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ドリスの学園生活が気まま過ぎて困る  作者: 朱村 木杏
第二章 三領巡りに出発!!
54/94

52 お茶会の時間。それは女の戦場です!!


 次の日の朝。

 訪問者は我が物顔でやって来た。


「お招きありがとうございますわ! アンジェリーナ様」


 三人を代表して、アリアネ・グロック侯爵令嬢が挨拶をする。

 正直、()()()()()()()ので、ブローン公爵家側は苦笑いを浮かべた。


「こちらこそ、我が領へようこそ。アリアネ様、ベルタ様、グロリア様」


 リーナは三人組をにこやかに出迎えたが、正直さっさと出て行けとばかりに、すぐに部屋に案内する。


 部屋に入ると、インテリアはクラシカルな雰囲気で、まとまっていた。

 丸いテーブルには、白いレースのテーブルクロスが。そのテーブルを囲むように、木目が目立つ背もたれがある木の椅子が五つ用意されている。

 全体的に色味が少なく、どのようなドレスの色でも映えるような、正統派なインテリアだった。

 

 お茶会の部屋にはすでに、ドリスが椅子に座って待っていた。


「あら……貴女もおりましたの」


 アリアネがトーンを落とした声で、ドリスを下に見た。


 貴女が私とも話したいと言ったのではないの!?


 ドリスは心の中で毒づくも、平静を装い口を開いた。


「休み中は是非にと、アンジェリーナ様に誘って頂きましたから」


 見えない雷が、部屋に緊張感をもたらしていた。


『恐いよ~!! ドリス、こんなのと渡り合えるなんてすごい~』


 ドリスの頭の上で、アイリスがこの状況をブルブル震えながら見守っている。






 全員が席に着くと、控えていた侍女が、お茶をカップに注ぎ始めた。その間ドリスは、皆の顔を伺っていた。


 まずは、アリアネ・グロック侯爵令嬢。三人組のボスで、縦ロールの金髪に、タレ目の紫の瞳を持つ少女。

 薄紫を基調としたドレスを着ていた。

 リーナの隣に席をつき、反対側にいるドリスを見下すように見ている。


 次に、ベルタ・ビットナー伯爵令嬢。きついパーマの茶髪に、碧眼の少し地味目な少女。

 黄色のドレスが良く似合っている。

 つり目の瞳で、ドリスを射抜いていた。


 最後に、グロリア・ケール伯爵令嬢。ストレートの茶髪にグレーの瞳の穏やかそうな顔の少女だ。

 青のドレスを品良く着ていた。

 柔らかい笑みを浮かべているのに、なぜか黒い物を孕んでいるような瞳でこちらを見ていた。


 リーナはというと、仮面を貼り付けている顔をしていた。目は笑っておらず、口元だけが口角を上げている。

 

 席は丸いテーブルに五つ。リーナの席から時計周りにアリアネ、ベルタ、グロリア、ドリスの順に座っていた。


 その席順も、三人組には面白くない。さらに仲の良さをアピールしているのか、ドリスとリーナが緑のドレス着ているのも、癇に障る。


 全員に紅茶が行き渡ったところで、お茶会が始まった。






「皆様、夏は何をなさってましたの?」

「皆、一旦領地に帰って、羽を伸ばしておりました」

「まぁ! 皆様の領地は……確か、南……で合っていたかしら?」

「覚えていてくださいましたの!? 嬉しい」

「光栄ですわ」

「とても海が綺麗なところですのよ」

「そうですの。私の領地とは、大分違うのでしょうね」

「はい。でも、その土地ごとに趣が違って良いと思いますわ」


 すると、ニンマリと微笑みながら、ドリスに目だけを向けた。


「あら、失礼。領がない方には関係の無い話でしたわ」

「どうぞ、お気になさらず。皆様の話を聞いているだけでも、面白いですもの」

「あらそう。なら良いですわ」


 きつい目をドリスに向けながら、話を続ける。


「そうそう。実は私、婚約者が決まりましたの」

「アリアネ様の! どんな方なのかしら?」


 聞くと同じ過激派で、五歳年上の方だった。


「年上ですけれど、以前から交流があった方です」

「あら……では幼馴染……というご関係でしたの?」

「そうですね。私にとって兄のような存在でしたので、今でも信じられないのですが……」

「あら……初々しいしくっていいわね」

「アンジェリーナ様だって、いらっしゃるではありませんか。パシリウス様が! 第二王子殿下が婚約者なんて、誰も夢見るものですわ」


 ドリスにはピシッという音が聞こえた。


 これは探り? 本当に話の流れ? 

 

 心の中で戸惑うドリスに対し、リーナは冷静に対応していた。


「そう?」

「当たり前です! なのにあの女……」


 あの女とは、エミーリア・ボーム男爵令嬢のことである。

 第二王子とは同じクラスであり、よく一緒にいるという噂は誰もが知っていた。


「アンジェリーナ様はお優しすぎでは? 注意して差し上げた方が……」


 ベルタが眉をハの字にして、心配そうな表情を作った。


「いいえ。私の申し上げることを殿下はお聞きになりませんわ。意味のない事はしたくはないの」

「あの女が付け上がっても良いのですか?」

「今のところ、そんな様子は見えないから……かしらね。残念ながら、私は会ったことがないのよ。いつも又聞きなの」

「これ以上付け上がる、下位貴族が増えても、迷惑だと思うのですが……ほら、その方のように」


 三人組は一斉に、ドリスを睨みつけた。


 こう来たか!!


 ドリスは「受けてやろうじゃないの!」とばかりに、にっこりと微笑んだ。



 



「私が何かいたしました?」

「貴女、子爵家の者にも関わらず、貴族の頂点である、公爵家のアンジェリーナ様に付きまとって……身の程知らずにも程がありますわ」

「以前にも言われましたが、それは友人とおっしゃってくださる、アンジェリーナ様の言葉を信じていないということではございませんか?」

「それは……」

「ドリスと友人になったのは、紛れもなく本当の事ですわ。彼女とは話も合いますし、成績も素晴らしいものでございますから」


 それには三人組の表情が曇った。

 だが、グロリアの発言で、ドリスは衝撃を受ける結果になった。


「領を手放した愚かな貴族が、何か?」


 ドリスは目を見開いた。

 彼女は知っていたのだ。アルベルツ家が、今から約二十年前に、領を手放した事実を。


「呆れて物が言えませんわ。領民を手放す愚かな行為。裏切られた領民は怒り狂ったでしょうね」


 ドリスの手は手を握り締めながら、耐えていた。


「そうそう。何かの事業の失敗……でしたっけ? それが、領民を苦しめる結果になったなんて……愚の骨頂ですわ!」

「貴族としての責任を果たせていないだなんて……なんて愚かなのかしら?」


 形勢逆転とばかりに、ドリスを見下しながら笑う三人組。

 当然ながら、この部屋の雰囲気は最悪を極めるものになった。


「良いパトロンを得たようだけど、それでやっていけるかしら?」

「私たちより格下じゃ……ねぇ」

「本当に」


 クスクスと嘲るように笑う彼女達の声が、ドリスの耳にこびりついた。


「ねぇ。皆様。我が領には、買い物にいらっしゃったのではなくて?」


 リーナの問いかけにドキッとする三人組。どうやら、そっちがメインらしい。


「もうそろそろ、街へ向かった方が良いですわ。着いたら丁度お昼時ですし、予約しないで入れるレストランもございますから。混む前にいらっしゃるのがオススメですわ。そしてその後、お買い物をゆっくり楽しむのです。その方がスムーズに事が運びますわ」

「まぁ! そうなのですの? では、もうそろそろお暇いたしますわ」


 リーナに導かれながら、三人組はドリスを置いて、さっさと出て行った。



 負けた。


 ドリスはお茶会での敗北に、悔しくてつぅっと一雫、涙を垂らした。



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