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ドリスの学園生活が気まま過ぎて困る  作者: 朱村 木杏
第二章 三領巡りに出発!!
61/94

59 嵐の前の静けさ……ってやつ?


 ドリスはその日、義兄ローレンツの商会に来ていた。


「おぅ! 久しぶりだな」

「お久しぶりです、ブルーノさん」


 今日は、ブルーノに話を聞くために来たのだ。


「スパイの件だな。テレシアに関してはもう一人、男が確認された。それに……知ってるんだろ? ギラザックの件」

「はい」

「こっちにも回って来た。ギラザックと繋がってる貴族を探せ……だとさ」

「それを聞く事は?」

「今わかっている範囲では、どうも過激派の動きがキナ臭いな」

「過激派に注意……ですね」

「それだけじゃないかもしれないが、注意が必要だ。で? 旅はどうだった? アピッツのガキとはどうなんだよ!」


 ブルーノは、ニヤニヤしながらドリスを見ていた。


「そ……れは……」


 ドリスが頬を少しピンクになったのを見て、男二人はドリスの顔を覗き込んだ。


「おぉ!?」

「え? ドリス。どうなんだ!!」

「……黙秘します!!」

「そうか……一丁前に……」

「まだ何もないですから!!」

「へぇー?」


 語尾を上げながら言うブルーノに、ドリスはムカついていた。






 それとドリスは一応、懸念事項も二人に伝えておくことにした。


「もう知っていると思うのですが、近々ギラザックにいる魔獣達が、大量にロザリファに避難してくる可能性があるそうです。殿下がおっしゃっていました」

「今度は魔獣か。話が通じるとはいえ、飢えていては危険だな」

「はい。対処は国が考えてくれると思うのですが……」

「まぁ。俺達は……深く介入は出来ないわな」

「やっぱりそうですか」

「俺はただの情報屋だぜ? それは国やお偉い方の仕事だ。まぁ……出来るのは、注意を促すことくらいか?」

「そうだね。話だけ、受け取っとくよ」


 穏やかな笑みを見せたローレンツに、少しホッとしたドリスだった。






「では、本日はこれで、失礼致します」

「おぅ。また良い情報、教えてくれよ」

「はい。ブルーノさんも、お気をつけて」

「ドリス。今日は遅くなるって、皆に言っておいてくれる?」

「わかりました。ローレンツ兄様」


 そう言って、ドリスは裏口に通じるドアから出て行った。

 扉が閉まり、足音が遠のいたところで、男二人が笑みを消し、ため息をついた。


「「……はー……」」


 二人のため息が、さらに部屋の中を寂しくさせた。


「厄介なことに巻き込まれたな、お前の義妹」

「強い精霊が憑いていたって時点で、巻き込まれていたさ」

「それだけじゃねぇよ。例の三人組の令嬢に、泣かされたらしいじゃねぇか」

「そっちか。それは、ドリスが対処しなければいけない問題だ。いずれこうなっていたさ。早いうちにこうなってくれてよかったよ。ドリスのことだ。次は大丈夫だろう」

「厳しいのか優しいのかわからねぇな」

「それはそっちも同じだろう?」

「……にしても、本当にすごいな。国内だけでも過激派から睨まれてるし、その上、ギラザックもとは……」

「どうして俺の義妹は、こんなに人気なのかね」

「ただでさえ、周りは曲者揃いだからじゃねぇの?」

「それ、そっくり返す」

「違いねぇ」


 「ははっ」と笑い声をあげると、二人は真剣な顔になった。


「キナ臭いのはテレシアも同じだ。ギラザックと合わせて、動向を追う」

「よろしく頼む」


 ローレンツはブルーノに硬貨の入った袋を渡し、黙ってそれを受け取った。







 ちょうどその頃、リーナは王城に登城していた。


「バシリウスとはどうだ?」

「どうだと尋ねられましても……」


 リーナは、第二王子の婚約者として、王に呼び出されることがたまにあった。

 この日はたまたま、その日だったのだ。


「……相変わらずということだな。分かった。今日呼び出したのは、その件ではない。精霊のことだ」

「そちらでしたか」

「こちらは許可を出したので、返答待ちだ。結果はアンディ殿下に伝える。殿下から精霊魔法の指導の話が出たら、受けてくれないか?」

「勿論でございます」

「それと、あの件は、其方(そなた)の思う通りに」

「重ね重ね、ありがたきことにございます」






 リーナは帰宅するため、門まで歩いていると、厄介な奴に会ってしまった。


「なんだ? また王城へ来ていたのか?」


 この国の第二王子、バシリウスその人だった。一応、リーナの婚約者のはずだが、何故かエミーリア・ボーム男爵令嬢が、慎ましく庇護欲を誘う不安気な顔で、バシリウスの横に控えている。


「バシリウス殿下……えぇ。陛下に参上するように申しつかりましたので」

「父上に? 何用だ?」

「殿下が知ることではございません。内容については、陛下にどうぞ」

「はっ! お前、俺の立場を分かって言っているのか?」

「えぇ。存じておりますわ。陛下から頼りにされていらっしゃるなら、私がここにいることも十分理解出来たはず。……ここまで申し上げてもお分かり頂けないのですか?」

「お前!!」

「お待ちになって! バシリウス様、癇癪はいけませんわ」

「エミーリア、君は優しすぎる。こいつには俺がしっかり言い聞かせねばならないのだ」


 リーナは、何の茶番だという顔で、バシリウスとエミーリアを見ていたところ「騒がしいな」と、口を挟む声がした。


 声のする方へ向くと、そこにはアンディがリコを伴って現れた。


「リーナが来ていると知って、見送りに来たのだが……こちらの王族は随分横暴なようだ」

「アンディ!! ここは()の城だ。人質の分際で、他国の者が意見するな!!」

「おや? これは外交問題になるのではないか? 私は()()ではなく、()()に来ているのだ。しっかり伝わっていないようだな。それに、王族としての在り方を教えたつもりだったのだが、貴殿には伝わらなかったのか」

「御託を並べるな!! 小国の分際でしゃしゃり出てくるなと言っている!!!」


 アンディが険しい顔をしてバシリウスと対峙していると、そこにとても威圧感を与える人物が通りかかった。


「何の騒ぎだ?」


 声を発したのは、淡い金髪に碧眼の美青年で、この国の王太子シュテファンだった。


「バシリウス。何だ? この騒ぎは」

「に……シュテファン様」

「王族としては随分情けない。少し聞こえていたが、その程度のことで大声で騒ぐなど、下品極まりないことだ。それを注意してくださった、アンディ殿下になんたる無礼。アンディ殿下、申し訳ない」

「シュテファン殿下が謝る事ではございませんが、ありがたく受け取っておきます」

「かたじけない。重ねて申し訳ないがアンディ殿下、アンジェリーナ嬢を門まで送り届けてはもらえないだろうか」

「そうするつもりでしたので、喜んで。さあ、リーナ」

「ありがとうございます」






 アンディ達が去って行ったところで、シュテファンが口を開いた。


「相変わらず、成長がないな。それに何だ? その女は」

「その女ではありません! エミーリア嬢です!!」

「婚約者を蔑ろにして、愛人を王城に上げるなど、不届き千万! 即刻、この王城から立ち去って貰いたい」

「兄上!!」

「……今、何と言った? 私はもう、お前を王族とは思ってはいない。先ほど、()の王城と言ったのが聞こえて来たが……まさかお前ではないよな?」

「……その通りではありませんか!」

「お前にはもう、王族の資格はない! さっさと出て行って欲しいものだ。もし、私の大切なものに手を挙げたなら、即刻叩き出してやろう」


 そう言い残し、シュテファンは去って行った。


 残されたバシリウスは、怒りの形相になりながらも、自分の手を強く握り、怒りを留めた。




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