48 三人組のボスからのお手紙です!
執事に部屋を案内されると、先に中に入っていた、男三人組がソファーに腰をかけていた。馬車をしまっていたリコも、そのソファーの真横に立っている。
「終わった?」
「お疲れ」
「しまってきたよ。やっぱり使用人達にも影響あるかもね」
「実際、倉庫の鍵を渡しにきた執事が吐き気を起こしていた」
「やっぱりかぁ。大変なものを預けられちゃったね。アンディ」
「嫌だが、仕様がない。私とリーナとアルベルツしか、持つことが出来ないしな」
「今日は、いかがなさいます? まだ午前中ですし、どこか行くこともできますけれど……」
そうリーナが言うと、執事は思い出したとばかりに、一通の手紙を差し出した。
「それは?」
ドリスが手紙を受け取ったリーナに聞くと、リーナがしかめ面を作った。
「淑女とは思えない顔だな」
トールがからかうと、その顔のままリーナはトールへ顔を向けた。
「良いではないですか。もう気心知れた仲なのですし。ハイエナ達からの面会状ですわ」
皆に手紙を見せると、アリアネ・グロックという名前が目に入った。
「グロック侯爵令嬢か……」
「知ってるのか?」
エルがトールに聞くと、苦い顔をした。
「過激派のご令嬢だよ。リーナに取り入って、過激派に引き摺り込もうとしているんだ」
「あ! だから、教室でも接触してきているんだ!」
ドリスはこの名前に覚えがあった。
彼女は同じクラスの、リーナによく付きまとっている三人組のボスだ。
「過激派だったんだね」
「そうですわ。うちは中立で、しかも王族の血も入っておりますもの。親は無理でも子なら……という考えなのでしょう。しかも私は、その過激派が盛り立てている、第二王子の婚約者ですから……」
「なぜ、リーナが婚約者になっているんだ? 過激派から選ぶんじゃないのか?」
エルの問いかけに、苦々しい顔をしながらリーナは口を開いた。
「過激派を牽制するために選ばれたと言っても良いですわね。私は公爵令嬢ですし、中立派のトップに近いですから。王は私と接することで、王子が中立に傾けばと思っていたそうなのですけれど……思惑は外れましたわ」
第二王子は、母親の言うことばかり信じているらしい。
「あの王子じゃ傀儡の王、一直線だな」
呆れた口調トールがため息をつくと、すかさずリーナが突っ込んだ。
「その前に王太子殿下がいらっしゃるでしょう? 殿下はかなり優秀で、その第二王子を王族とは認めていないのですよ」
「そうなのか」
エルが初めて聞いたという顔をすると、仕方ないという表情でリーナが説明をした。
「第二王子の姉の第一王女も、王族とは見ていないのです。唯一認めて居るのは、王太子と同腹の第二王女殿下のみですよ」
「第二王女殿下って、ユスティーナ様? 確か、姉の友人だったはずだけど」
「お! さすがドリス! 良い伝手があるな」
トールが茶々を入れるが、リーナは無視して続けた。
「そうですわ。その方もかなり頭が良くって、今は王太子殿下の補佐もしていますわ」
「え! 王女なのに、手伝って居るのか?」
エルが信じられないという顔を向けると、リーナも「そうなのよ」という顔で答えた。
「王太子殿下にも側近は居るのだけれど、少ないらしいのよ。本当は、王太子殿下の友人の男爵子息を入れたかったみたいなのだけど」
「まず男爵子息じゃ、側近になれないだろ?」
「ここはロザリファですわよ? アンディ殿下。当代の王は能力主義です!」
「あ! それ、私の義兄。カミラ姉様の夫なの。自分の商会を立ち上げたいからって、お断りしたって聞いてる」
「ローレンツ卿のことか! 今をときめくベック三兄弟の一人! 優秀揃いの兄弟の中でも、この学園を男爵でありながら、王太子を抑えてトップを貫いた歴史的人物!」
トールが熱く語ると、エルが戸惑った表情を見せた。
「ドリスの家族……すごくないか?」
アンディもそれに頷き、若干呆れた顔をした。
「家格が低いのに……なんなんだ、その人脈」
「知らないよぉ。勝手にそうなったの」
ドリスの意思とは関係なく、家族が大物と付き合うことが多かっただけと言ったが、皆はドリスはジト目で見つめる。
代表してアンディが口を開いた。
「人のこと言えるか?」
それでやっと気づいた。ドリス自身もワシューの王族であるアンディとも、公爵令嬢のリーナとも友人であった。
「た……たまたまだと思う! うん。……たまたま」
「そういう家系なのかもな」
「たまたまで? すごい家系だな」
微妙な空気になってしまったので、ドリスがアンディに気になっていたことを尋ねた。
「殿下は、ロザリファの第二王子殿下とはお話しになったのですか?」
「挨拶程度だ。寮に入れないときは、王城で世話になるから、顔合わせは一応している。王太子と第二王女には好感が持てるが、第一王女と第二王子には関わりたくないな。
私の事をたかが第二王子だからと見下している節があった。ジンにも調べさせたが、私はいずれ臣籍降下するからと、価値を見出していない事が分かった。……バカには私が『外交官になる』と言う発想がないのかと疑ったね」
「外交官になるのですか?」
「あぁ。その方が情報収集もしやすいし、この国にもその都合とか理由つけて来られるだろ? それに、臣籍降下の話はないからな」
「え!? それじゃ、王族として外交官に?」
「その予定だ。私は兄の補佐をしたいからな」
殿下も将来の事考えてるんだなぁ
ドリスが思った瞬間「はっ」とリーナの手紙の事を思い出した。
「リーナ。話が逸れちゃったけど、グロック侯爵令嬢の手紙って何て書いてあったの?」
それでようやくみんなも気づき、手紙に注目した。
「うちの領に来たいから、予定を教えて欲しいとおっしゃっているの。多分、自分が仲の良い友人だという事をアピールしたいのでしょうね。あるいは、買い物をしたいだけでしょう。うちの領には服もジュエリーも貴族向けのものも豊富ですから」
「断る事は出来ないのか?」
「伯爵の子達だったら、突っぱねる事が出来るのだけれど、グロッグ侯爵は古くからある名門貴族だから、形だけでも会わないとダメかもしれないわ……それよりもね」
「どうしたの?」
「ぜひ、ドリスとも会いたいって書いてあるのよ」
それって……明らかに、私をいじめる気だよね?




