45 さぁ! 皆で種を蒔こう!
とってもご都合主義な話が出て来ます。
そこについては深くつっこまないでください。
結局その日は、白い狼の魔獣達を連れて、アピッツ侯爵領邸へ戻ることになった。
今、同行している馬達は、狼達が自分に危害を加えないと分かったのか、最初のように怯えなくなったが、邸に残っている馬達は動揺するだろうからと、別の場所を用意することになった。
ドリスは戻った後、早速アンディに考えたことを提案した。
「なるほど。それは私が行った方が良いな。リコ、お前も肉と骨の処理に貢献してくれ」
「かしこまりました」
「アルベルツ。あれを使うのだろう?」
「はい。……ちょうど良いですよね?」
「あぁ。エルとアピッツ侯爵から、許可をもらってこい」
「わかりました!」
直ぐにドリスはアンディとリコと一緒に、エルとアピッツ侯爵の元へ行き、あの種の許可を取った。
「増やすつもりはなかったのだが、仕方あるまい。……にしても、なぜ、こんなことに……」
苦い顔をしているアピッツ侯爵に、ドリスはアイリスから聞いた話を伝えた。
「アイリス……私に憑いている精霊に聞いたのですけれど、魔力を使い過ぎた上位の魔獣が、手っ取り早く魔力を取り込むために、魔獣達を食べたそうです。あそこに高濃度の魔素が溜まっていたのは、回復した上位の魔獣のせいだと。……鳥の魔獣だったそうですよ。南へ飛んで行ったと、狼達が言っていました」
「上位の魔獣……今までこんなことはなかったのだが……」
「あの狼達が他国からきた魔獣達を退治していたそうです。人を襲わないように。たまに人間の前に現れる魔獣は、その狼達が取りこぼした魔獣か、我を失った魔獣だそうです」
「他国から? ここは北側だが、辺境の地では……」
「たまにひっそりと入ってくることもあるそうです。魔力を感じ取って、この国で生まれたものか、そうでないかが分かると。……先ほど話した鳥の魔獣は、ギラザックから来たのではないかと言っていたそうです」
この話は、領邸に帰るまでの間、アイリスにお願いして狼達に聞いてもらったものだ。
ギラザックとは、ロザリファの北に位置する国で、ロザリファとは細い道で繋がっているギラザック王国のことだ。ちなみにこの国は、精霊が視える国で、精霊魔法、召喚魔法、空間魔法が使える国として知られている。
また、数多くの魔獣がいることでも知られ、魔素が大国ドラッファルグ王国に次いで多い国とされていた。
なぜ、南隣にあるロザリファの魔素が薄いのかというと、ロザリファ側に魔素が流れてくる前に、風でギラザック側に押しとどまってしまうらしい。今だにその原因は解明されていないので、詳しくは説明できないらしい。
ギラザックでは、とても不思議な現象として、受け取っているという。
「ギラザックか……そちらも今は、食料問題が深刻化しているな」
アンディが言うと、ドリスも以前聞いた話を思い出した。
「そっちもですか」
「あぁ。だが、わざわざ細い道を通って、こちら側に来るとは……」
「食料事情が魔獣にまで及んでいるということか?」
エルも、真剣な顔つきで、独り言のように言った。
アピッツ侯爵は気を取り直そうと、話題を変え、ドリスに顔を向けた。
「とにかく、狼達は我らを守ってくれていたということが分かった。手厚く保護しよう。あの種については、少しだけ残して、後は全て君に託そう。明日にでも、すぐに渡せるよう手配しておく」
アピッツ侯爵の了解も得たので、すかさずアンディが明日、山へ向かうことを告げた。
「我らは早速、明日にでも狼達と山へ向かうつもりだ。馬は必要ない」
「では、少し兵を貸しましょう。一応護衛です。それだけは譲れません」
「分かった。朝食が終わった一時間後には出るつもりだ」
「かしこまりました。そのように」
明日は、皆で山へ魔獣達の処理をすることになったが……
「リーナはどうする?」
「魔力が高い人でないと、入れないのでしょう? 私は上位の精霊が憑いているそうですから、入れるかも知れませんよね?」
「だが、魔獣の残骸も見ることになる」
「では、それらを燃やした後、中に入るのは? 私は目を背けておりますから」
「……私は来てもらいたいな。人手不足だし」
「……言うことをちゃんと聞くか?」
「あったりまえですわ!!」
アンディに対して怒った風に言ったが、顔はちょっと嬉しそうなリーナだった。
翌日、アピッツ侯爵は出かける用があり、執事から例の種を受け取った。
「お気をつけて。帰りをお待ちしております」
心配そうにドリスを見て、執事は言った。
「ありがとう」
お礼を言って、ドリスは皆に合流した。
「良し。行こう」
アンディの号令で、山へ向かった。
一日ぶりに会った狼達は、意外と元気そうだった。皆、身体を洗ってもらったらしく、昨日よりも真っ白でフサフサしている。狼達も嬉しそうだった。
狼達の縄張りに着いたが、リーナだけは兵士と一緒に惨状が見えないところに避難していた。
「確かにこれは……ちょっと私ではきついわ」
ハンカチで口を抑えながら、リーナは臭いと戦っていた。
「やはり元を何とかしなければダメだな。リコ」
「はい。やってくれるか?」
リコの炎の精霊、エンが『おう!』と答えると、次々に魔獣の残骸を燃やしていった。辺りは焦げ臭いが立ち込んでいる。
「ある程度、燃やし終わったら、火種を消してくれ。その後私が風で、臭いを拡散する」
アンディの指示通り、ある程度燃やし終わったところで、火種を消した。
「炎の精霊って、炎をつけるだけかと思った」
「消すこともできるのですよ。炎の精霊憑きだったり、炎の加護がある者の側では、火事が起きないのです」
リコの説明を聞いている間に、アンディはジンに頼み、臭いを拡散してもらっていた。
「ある程度、臭いは薄れたが、まだ、完全とはいかないか」
「次は私の出番だね。リーナ! こっち来て、種蒔くの手伝って!!」
リーナはドリスに呼ばれ、ハンカチで口を抑えながら、軽く走ってこちらへ来た。
「あ! 入れたわ」
「本当だ。エルとトールはやっぱり無理?」
「ダメ。足がいう事聞かない」
「俺も」
これで、リーナも高い魔力の持ち主だという事が証明された。
「リーナ、手を出して」
ドリスがリーナの手に種を乗せた。
「殿下とリコさんも」
皆で手分けして、種を蒔いた。
「蒔き終わったぞ」
「では……あれ?」
「どうしたの?」
『もう、勝手に成長してるね〜』
皆、一斉に下を見ると、蒔いたところにポンポン花が咲いていた。
『かなり高濃度の魔素だったから、花にとってはかなり良い環境なのかも』
「そのようだな」
こんなやり取りをしている間にも、ポンポン花は咲いている。
「おい! エル! トール! まだこちらへ来れないのか?」
「え……あ! ちょっと足が動いた」
「すぐには難しいけど、このままいけば行けるかも」
花はいつの間にか種になったのか、花が咲いていたところに枯れた花が現れた。その周りにもまた、新たに花が咲いている。
「これ、摘み取らないと、どんどん増殖していくぞ」
「でも、まだ魔素が薄くならないから、落ち着いてから摘み取った方が良いと思う」
「こうなると、ここの土壌が心配だな」
「アイリス。土の様子はわかる?」
『大丈夫だよ。この花は、魔素にしか反応しないから、土の養分には問題なし!!』
「……だ、そうです」
「……摘み取るのが大変だな」
花は思った以上に増殖した。学園の運動場くらいに広げて蒔いた種は、その十倍の広さにまで広がり、おびただしい量の花が咲く結果となった。




