58 王様に謁見(?)しました。
「こんな狭い部屋で済まないね。内密に済ませたかったのだ。羽の影響もあるから……ね」
ロザリファ王、アウグストが先ほどのシュテファンのように、気さくにドリス達に話しかけた。
「改めて、私がこの国の王、アウグストだ」
ドリスだけに向けて、アウグストが手を差し出した。
よく考えれば分かることだったが、リーナは第二王子の婚約者だから、当然親の国王とは顔見知り。
アンディもワシュー国の王族で、この王城に滞在しているから、当然知っているはず。
ドリスだけが初対面だったのだ。
「お初にお目にかかります。ベルンフリート・アルベルツ子爵が三女、ドリスと申します」
ドリスも手を差し出し、握手を交わした。
「私も宜しいかしら?」
ストレートの淡い金髪に紫の瞳を持つ、綺麗系美少女がドリスに話しかけた。
「ロザリファ国王の娘で、そこにいる兄とは同腹の、第二王女のユスティーナよ。貴女のお姉様とは親友なのだけれど、ご存知かしら?」
「はい。よく姉から伺っております」
「それは良かった。兄共々、そちらの家族とはご縁があるから、これからもよろしくね」
「はい」
挨拶はこの辺にして、話題は大精霊の羽に移った。
「これがその羽か……すごいな」
「綺麗……」
「陛下……殿下……それに近づいてはなりません……」
「どうした? 気持ち悪そうにして……」
「陛下。その近衛を羽から離した方が宜しいかと」
「なぜだ?」
「彼らには、上位の精霊が憑いていないので、魔力酔いを起こしているのですよ」
「……やはり、彼らではダメだったか」
「国王陛下とユスティーナ殿下には上位の精霊が憑いていらっしゃいますので、ご気分が悪くなる事がないのですよ」
「私もさっき、自分に上位の精霊が憑いている事を知らされたよ」
シュテファンの言葉に、アウグストとユスティーナは目を見開いた。
「私にそんな精霊が憑いているの!? 是非見たいわ~」
「精霊か。憑いているとは思わなかった」
「陛下、殿下、話の腰を折って申し訳ございませんが、こちらを早くどこかへ保管しないと、近衛が……」
「あ……そうだな。これに入れてくれ」
机の上に置いてあった、大きめな壺が入るくらいのガラスケースの蓋を、国王自ら開けた。
「これは、ただのガラスではありませんね」
「半信半疑で昔、献上されたものだ。何やら強力な魔力を抑える事のできるものであると」
「確かに、これなら大丈夫でしょう」
早速、その中に風の精霊の羽を入れ、蓋をすると、近衛二人が嘘の様に、気持ち悪さが無くなったという。
「蓋をした途端、一気にスッキリしました」
「さっきまでのはなんだったのでしょう?」
「効果は抜群だな」
ニヤリとアウグストが笑った。
見た事がなかったあどけない顔に、リーナとアンディは唖然とする。
こんな笑顔出来たんだ
ドリスは何でこのガラスの箱が、魔力を封じるのかが気になり、じーっと箱を覗いていた。
「届けてくれて、ありがとう。あと、お土産の方も受け取ったよ」
それは、フードを目深に被った二人組の男性の事だった。
「ゆっくりと茶でも飲みたいところだが、もうそろそろ仕事だ。早く帰って家族に顔を見せると良い」
「はい」
国王と王太子、王女は本当に名残惜しそうな顔をして、立ち去った。
そして入れ違いに、何とドリスの父が入ってきた。
「お父様!?」
「お初にお目にかかります。アンディ殿下、並びにアンジェリーナ様。ベルンフリート・アルベルツ子爵にございます」
「この度はご息女を巻き込んでしまい、申し訳ない」
「とんでもありません。この子が巻き込んだのではありませんか?」
「お父様……」
「アンジェリーナ様と娘の見送りに参りました。急ぎましょう。賑やかな花達がうろつく時間が迫っております」
その言葉に、リーナの身体が一瞬強張り、皆で門まで急いで向かった。
到着すると、先程風の馬をつけていた馬車には、ブローン家の馬がつけられていて、いつでも出発出来る状態になっていた。
後で聞いた話に寄ると、あらかじめ、王城にブローン家の馬を預けており、ドリス達が中へ入ったと同時に急いで取り付けられたと言う。
そして無事、リーナとドリスを送り出すことが出来た。
「大丈夫? リーナ」
「えぇ。ドリスのお父様のお陰で、助かりましたわ。王子とは会いたくないものですから」
公爵家の馬車は、アルベルツ家へ急いだ。
アンディは、ベルンフリートに謝辞を送った。
「鮮やかな対応だったな」
「お褒めくださり光栄にございます」
「私も例の花達に会うのはごめんだ。これで、失礼させて頂く」
アンディはリコと共に、間借りしている部屋へと急いだ。
二人が去った後、賑やかな声が聞こえてきた。
「おはよう! エミーリア。良く眠れたかい?」
ウェーブの金髪に碧眼の美少年が、ウェーブの茶髪に緑の瞳の愛らしい少女に向かって、熱い眼差しを送った。
「はい、とっても。でも……良いのでしょうか? 私が王城の部屋をお借りするなんて……」
「未来の私の夫人に、遠慮する必要はないよ?」
「ですが……」
「また、ドレスを買ってあげよう」
少年がにこやかに少女を見ていると、ウェーブの金髪にグレーの瞳の女性が現れた。
「バシリウス? あら、また来ていたの」
「アリーナ姉様」
「程々になさい。あの虫が煩いから」
「全くです」
すると、アリーナと呼ばれた少女に似た、妖艶な女性がこちらに向かって歩いて来た。
「あらぁ。私の子ども達は勢揃いね」
「お母様」
「母上」
「一緒に朝食へ行きましょう。エミーリアも」
「はい」
「そういえば、さっきとても気持ちが悪かったのに、突然スッキリしたの。不思議ね」
「お母様もですか!?」
「アリーナも? 貴方達は?」
「私も先ほど、そうでした」
「私もだ。何だったのだろう」
側女の家族達は、少々遅い朝食へと足を運んだ。
先に使用人を乗せた馬車が到着しており、ドリスの荷物を外に運んでいた。
そこに二人を乗せた馬車がアルベルツ家に到着し、ドリスは感謝を口にした。
「リーナ、ウチまで送ってくれて、ありがとう」
「どういたしまして。また誘うわ!」
「是非」
互いに笑い合って、ドリスは馬車を降りた。
久々の我が家に戻って来て、嬉しさがこみ上げてくる。
『やっぱりここが落ち着くねぇ』
「アイリスも?」
『ここ。本当にホッとする場所なんだよねぇ』
「私も」
執事が出て来て、ドリスの帰宅を歓迎した。
「おかえりをお待ち申しておりました。カレン様、オリバー様が、もう限界です」
執事のげっそりした顔に、ドリスは思わず苦笑した。
「ただいま戻りました!」
ドリスは元気よく、帰宅を報告した。
バタバタと走ってくる音に苦笑しつつも、ドリスは家族の温かみを感じた。




