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ドリスの学園生活が気まま過ぎて困る  作者: 朱村 木杏
第一章 いざ! 学園へ!!
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05 負けるものか!!


 馬車に揺られながら、ドリスは窓の外を見て、考え事をしていた。


 家族に申し訳ないなと思ったことがある。それは、入学前にうちでパーティーを開いてもらい、同年代の子ども達を集めてもらったというのに、一人も友達が出来なかったことだ。

 知り合いは出来たけど、友達とは程遠かった。

 恐らく私は、友達もうまく作れないだろう。それでも、精霊の話を聞くことくらいは出来ると思う。


 当初の目的である、公爵令嬢と王子様に、何としても話を聞かないと!


 ドリスは、馬車の中、静かに燃えていた。




 馬車の窓を見て、街に出たことがないドリスは興奮していた。


 義兄ローレンツが来たことにより、覚えなければならないことが増えたのと、ドリスの周りが慌ただしかったからだ。

 デリアの婚約に、カミラの出産で、大人達が慌ただしかったのである。

 ドリス自身も我儘言えないなと、街に行きたいとは一言も言わなかった。

 そんなことがあったので、ある意味箱入り令嬢のドリスにとって、街に出ることはちょっとした冒険。

 ウキウキしながら立ち並ぶ店を眺めていると、見覚えのあるロゴがあるパン屋が見えた。


 あ……あれ! もしかして、うちに納品してくれているパン屋さん!?


 それは、義兄ローレンツの平民の友人がやっている、パン屋だった。

 スタンダードなパンを主に食べているが、たまに菓子パンもおまけでつけてくれる時があった。

 

 菓子パン……とっても美味しいのよね~


 よく見ると、店内に、テーブルとイスもある。


 ここ! そこで食べられるんだ!? お小遣いはあるし、時間がある時に食べに行こう!


 ドリスの密かな楽しみが増えた。






 学園に着く直前、馬車を動かしてくれている使用人の男からも、心配されてしまった。


「ドリス様、もうすぐ、学園でございます」

「ここまでありがとう!」

 

 すると、この使用人の男から、あまり聞いたことがないような、真剣な声が返ってきた。


「また、すぐに参りますよ。ドリス様、私達使用人からも、言わせてくださいますか?」

「何?」

「もし、ドリス様が傷つくことがあれば、すぐにおっしゃってください。物理的な傷でも、心的なものでも」


 ……ちょっと物騒過ぎじゃない? え? 学園って、学問を学ぶところよね? 他の貴族の方とも仲良くしなきゃいけないし……?


「大丈夫じゃない?」

「……ドリス様。私共は、下位貴族にございます。上の者に逆らえず、ドリス様を傷つける人も、いるかもわかりません。ここは思ったより、楽しいところではございませんよ」


 それを聞いて、大人達が心配していたのを思い出した。


「……ありがとう。でも、私は引かないわよ!」


 精霊のためにね!!


「それでこそ、ドリス様ですね」


 使用人がやっと笑みを見せた。






 学園に着き、使用人と別れ、学園の関係者に案内をされた。


 ドリスの部屋は、女子寮の最上階。爵位で言えば、最下層の階だった。

 でも、一人部屋なのは、良かったと思う。四人くらいで、まとまって寝るかと思ったからだ。

 この階は、男爵位と子爵位の一年生が泊まる部屋だそうだ。


 その下の階が、二年生の男爵位と子爵位。

 またその下が、一年生の公爵位・侯爵位・伯爵位が泊まる。

 寮になっている一番下の階が、二年の公爵位・侯爵位・伯爵位。王族は一年・二年共にこの階に泊まる。なんでも、王族専用の部屋があるそうだ。

 その下には、男子と共用で皆が使う食堂や談話室、購買がある。

 寮講堂は別館にあり、風呂は、男女それぞれの寮にある。


 キーンコーンカーンコーン


 今日は鐘が鳴ったら、寮に併設されている、寮講堂に集まることになっている。

 ドリスは、自分の部屋の鍵を閉め、寮講堂に向かった。






 皆、パリッとした制服に、身を包んでいた。

 

 女子は、Aラインのワンピース型の制服。

 スカートの丈は、足首のところまであるロング丈。

 全体の色は濃い灰色で、袖口のところのみ、白い。

 その上から、丈の短い、白の軍隊風のベストを重ねていた。

 靴はローファーで、僅かしか見えてはいないが、白のハイソックスを履いている。


 女子の制服のスカート丈が長いのには理由がある。

 妙齢の女性が生足を出すなど、はしたないということと、ドレスを着ているのと同じ行動を心掛けなさいという戒めからである。


 男子は、白いシャツの上から、濃い灰色のベストを羽織り、青いネクタイを締めていた。

 その上から、白い軍隊風のコートを羽織っている。

 濃い灰色のスラックスを履き、足にはローファーがのぞく。

 



 

 現在、ロザリファは軍隊国家ではないのだが、未だに軍隊の印象が色濃く残る。

 かつては魔法を使えない国にも関わらず、全戦全勝と言っていいほど、その軍事力は世界からも警戒されていた。

 だが、ロザリファは国を奪うことをせず、その後は同盟国として良い関係を築いていったことから、世界的にも賞賛された。

 そのことを忘れないため、貴族の制服にも、軍隊国家であった名残が残っている。






 寮講堂に生徒が集まると、そこでクラス分けが発表された。

 見ると、目的の公爵令嬢と同じクラスになることが出来た!

 これで、話しかけやすくなったと思っていると、先生の方から、注意事項が書いてある紙が配られる。

 先生はそれを読み上げ、違反した生徒には、罰が下ると厳しい口調で言い渡した。


 注意事項の中に、侍従を伴っても良い場合という記述を見つけた。


 侍従を伴っても良いのは、王族のみ。

 それ以下の貴族は、公爵であっても、禁止である……と書いてある。


 辺りを見渡すと、侍従が2人居るのが見えた。

 

 この学年には、ワシュー王国から来る王子と、我が国ロザリファの第二王子の入学が決まっていた。

 

 多分その二人だなと思っていると、これからの流れの説明が始まったので、しっかりメモをとった。

 この後、それぞれの施設の使い方を教えてもらい、食事の時間まで、解散となった。






 皆、部屋の片付けが終わっていないのか、部屋に戻る人が多い。

 ドリスも、部屋に帰ることにした。

 

 夕食の時間になり、食堂に皆、集まっていた。


 夕食を受け取る順は、バラバラだが、席は上位貴族が優先だった。

 ドリスはなんとか、顔見知りを捜し、近くに座ることが出来た。

 

 そして、初めてこの生活に危機感を覚えたのである。


 特に、入浴の時間は、面倒だった。

 先に入れるのは、上位貴族。

 下位貴族の者は、上位貴族の後に手早く入らなければいけない。


 落ち着いて入れないじゃない!!

 

 心の中で愚痴りながら、なんとか入浴を済ませた。

 長い階段を一生懸命上って、自分の部屋に着くと、ドリスはベッドの上に倒れた。

 

 こんなに大変だとは思わなかった。

 

 二番目の姉のデリアは養子に入り、伯爵令嬢になってから学園に入ったので、この経験はしていない。

 同じく母、アマーリアも元伯爵令嬢だったので、恐らくこの経験はしていないだろう。

 一番上の姉、カミラは、学園すら通っていなかった。当時、貧乏だったため、行くことすら出来なかったのである。

 家族で、誰にもこの経験を共有出来ないのは、少し辛かった。


 これが、皆が心配していたことかぁ……


 やっと皆が心配していた意味が分かったドリスは、備え付けの机の引き出しを開けた。

 それは、母からプレゼントされた日記帳だった。

 日記帳を開き、最初のページに書き込んだ。


 負けるものか!


 決意表明を書き込み、ベッドに入り、横になる。ちょっと、家より硬いベットマットだった。

 

 私も、贅沢な暮らしが、板について来ちゃったな。


 そう思いながら、ドリスは目を閉じた。




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