表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリスの学園生活が気まま過ぎて困る  作者: 朱村 木杏
第三章 大会盛り沢山!!
69/94

66 剣術大会決勝


 本来なら、ここで三位決定戦があるが、過激派子息の失格が確定した今、三位はエルと戦った、中立派の子息のものになった。


 なので決勝は、トールvsエルで行われる。






「さぁ! どちらが勝つと思います? ドリス」

「どっちも……」

「そこは! ()()でしょう?」

「どっちも勝って欲しいもん! だって、剣を交わした仲だから」

「そのセリフ……男らしいですわ!」


 「ふふふ」と笑うリーナに、ドリスはフィールドの方を向くことにした。

 ドリスは、自分の顔が真っ赤な事に気づいていない。

 そこも可愛いと、リーナは含み笑いをするのだった。






 決勝戦とあって、周りはざわめいている。

 決勝に進んだ二人は優勝候補ではあったが、その中でもあまり注目されていない二人だった。


 エルは最近まで、中立派なのにも関わらず、過激派と勘違いされており、あまり応援したくはない対象だった。

 トールは、中立派ではあるが、見た目は眼鏡をかけているせいで、あまり強くないと思われていた。


 蓋を開けてみれば、どちらも中立派であり、有力とされる人物を倒し、そして過激派に勝ち続けた。中立派・穏健派にとっては、ちょっとした英雄だったのだ。


「正直、ないと思われていた二人だよな」

「そっちのクラスではそうかもしれないけど、うちのクラスではダントツだったよ。ただ、アピッツには負けて欲しかったけど」

「実は中立派って聞くまで、あいつが優秀なこと、嫌だったからな」

「へぇ。テストの成績もいいのか」

「うちのクラスでは二番目」

「一番は?」

「そりゃ、アンディ殿下に決まってるだろう?」

「ファルトマンは?」

「あいつは普通。けれど、運動神経は良い。乗馬は一番だからな」

「中立派から有能な人間が出て来て、いい気分だ」


 中立派は皆、したり顔だった。






 エルとトールがフィールドに姿を現し、「うおー」と言う猛々しい雄叫びがあちこちで聞こえる。

 剣をお互いに構えると、さっきまでの歓声が嘘のように静まり返った。


「始め!」


 審判の声が聞こえた瞬間、二人はすぐ互いに突っ込み、激しい打ち合いとなった。

 両者素早く切り返すが、相手が受け止める。ひたすらその繰り返しだった。

 一見すると、じゃれて遊んでいるようだった。二人が笑顔で楽しそうに剣を振っているせいだ。

 その素早い剣技は、演武を仕込んでいるのではないかと思うほど、芸術的で、それでいて実践的なものだった。


 長い打ち合いが続く。

 そして、ついにキィンという、金属音が鳴ったかと思うと、トールの手から剣がなくなっていた。


「勝者、エルヴィン・アピッツ!!」


 静まり返った会場が嘘のように湧き上がる。


「アピッツー!! 凄かったぞー!!」

「ファルトマーン!! よく頑張った!!」


 二人に賞賛の拍手が送られ、照れながらそれぞれの出入り口に戻って言った。






 そして、表彰式が始まった。


 表彰状は、なぜかアンディが渡す役目を得たらしい。

 普通その役目はこの国の王族なのだが、第二王子の派閥である過激派が、失格になるという事態になったため、急遽アンディに役目が回って来たらしい。

 ちなみに王族がいない場合は、大会責任者の教師がやるそうだ。

 

 三位の選手が表彰状を受け取った後は、トールの番である。

 トールはアンディの前に立つと、笑顔で表彰状を受け取った。


「おめでとう。惜しい結果になったが、今後も励むように」


 「お前もな」という目をトールがすると、アンディも負けじと「次は勝つ」と目で訴えた。


 最後はエルだ。

 緊張の面持ちでアンディの前に立ち、表彰状を受け取った。


「おめでとう。素晴らしい試合だった。是非来年はここで、剣を交したいものだ」

「有難きお言葉に……ございます」


 エルは終始緊張して、その場を後にした。







「終わりましたわね」

「エル、緊張してたね」

「まぁ、私達はそれが緊張と分かりますけど、他の方には、クールな姿に惚れ惚れするといった声が聞こえてきますわ」

「エルって、良い意味で勘違いさせる天才?」

「天然ものですから、仕方がありません」


 ドリスとリーナも帰るために、席を立ち上がると、そそくさと帰る一団を見かけた。


 過激派だ


 ドリスは一瞬見ただけだったが、過激派の表情は硬い。


「自業自得ですわ。王に説教でもされれば良いのです」


 リーナは厳しい目で非難しつつ、冷たい声で独り言を呟いた。






 無事、剣術大会が終了し、エルとトールと合流した。


「二人ともお疲れ様」

「とても良い試合でしたわ」

「ありがとう」

「いや~、俺がここまで来ると思わなかったよ! ドリスのお陰!! ありがとう、鍛錬に付き合ってくれてさ」

「どういたしまして! またやろうね」

「そういえば、アンディは?」

「大会委員だからか、委員控え室に引っ込んで行ったよ。まだ、仕事があるみたいだ」

「先に戻っていて良いって」

「そっか。あれ? リコさんは? いたの?」

「リコさんなら、陰でひっそりとアンディを見守ってたよ」

「一緒に帰ると思う。侍従だし」

「なら、私達も戻りましょう」


 この日は学園には戻らず、寮に直接帰った。






 次の日。

 教室に行くと、男子達の声が聞こえてきた。


「昨日はさ、出場選手優先で風呂に入れたらしい」

「しょうがないよ。実際、試合で汗臭かったし」

「食堂の食事も、選手は特別メニューだった。あれ、美味しそうだったなぁ。来年は選ばれたい!!」

「俺も!」

「俺は特別メニューだけ食べたい」

「そっちかよ!」


 ドリスがそれを聞き終わると、良いタイミングで、リーナが話しかけてきた。


「おはよう、ドリス。随分と熱心に聞いていましたのね」

「リーナ、おはよう。特別メニューってなんだろうと思って」

「あぁ。お兄様方に聞いたことがありますわ。なんでもその日だけは、我がブローン家のシェフを雇って、特別な食事を提供するのです。乗馬大会の出場者に選ばれれば、ドリスも食べられますよ?」

「本当!?」

「頑張りましょうね」


 ボイス先生が来たので、会話はそこで終わってしまった。







「皆、剣術大会お疲れ様! うちのクラスから表彰台に登れる者は出なかったが、皆、よく頑張ったと思う。そして……その剣術大会で起きた、反則行為により失格になった者と、誤審をした審判役の教師についての話だ」


 失格になった生徒は、騎士団への入団が出来なくなったそうだ。だが、それだけではなく、王城にも入れなくなってしまった。

 この事態に、さすがの上位貴族達も驚きを隠せない。


「このことを、王は大変ご立腹だ。なぜなら王が学生時代、全く同じことが起こったからだ。この生徒は今日をもって退学することになった。しかも廃嫡されることが、正式に決定した。……なぜ俺が、この話をしたか、わかるか?」


 ボイス先生の睨みに、生徒は石の様に固まった。


「今後、このような愚かなことをした生徒は、貴族になる資格なしと判断されるということだ。それが例え、嫡男であっても、唯一の直系の男であっても、それが覆る事はない。お前らも気をつけるように」


 この言葉に、顔が青くなる生徒もいた。

 教師の方は、本日付けで解雇。しかも、貴族身分を剥奪された。


「次の大会は、乗馬だ。同じ様に何か問題を起こした生徒には、それ相応の処分が下る。覚悟しておくように」


 ボイス先生のドスの効いた声が、教室に響いた。


 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ