54 女子トークをしよう!
男達がお茶会の部屋に到着し、ノックしてから扉を開くと、そこにはリーナと、涙を流すドリスの姿があった。
「ドリス!」
「だ……大丈夫だから……ごめ……止まらなくて、困ってて」
「あんな人達のことは無視して良いのに……」
「そうなんだよね。まさか……領地のこと言われるとは思わなくて……」
その後、落ち着いたドリスは、少しずつ皆に今の思いを話した。
「領を返上したってことは知っていたの。勿論アルベルツ家の歴史としても知っておくべきだし。けれど……もしかしたら、まだ……家のことを恨んでいるかもとも思っていて……。元あった領の場所も、知らないし……あえて避けてきたから……」
「ドリス。俺の情報だと、そんなに悪い領主ではなかったと聞いているんだ。恨まれていないと思う」
「……ありがとう。これは私が勝手に思っている事だから……まさか、彼女達が知っていると思わなくて……心の準備が出来ていなかったの。……あーあ。あんな人達に負けちゃったよ、私」
「ドリス。思いっきり泣いちゃいなさい! 私も社交界の恐さは知ってる。デビューしたら、もっと辛いことがあるかもしれない。今日は負けちゃったけど、次勝てば問題ないわ!!」
「リーナ……」
「辛いなら、今、出した方が良い。我慢するな、ドリス」
「エル……珍しく良いこと言ってる」
「え!? 常に言ってるだろ?」
「天然発言も多いからな、エルは」
「そんな……」
情けないエルの声に皆で笑い、ドリスは泣き笑いしながら、皆が居てくれて良かったと心から思った。
その日は、結局ドリスは目が赤いのを気にして、部屋に籠って食事を摂る事になった。
次の日。
お湯で絞ったタオルで、目を温めてもらい何とか、腫れぼったい目になるのを阻止したドリスは、皆の前に姿を見せた。
「おはよう」
「おはよう、ドリス」
「体調は?」
「大丈夫。迷惑かけてごめんなさい」
ドリスは、ちょっと疲れたような顔をしていた。
「今日は、家でゆっくりすることにしたから、ドリスは私と部屋でのんびりとお茶しましょうね」
「皆は?」
「俺達は剣の鍛錬をすることにしたんだ。本当は、気晴らしに街へと思ったけど、まだあいつらがいるみたいでさ」
聞くと、アンディの精霊ジンに三人組の行方を探ってもらうと、何と従者に無理言って一泊したらしい。
『あいつらが出て行ったら教えるよ』
「ありがとう。ジン」
『……元気出せよ! お前は笑顔な方が良い』
「その言葉……ジンが私の婚約者みたいだね」
ドリスの言葉に、皆が固まった。
「ど……どういう意味だ!? ドリス!!」
エルには精霊が見えないので、もちろん言葉は聞こえていない。
「内緒!」
「……えぇ!?」
その情けない声に、皆がニヤついた。
「アンディ!」
「エル。お前はもっと、大人の余裕を持った方が良いぞ」
「え……う……分かった。努力する」
そんなエルを見て、ドリスが微笑んでいると、側にアイリスがやってきて、ドリスの耳に囁いた。
『エルに愛されてるね』
思ってもいなかった一言にドリスは顔が熱くなり、アイリスを睨んだが、当の本人は楽しそうに微笑むだけだった。
リーナの部屋に通されると、王都の部屋とは違い、落ち着いた印象になっていた。
「ここを建てる時に、お祖母様が猛抗議したのですって。せめて中は普通が良いと言って」
「うん、確かに。王都のリーナの部屋、落ち着けない雰囲気だもん」
「私は生まれた時からだから、慣れているけれどね。ドリス、こっち」
リーナに促され窓を覗くと、男性陣が剣の鍛錬をしていた。
「私も出来たらやりたいな。しばらく剣握ってないし」
「思ったのだけれど、自分で戦うって必要なことかしら? 口で戦うことは理解できるけど、女性がそれをやる必要はあるの?」
「私の精霊は攻撃系ではないから、習った方が良いって殿下が。自分の身は自分で守りたいし」
「……そうよね。私も、狙われたことを忘れていたわ」
それは、二人で誰かに階段から落とされた事件だった。
「リーナの精霊はね、リーナと話したくってたまらないみたい。戦うとか以前に友人になりたいって」
「そうなの……話したいとは思うけれど、まだ……」
「まぁ、精霊を視るには、色々と手続きも必要だしね」
ドリスはまず、父親に許可を取って、国王の許可を取って、アンディの父であるワシューの国王に許可を取って、ようやく精霊を視る事が出来た。
「精霊魔法士になるとしたら、私も剣を持った方が良いの?」
「リーナは攻撃系の精霊だから、大丈夫かなって思うけど……殿下に相談して見たら?」
「……そうね」
「リーナ。殿下の事、好き?」
「ふぇ!?」
変な声が出てしまい、恥ずかしがるリーナ。
か……可愛い!!
リーナは、魅力的だ。
黒の艶のある髪、この国にはいない、燃えるようなオレンジの瞳。そして、同年代では一番と言って良い程、豊かな胸でスタイル抜群の身体。
大人っぽい外見でありながら、動揺すると年相応の顔になり、照れている姿は同性から見ても、心を掴ませるほどの魅力があった。
「殿下とは……友人で……」
「何もないなら、動揺することはないんじゃない?」
「……そうかしら……もう! ドリスを元気付けようとしたのに、何でこんなことに!! ドリスこそ、エルとどうなのですの!!」
「え? どうって……」
すると、リーナはニヤリと微笑んだ。
「あら? お顔が真っ赤ですわよ?」
「え!?」
「これでおあいこですわ!」
「ってことは……どうするの? 第二王子」
「最初から一緒になるつもりはありませんわ!! アンディが私を選んでくれるか……分かりませんけれど」
ドリスは口を開こうとしたが、すぐやめた。
それは、本人の行動次第で変わることだから。
二人の心に、小さな灯火がついたことを、互いに自覚した日であった。




