな」

「良くはないよ。だけど、だからって他に当たるのもなぁ……」

「だから今後、第二王子の八つ当たりが来るかもしれないから、気をつけろってことだ」

「うわぁ最悪!」


 トールは頭を抱えて、机に突っ伏した。


「アンディ、それって俺も?」

「エルは剣術大会で優勝したからな。それに過激派ではなく、中立派というのがバレたから、トールと一緒に攻撃されても不思議はない」

「最悪だ……」


 エルも顔が青くなり、目が虚ろになった。






 寮の王族用の寝室では、一人の男が怒っていた。


「何で! 私が怒られねばならねのだ!!」


 バン! ガン! ドン!


 物を手当り次第壁にぶつけてうさを晴らそうとするのは、第二王子のバシリウスだ。


「仕方がないですよ。陛下にバレてしまったのですから」


 そうなだめるのは、バシリウスの侍従であった。


「これくらいのことで謹慎とは……父上も困ったものだな」

「はぁ……」


 バシリウスは分かっていない。

 指示したことが、騎士を目指している者にとっては、大きな侮辱に当たることを。

 元々バシリウスは自分には合わないと、勉強も剣も乗馬さえ、力を入れてはいなかった。こんな人間に騎士の誇りなど、分かるはずもない。


 しかも、退学した者は、バシリウスの騎士の側近候補だった。


 バシリウスを信じてやったのに、自分は騎士にも貴族にもなれない。そんな自分を平気で切ったバシリウスに、復讐をしそうなところを押さえ込んで、田舎の仕事を紹介し、何とか納得してもらったのだ。


「大体! エミーリアをいじめる中立派が悪いのだ!! 中立派など、なくなってしまえばいい!! おい! あの話は本当に進んでいるんだろうな?」

「はっ! じわじわ追い込む予定にございます」

「俺は、直ぐにでも消えて欲しいのだが……仕様がないか」


 ニヤッと笑って、侍従に顔を向ける。


「乗馬大会でも仕掛けよう」

「それはお辞めになった方が……馬は、うまくこちらの言うことを聞くか分かりませんし、エミーリア様が怪我でもしたら、目も当てられないのでは?」

「確かにそうだな。辞めよう」

「大人しくしていれば、エミーリア様にもすぐ会えるでしょう」

「大人しくねぇ……俺も何かしたいなぁ」

「もう、色んなところで動いております。あと少しですよ、バシリウス殿下」

「そうだな! 大将は動かないとも言うしな!」

「もうそろそろ中間試験ですし、勉強したら、エミーリア様にも褒めてもらえるのでは?」

「なるほど……よし! やるぞ!!」


 何で、バシリウス殿下は王太子殿下と比べて、こんなに出来ないのだろう? 血は繋がっているはずなのに……


 侍従は、心の中でため息をついた。




 



 

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