63 剣術大会当日です!!
剣術大会までエル、トール、アンディはドリスと試合をしていたが、恐ろしいくらいドリスが強くなっていたことに皆、驚愕した。
「ちょ……強くなりすぎ! ドリス! 剣術大会、余裕で出れるぞ!」
「さらに早くなってた……こちらに余裕がなくなる剣さばきだ」
「お前……女か?」
「歴とした女です!」
そのお陰か皆、存分に剣を振れたらしく、前より強くなったと嬉しそうにはしゃぎながら、剣術大会当日を迎えた。
当日は、学園が所有する闘技場で行われた。
学園から徒歩五分。街とは反対側にそれはあった。
中央のフィールドがよく見えるように、円で囲むような形になっており、観客席は後ろに行くにつれて、だんだん高くなっている。
選手達は、出場者控え室で待機。大会委員は、フィールド近くの委員控え室で準備。その他の生徒は観客席で大会が始まるのを待っていた。
アンディは残念ながら、当日辞退者が出ず、大会委員に回ることになった。
「エル、トール。勝てよ」
「おう!」
「任せろ!」
アンディの激励を受けながら、意気揚々と二人は出場者控え室へ向かった。
一方ドリスとリーナは、観客席にいた。
「楽しみですわね」
「うん。私も出たかった」
「勇ましいドリスも素敵ですわ」
剣術大会は一年生三クラスから、それぞれ男子六名を選出し、トーナメント方式で行う。
全部で十八名の選手達の勝負を見ることが出来るのだ。
剣は切れないよう、先を潰し、全く切れなくしたもののみ使用することが出来る。
勿論、切れる本物の剣を持ってきた時点で、その選手の不戦敗が決定してしまうため、そんな危険を犯す者はないに等しかった。
ドリスとリーナは、目線をフィールドに移し、出てくる選手に注目した。
出てきたのはトールだった。
「トールは意外と、優勝候補の一人らしいよ。殿下が言ってた」
「それはエルも……でしょう?」
リーナは口元に手を持っていき、目をにやけさせた。
「二人共すごいってこと! からかわないでよ!!」
「私も貴女達の鍛錬を見ていたのですから、優勝候補になるのは当然ですわ。アンディはもっと早く、今のドリスと鍛錬していれば、出場出来たでしょうね」
アンディもドリスを交えた鍛錬で、大幅に成長していた。正直、大会に出場しないのが惜しいくらいだ。
「ほら、殿下もいらっしゃるよ」
フィールドの周りに大会委員の生徒が三人いた。審判を務める教師の補佐の役割らしい。
丸いフィールドの四方に、一人ずつ赤と白の旗を持って立っている。
「殿下、いつになく真剣な表情だね。どう? リーナ」
「……ドリス~」
そんなことを話しているうちに、試合が始まった。
簡潔に言えば、トールはあっさりと相手選手を倒してしまった。
相手が走ってトールに攻撃を仕掛けた瞬間、相手の懐に素早く入り、首のところで剣を止めた。
それには相手も状況がすぐには理解できなかったらしく、口を開けて固まった。
あっさり勝ち過ぎて、場内も呆然とする。
「相手は私達のクラスで、一番の剣の使い手ですわ」
「え? 同じクラスにあんな人居たっけ?」
リーナが呆れた目で、ドリスを見た。
「確かに、クラスでは目立たない人ですが、優秀な下位貴族の一人です」
「……そうだったんだ」
トールと相手は一礼をし、それぞれ入ってきた出入り口へ向かった。
「これは……面白いことになりそうですわ」
リーナはニヤリと笑い、ドリスはそれに応じた。
「波乱の展開だね」
「まぁ……私達のクラスの負けは、決定しましたわね」
「クラスで一番の人が負けちゃあ……ね」
それを察してか、観客席に座っている同じクラスの人達は、どこか悲しげだった。
エルはトールとは違うブロックで出場していて、もしトールと当たるなら、それは優勝者決定戦となる。
「エルですわ! ドリス、心なしかいつもより格好良く見えませんこと?」
「リーナ。意外と失礼だね」
「本当の事を言ったまでですわ」
確かにいつものエルとは、雰囲気がちょっと違う。まるで、あの狼の魔獣が出た時のようだ。
こうしてみると、エルは美形だ。
綺麗なストレートの銀髪に、碧眼。端正な顔立ちのキリッとした瞳で、女性を落とせる事は間違いない。現にもう、落ちている人がチラホラいる。
けれどエルの性格は、外見に反して、ちょっと頼りない。
それを知っているのは、観客席ではドリスとリーナだけだった。
エルの真剣な眼差しを見て、ドリスは顔に熱が篭るのを感じた。
エルの対戦相手は、どこか高圧的そうな人物だった。
「第二王子の側近ですわ」
「ってことは……過激派?」
「あの方の側近は全て、過激派で固めておりますから」
不穏な空気を感じ取っての試合となった。
勢いよく相手選手がエル目掛けて突っ込もうとすると、エルは素早く躱し、相手選手はよろけてしまった。そこをエルが見逃さずに、首に剣を添える。
誰が見ても、エルの圧勝だった。
相手選手は悔しいのか、殺気を纏うような睨みをエルに向けてきた。
それを涼やかな顔で躱したエルは、出入口へと向かう。
この姿に、女性陣から、艶めいたため息が漏れた。
「敵が増えましたね、ドリス」
「わ……私は……」
違うと言おうとしたが、ドリスは言葉が出てこなかった。
それには、ドリスは軽く混乱する。
だってエルとは婚約者ではないし……仲間であってまだ……あれ? まだってどういう意味?
ドリスの戸惑う姿に、リーナは心の中で悶えていた。
キャー!! 照れてるドリス、もの凄く可愛いですわ!! あぁ、この姿を切り取りたい!! ……出来ないのが悔しい~!!
こうしてまずは皆、第一戦目を終えた。
観客席は緊張から解放され、ざわついている。
「嫌~な目つきの人が何人か居たけど、それ、みんな過激派?」
「ですわね。何か仕掛けて来ないと良いのですが……」
「審判の先生が止めると思うけど……」
「先生は当てになりませんわ。少し調べたのですが、以前、この大会で優勝しそうだった選手の反則行為があったと、審判団が主張し、その選手は準優勝に終わった事がありましたの」
「え……?」
「後に、優勝した選手が審判団を買収していた事がわかり、その優勝した選手は、優勝を取り消し。騎士団に入ることも出来なくなりました。審判役の教師達も学園を解雇になっています」
「そんな事が……」
「優勝しそうだった選手は……貴女のお父様ですわよ。ドリス」
「え!? そんな話聞いてない!」
「その年の大会は、優勝者なしということになりましたの。準優勝者が下位貴族という理由で」
「……」
「それに、当時王太子だったロザリファ王は、大変お怒りになり、ルールを一部変えましたの。それが、殿下達が立っている、あれですわ」
下を見ると、フィールドの四方に立っている人達が見える。
アンディを含む大会委員の人達と、教師の審判役が、紅白の旗を持ってフィールド内をうかがっていた。
「あれは、審判が不正をした場合、審判役の生徒が異議を唱えることが出来る措置ですの。もし、審判が買収されていたとしても、生徒の審判役の方も抑えていないと、不正に勝つ事は出来ないのです」
「なら、ちょっと安心だね」
「えぇ。幸い、今回審判役に選ばれた生徒を見る限り、皆、中立派の生徒ですわ。ただそれを知らない、もしくは忘れた方は、不正をするでしょう。それはあの方々の十八番ですから」
「油断出来ないってことね」
もうそろそろ第二戦目が始まるという事で、皆がフィールドに注目した。
ドリスの父親のベルンフリートが優勝出来なかったエピソードは、「アルベルツ家周辺の人々」03話と04話に載っております。読んでくださるなら04話を推奨します。




