06 入学式。早くも単位とれちゃった
番外編を読んでいた方には、お待たせしましたと言っても良いでしょうか。
例のアンディの登場です。
実際、絡んでくるのは先ですが、ちょこっと出しました。
寮に入った次の日が、入学式だった。
もちろん、遅刻は厳禁!
特にドリスは、食事が終わったら、また最上階まで戻らなければならない。
なので、早めに食堂へ向かい、昨日と同じ席に着いた。そしてさっさと食べて、すぐに部屋に戻り、支度をして、集合場所の寮講堂へ!
早々に着いたはずだけど、寮講堂にはもう、すでに何人か来ていた。下位貴族が多いかなと思ったが、そうではなかった。上位貴族の人もチラホラ居る。その中に、私は目的の人物を見つけた。
アンジェリーナ・ブローン公爵令嬢。
あまりこの国では見かけない、ストレートで真っ黒な髪。
それは、彼女の母の故郷、ワシュー王国の特徴であった。
瞳はオレンジ。これも、ロザリファではあまり見かけない。
彼女はちょっと浮いた存在だった。
そんな彼女が、今は一人。
チャンスと思ったドリスは、彼女に近づこうとしたが、寮講堂に三人組の令嬢が入って、すぐにアンジェリーナを取り巻いた。
残念。
彼女達は見るからに、上位貴族だ。……自分は入れそうにない。
そう思っていると、アンジェリーナの顔が、さっきより曇っていたことに気がついた。
もしかして、彼女達のこと……嫌なのかな?
すると、寮講堂に、ゾロゾロと男女共に集団で入って来る。
ドリスは、絶好の機会をふいにしてしまった。
入学式には新入生全員、寮講堂に集まってから、一緒に学園に向かう。ドリスの周りには、子爵と男爵の子がいたが、皆、まだどんな人か探っているのか、微妙な雰囲気だ。
もうちょっとうまく出来るかなと思ったけど、思った以上にうまくいかない。
階位というよりも、貴族がめんどくさい!
学園は、寮から歩いて五分のところにあった。そこで、初めて教室に入る。
クラスは成績順ではなく、成績が散けるようにしてあると、担任教師が自己紹介より最初に言った。
皆それを気にして、話を止めなかったからだ。よく見ると、話をやめなかったのは、上位貴族の子ばかりだった。
上位貴族の質が落ちていると、最近大人達に聞いたばかりだったドリスは、「やっぱり」とひっそり思う。
ドリスのクラスの担任の名前は、タンクレート・ボイス。
伯爵家の子息ではあるが、ここは学園。
公爵位の生徒も、教師である彼に従わなければならない。
さぼったり、態度が悪かったら、爵位など関係なく指導するそうだ。
上位貴族の一部の生徒が眉をひそめたが、ボイス先生はどんどん話を進める。この後、入学式が学園の体育館で行われ、式典が終わった後は、家族と話す時間が設けられるという。
やった! 家族に会える!!
ドリスはウキウキ気分で、体育館に向かった。
体育館には、二年生は一人もいなかった。理由はこの学園の校風にある。
王立ロザリファ貴族学園には、学園を纏める生徒機関、所謂生徒会が存在しない。
ここではわずか二年という短い期間しか通わないため、その業務が重荷にならないよう、設けられていないのだという。
この学園において、重要なのは、成績が優秀であること。
なので自然と、爵位問わず、成績上位の人が上に立つことが多い。
有事の時は、成績上位者が上に立ち、皆を纏めることもある様だ。
行事は、入学式と卒業式。乗馬大会とダンス大会。一年は進級パーティーに、二年は卒業パーティーが行われる。男子は他に、剣術大会もある。
一年の代表の挨拶は、上位貴族以上で、成績優秀者だった者が行うしきたりらしい。
壇上に上がったのは、中性的で綺麗な顔をした、黒い髪の少年だった。
彼こそ、ドリスが会いたかった、ワシュー王国の第二王子、アンディ殿下。
わぁ~!! 綺麗な顔~!! この人は、精霊が視えるんだぁ。……いいなぁ。
殿下の挨拶の間は、周りから、ピンクのオーラが見えた気がする。少女達は皆、アンディ殿下の虜になっていた。
そんなアンディ殿下は、粛々と挨拶を終え、壇上を下がった。
つまらなそうに、話す人だったな。
ちょっとがっかりしたドリスだったが、この後は両親に会えるとあって、ウキウキしている。
それと同時に、自分はまだ、親離れが出来ていないんだという、事実も突きつけられた。
「ドリス! 入学おめでとう!!」
「無事、この日を迎えることが出来て、嬉しいわ」
「……ありがとう。お父様、お母様」
「貴女らしくないわね。……もしかして」
「ううん。 まだ、暮らしに慣れないだけ。 下位貴族は、色んなことを早く、済まさなきゃいけないから」
「女子寮もそうか。男子寮も同じようなものだ。少し辛いだろうが、週末は帰って来られるのだから、それまでの我慢だぞ」
「はい」
週末には、元々王都に住んでいる人は、帰宅することが可能だ。
こんなにありがたいことはないと、ドリスはしみじみ思う。
ドリスは担任のボイス先生が、クラスの人に集合を呼びかけているのを見て、そちらに向かった。
娘を見送ると、アマーリアが渋った顔で、心配な気持ちを口にした。
「私も甘かったわ。元伯爵令嬢だったから、下位貴族のこと、分かってなかった」
「しょうがないよ。君とデリアは、学園では伯爵令嬢で上位貴族だった。下の者の気持ちは理解できないだろう。ドリスも、ローレンツみたいに、上位貴族の友人を作れればいいんだけど」
アマーリアとベルンフリートは、学園で頑張る娘の後ろ姿を、見えなくなるまで見つめていた。
教室に戻ると、今日は一年の授業内容と時間割が書かれた表を配って、自己紹介をしたら、解散するとのことだった。
皆、一人ずつ自己紹介する。
上位貴族の時は静かだが、下位貴族の時はざわついている。
「アルベルツ子爵が三女、ドリス・アルベルツです。よろしくお願い致します」
ドリスが自己紹介しているときも、ざわつきは止まらなかった。
呆れながら席に座り、ざわつきを止めない張本人を軽く睨みつけた。本人は気付かないのか、さっさと先に進めていた。
一年の授業内容を見ると、その中に、すでにドリスが達成済みのものがあった。
ドリスは、ボイス先生が解散をかけた後に、進言しに行った。
「ボイス先生、授業内容の中に、すでに達成済みのものがあります。この場合、すぐに単位はもらえないのですか?」
「ん? どれだ」
「これと、これです」
「……あれ? お前まさか……」
「私は、先日卒業した、デリア・ブレンターノの妹の、ドリス・アルベルツです」
「そっか……そういや、ブレンターノは養子だったっけ。分かった。一緒に職員室まで来い」
ボイス先生と一緒に、職員室に行くと思いの外、歓迎してくれた。
「ブレンターノの妹か! 子爵!? これは史上初がまた出てもおかしくないな!」
四十代くらいの陽気な男性教師が、にこやかに話しかけて来た。
「なにがです?」
「総合一位だよ。女子は伯爵令嬢以上しかとれていないんだ。男子は男爵がいたが、女子はまだ出ていない」
なるほど。そういう期待ね。
「ホイルス先生、貴方の担当教科はもうすでに、達成しているそうなので、試験してもらってもよろしいですか?」
ボイス先生が言うと、ホイルス先生が片手を頭に抱える仕草をしながら「またか」と渋い顔をした。
「分かった。この場で試験をしよう」
試験が終わると、文句無しの満点で、どっちの単位も修得出来た。
「この授業の間は、私はどこにいればいいですか?」
「寮に戻っても良いけど、出来れば図書館で自習してて欲しいな。あと、始業・終業の時間は必ず出るように。連絡事項があるかもしれないからな」
「定期試験は?」
「もう、結果も出ているから、常に満点だぞ」
「周りに言われませんか?」
「この学園は成績が常なんだ。聞かれたら、先生に聞けと言えば良い」
「分かりました」
このことが、ちょっとした騒動になることを、ドリスはまだ知らない。