64 剣術大会二回戦目
第二戦目が始まり、トールがフィールドに立った。
相手は、中立派の実力者らしい。
「代々騎士団に所属している家柄の人ね」
「上位貴族ってこと?」
「いいえ。彼は子爵位ですわ」
子爵位といえど、古くからある家は多い。
それは、ドリスの家であるアルベルツ子爵家も同じだった。
「この国の騎士というのは、大きな手柄を立てないと、上位貴族にはなれません。元帥から認められ、上位貴族である伯爵位になったケースもありますが、大体が戦争で英雄並に活躍なさった方に、上位貴族となれる権利が与えられる様ですわ」
「騎士が上に行くのは難しいってことか」
「商売や事業等を興し、大きな利益を得た場合は、すぐにでも伯爵位が授けられます。今は、戦争はしておりませんし、それより利益を出した方が、国のためになるからです」
「そういえば、トールのファルトマン伯爵家は、紙で成功した貴族だったっけ?」
「そう。トールの家は、紙という革命的な物を生み出したとして、すぐに伯爵位が授けられました。もしかしたらドリスの家も、そう遠くない未来に、伯爵位になっていてもおかしくないと思いますよ」
「え~……ピンと来ない」
「あ! 始まりますわ」
相手は騎士の家というだけあって、大柄な男だった。対してトールは平均くらい。側から見ると、トールはメガネをかけている事もあって、ヒョロくて弱そうな男に見える。
しかし、第一戦目を目撃している人には、そんな身体の差など関係ない。
ヒョロい男が頑丈そうな男をどう攻めるか、皆の関心が集まっていた。
相手は重量型らしく、剣が重い上に素早い。さすがのトールも、さっきの試合よりも早く決着はつかなかった。
だが、それでも勝負は拮抗しており、両者譲らないとばかりに、積極的に攻め合っていた。
そして相手と離れたわずかな時間、ホッとした顔をトールは見逃さなかった。その一瞬の隙をつき、懐に入って、喉に剣を向けた。
これには会場全体がどよめいた。
「おぉ~!!」
「すごいなぁ!! あれ、うちのクラスの情報屋だろ?」
「メガネかけてヒョロっとした身体なのに、痺れる~!!」
賞賛の言葉がかけられ、少し照れる様子のトール。
それを見て、リーナは冷静に分析した。
「トールに賞賛の声が多いのは、男性陣の様ですね。女性陣は賞賛するも、黄色い悲鳴は上がらない……やはり、顔の差ですか」
「少し合ってるけど……違うと思う。見て、あのトールの緩んだ顔」
今まで見たことがないくらい、だらしのない顔になっていた。
「あれでは、令嬢達は引いてしまいますわ」
「何でここで、格好つけた顔にならないかな~」
ドリスとリーナは、頭に手を当てて「はぁ……」とため息をついた。
エルの出番になると、周りの女子達が色めき立った。
「本気で狙ってくる方が居そうで、恐いですわね、ドリス」
「……な……何の事?」
「まぁ……エルに関しては、あんまり心配はしていません。それよりも女性陣で、ドリスに辛く当たる方が居なければ良いのですが……」
『それは私が守るから、安心してリーナ!』
「そうでした! 強力な警護がありましたわね、アイリス」
『うん、何かあったら、蹴散らすよ!』
「攻撃はダメだって、アイリス!」
「いえ、ちょっとだけならアリですわ」
『リーナ。意外と面白がっているな』
「面白いですわよ、ブリギッド。ドリスの色んな顔が見れますから」
リーナにつられ、久々にブリギッドの笑顔が見れたところで、エルの試合が始まった。
相手は、またもや過激派の子息だった。
嫌な目つきをしながら、エルの攻撃を待っている。誘いに乗ってやるとばかりに、エルは積極的に突っ込んで行った。
剣の打ち合いになったが、エルの剣さばきについていけなくなったところを見計らい、相手の剣を思いっきり吹き飛ばす。
試合続行不可能になったところで、エルの勝利が確定した。
「鮮やかでしたわね」
「うん! 見てて楽しかった」
また、相手選手はエルを睨みつけて来た。
「懲りないね」
「そうね」
渋々と言っているかの様な足取りで、フィールドを後にした。
第二戦目は、九人になるため、一人は二度戦うことになっている。二度戦う選手はエルだった。エルは続け様の試合となる。
「何で!? 普通一番最初一戦にやって、休憩してからもう一戦、じゃないの?」
「昔はそうでしたよ。ただ……その後、もう一戦やる選手が、どこかへ行ってしまい、その選手は相手の不戦勝で負けてしまったことがあったのです。それを防止するための措置が、これですわ」
エルは少し疲れた素ぶりはしていたものの、やる気を見せていた。
相手選手はラッキーとばかりに、余裕の表情だ。
「また、過激派ですね。エルってもしかして、運がないのでしょうか?」
「うーん……」
相手が過激派な上に、続け様の対戦。運がないと思っても仕方がなかった。
試合が始まると、両者一歩も動かない。痺れを切らしたのは、相手の過激派子息だった。
勢いよく突っ込み、エルの元に駆けて行く。その動きは、他の選手達に比べ、精彩を欠くものだった。
エルは冷静だった。剣を受け止めずに躱し、相手の背後に周ると剣を首元に添えた。
あまりにもお粗末な戦い方に、過激派の生徒に対してのブーイングが起きた。
その生徒は顔を真っ赤にさせ、エルを睨みつけて、そそくさと出入り口へ入って行った。
「今の戦い方……どう思う、リーナ」
「不正の匂いがしましたわ」
「ワザと先生が彼を出した。実力者を差し置いて……とか?」
「剣術の教師に注意が必要かもしれませんね」
周りも、なんでこんな選手が出ているのかという話で、ざわついていた。
準決勝戦。
先ほどより少し長めの休憩時間を経て、トールが競技場に姿を表した。
「相手は……過激派ですわ!」
「トール……大丈夫かな?」
「私は余裕でトールの勝利だと確信しております。ですが彼は、あの第二王子の側近です」
「最悪な人選」
エルに当たるかと思ったが、今度はトールに当たってしまった。
そしてこの後、問題が起きた。
「アナトール・ファルトマン、反則行為の為、失格」




