04 一生の別れじゃないよ!?
作者のお気に入り回の一つです。
ドリスは母のアマーリアに、寮に行く荷物のチェックをお願いした。
「うん。問題ないわ!!」
「ありがとう。 でも、お母様の頃は大丈夫でも、今は違う場合があるからなぁ……」
「そうね。さすがに私も、それには疎いわ」
アマーリアが通っていた時と、今では事情が違う。昔は購買で買えても、今は買えなかったりする場合があるからだ。
すると、侍女がタイミングよく、手紙を持って来た。
「ドリス様! デリア様からです」
「え!?」
ドリスは思わず、驚いた顔で侍女を見てしまった。
「出来るだけ早くドリス様に渡したかったと、ブレンターノ家の使用人が、走って来てくださいました」
「ありがとう……!!」
ドリスはそれを受け取り、中身を確かめた。
「……あ! それかぁ。 もっと持って行く方が良いかな?」
「そうねぇ……あって損はないわよね」
「考えると……これ、少ないかも」
「そういえば……寮にある購買も、開いている時間がまばらだしね」
「そうなの!?」
「開いているはずの時間に行ったら、突然休業になっていたり。朝は開いていたのに、帰ると閉まっていたり。ゆるいのよね~」
盲点だった物を、結構多めに詰め直し、準備は完了した。
もちろん、デリアにお礼の手紙も送った。
ドリスは明日、学園に向かう。
「いよいよ明日ね」
「さみしくなるなぁ……」
カレンは、キョロキョロして、意味が分からないという顔をしている。
「ドリス叔母ちゃまは、明日から学園だから、しばらく家からいなくなるんだよ」
父であるローレンツが、分かるように言うと、カレンの顔がだんだん泣き顔になってしまった。
「おばちゃま……あした……いないの?」
「大丈夫だよ! いつもは無理だけど、たまに帰って来るから……」
ドリスが笑顔で言っても、顔が元には戻らない。
ついに、カレンの目から、涙が決壊してしまった。
「やぁーーーーだぁーーーー!! ドリおばちゃヒッ……あーーーーーー!!!!」
「カレンーーーー!! 大丈夫!! 帰って来るから!!」
「あぁーーーーーー!!!!」
「すいません。落ち着かせるので……」
ローレンツはそう言うと、カレンをだっこし、侍女が代わろうとするのを制止し、食堂を出た。
「言ってなかったのね」
「こうなるのを予測していたのかも」
「いつもドリスがかまっていたから……」
ドリスは困った顔で、微笑みを浮かべた。
「そういえば、カミラ姉様とオリバーは……」
「それが……ご機嫌斜めみたいなの。朝もそうだったけど、何か三日前くらいから、様子がおかしいのよね」
そういえば、三日前くらいから、オリバーに会ってないような……
ドリスがそう思うと、ぐずっているオリバーと一緒に、淡い金髪に碧眼の、つり目の綺麗系美人の姉、カミラが食堂に入って来た。
「ドリス、オリバーを少しだっこしてあげてくれない? この子、ドリスが学園に行くことを知って、わざとグズっていたみたいなの」
「え!?」
「そうすれば、ドリスは行かないと思ったみたい」
オリバーは、グズグズの顔をしながら、ドリスに向かって両手を前に出した。
「どー……ばー!」
ドリスおばちゃんと言いたいのだろうか。
今年で一歳とはいえ、今はまだゼロ歳のこの子は、賢い。
ストレートな淡い金髪と碧眼は、カミラそっくりなのに、面立ちはローレンツに似ている男の子は、ドリスが抱くと、離れたくないとばかりに、顔を肩に押し付けて来た。
「オリバー、おばさんはすぐに帰って来るよ」
「……」
「いい子にして待っててね」
軽くぎゅっと抱きしめると、オリバーは、まだ涙を流していた。
「はい! もう、いいでしょ」
カミラは、ひょいっとオリバーを持ち上げ、抱き上げると「やーーーー!!」とオリバーは騒ぎ出した。
「カミラ姉様、どうしてオリバーが言いたいことが分かったの?」
「オリバーがいる前で、ドリスのことを侍女二人で、話していたらしいの。さみしくなるって。そしたら、オリバーが何か感じたらしくて、その後からグズり始めたのよ。さっきそのことを思い出した、侍女のビアンカが、教えてくれたの。それで聞いてみたらうなづくから、あぁ、この子は知っていたのかって……」
それを聞いて、アマーリアとベルンフリートも驚く。
「まだ……ゼロ歳だよな」
「かなり……賢いわね」
すると、カレンもトコトコと歩いて戻って来た。
「ドリおばちゃま! また、あえるの?」
「もちろん」
「わたし、まってる! おとうしゃまがいってたの! すぐかえってくるって!」
「うん! 待っててね!」
もう……もう!!
この可愛い天使達に愛されて、幸せ過ぎる~~!!!!!!
ドリスがだらしない顔で、キュンキュンしていると、ローレンツも戻って来ていた。
「ドリス、ごめんね。うちの子達、ドリスが大好きだから」
「ううん! 気にしないで!!」
寧ろ、ごちそうさまです!!
オリバーはやっと泣き止み、眠くなったところで、カミラと部屋に戻った。
「やっと、食べられるな」
「うちの子達が、お騒がせしました」
「では、カミラとオリバーはいないが、食べようじゃないか! ドリスの学園入学を祝して……乾杯!」
「「「「乾杯!!!!」」」」
次の日。
「身体に気をつけて……といっても、すぐ帰って来れる距離だが」
このアルベルツ家は、王都にある、領無しの貴族だ。
入学する王立ロザリファ貴族学園は、同じ王都内。
通常馬車だが、歩いてもなんとか帰れる距離にあった。
「何かあったら、すぐに手紙を出してね!」
「困ったことがあったら、すぐに知らせてくれよ!」
「分かってる! お母様もローレンツ義兄様も心配性なんだから」
すると、子ども達二人を連れたカミラが現れた。
「はい、二人とも。 ドリス叔母様にご挨拶しなさい」
「ドリおばちゃま。……いってらっしゃい」
「……ドー……ら」
2人共、行って欲しくない空気が漂っていて、周りの大人は苦笑いだ。
「ドリス、本当に何かあったら連絡してね。 辛かったらすぐ言うのよ!」
「カミラ姉様まで……」
カミラは、ドリスと同じ色の瞳で見つめる。その瞳からは、心配という思いが伝わって来た。
「大丈夫です! もし、一人でいることになっても、私は全然気にしないし!」
「「「「それが一番心配なんだよ!!」」」」
ドリスは皆に言われてしまい、参ったなと苦笑いを浮かべた。
「もう、時間だし、行くね! 休みの日は、出来るだけ帰る予定だから!」
「「「「いってらっしゃい!!!!」」」」
学園に行くだけで、大げさなんだから!
ドリスはそう思いながら、馬車に乗り込んだ。
侍女のビアンカと出てきますが、それは「つり目」で登場したキャラです。
この回しか名前が出てきませんので、気になった方は、「つり目」でチェックしてみてください。
カレンとオリバーはこの後も出てきますので、是非、ご覧ください。
カレンとオリバーが出てくる回は、大体作者お気に入りです。