44 魔獣達の縄張りに行こう!
残酷なシーンあり
魔獣達はクズ肉がなくなると、名残惜しそうに肉を包んでいた葉っぱを舐めていた。
「そんなに食料がなかったのかな?」
「多分そうだろ。馬を食べないだけマシだな」
ドリスは今頃、馬を食べられる危険性に気づいた。
兵達に預けた馬に顔を向けると、馬達も若干ビビっているのか、落ち着かない様子だ。
「今なら話が聞けそうだ」
トールがそう言うと、魔獣達に近づき、なぜお腹を減らしていたのか尋ねた。
「なんで、お腹減らしていたんだ? 他の魔獣に縄張りを取られたか?」
魔獣達はうなずく。
「その魔獣は今もいるのか?」
横に首を振った。
それに、周りの人も安堵する。
「じゃあそいつが、お前らの縄張りで食い散らかして、餌がないのか」
こくんとうなずき、悲しい表情を浮かべた。
「こいつらより、よっぽど上位の魔獣だったんだな。こいつらも強そうなのに、それ以上のがうろついていたらしい」
その言葉に、周りはゾッとした。
「お前ら、よく耐えたなぁ。偉いぞ~」
トールとエル、ドリスで魔獣達を撫でると、嬉しそうにすり寄って来る。
「もっと詳しい話を聞きたいけど、これが限度だな」
「契約しなくても聴ける方法ってあるの?」
『ド~リ~ス~。私が居るじゃない!!』
上から声がするので向いてみると、プンプン顔のアイリスがいた。
「ごめん。忘れてた。アイリスは言葉がわかるの?」
『わかるよぉ! もっと頼って!』
ドリスに抱きつきながら、甘えるアイリスにドリスはお願いした。
「お願いアイリス様!! 魔獣達に詳しく話を聞いてください!!」
『分かればよろしい!! 聞いてしんぜよう!!』
アイリスが魔獣達の頭に話を聞きに行った。
「精霊って、魔獣の言葉が話せるのか?」
「みたい。ここはアイリスに任せよう」
しばらくすると、アイリスが戻って来た。
アイリスによると、あの魔獣達は昔からこの辺を縄張りにしていたらしい。しかも、他国から来た魔獣を追い払い、住民に危害が出ないようにしていたそう。
しかし、今回来た魔獣は、自分達よりも大分格上の相手だったため、睨まれただけでその場を動けなくなり、黙って縄張りを食い散らかすのをみていたという。
その魔獣は鳥で、魔力を手っ取り早く取り込むために、魔獣達を食していたという。なぜ、狼の魔獣達が無事だったかというと、縄張りの主人だったからという理由で「また来たとき頼むわ」とばかりに遠慮なく、食い散らかした。
食い散らかした後は、さっさとその場を後にし、南に向けて飛び立ったらしい。
その後縄張りに、餌となる魔獣達が寄り付かなくなり、しかもその縄張りの主であるはずの、狼の魔獣達も近寄れなくなり、食料は減り、なんとか食料を確保できないかと、山の麓まで降りて来たという。
「その狼達が、アピッツ領の守り神みたいなものだったのか」
「エル、この子達、一時保護って形にしない? ここに来て餌をやるのも良いけど、それだと他の魔獣達も来そうだし……」
「そうだな。後、縄張りだったところにも案内してもらおう。そこに魔獣の残骸があるんだろう? 一つにまとめて燃やして、土に埋めた方が良いかもしれない」
「それなら、魔核が取れるかな? 良い値で売れるかもよ?」
「魔核?」
ドリスが尋ねると、魔獣達が自分の額の石に片方の前足で差した。
「その宝石みたいなのが魔核なんだ」
エルに教えてもらい「へぇ~」と言いながら、ドリスは魔獣達の魔核をのぞく。
魔獣達の魔核はサファイヤのような深い青で、白い毛並みの彼らにとても映えている。魔獣達は「僕のも見て」とばかりに、ドリスの前の取り合いをしていた。
『魔核は取れるかもしれないけど、質は良くないかも』
「どうして? アイリス」
『だって、魔力を得るために狩られたなら、魔核に集まってる魔力を吸収したはずだもの。魔核も小さくなって使い物にならないかも』
「……って、アイリスが言ってるよ」
「そっか。そっちは期待できないか」
「とにかく案内してもらおう。兵士を十名ほど連れていく。ドリス。申し訳ないけど、ここから先は連れていけない」
「え?」
「もし、倒れでもしたら、足手まといだからだ」
エルの真剣な声が、ドリスの心を少しだけ揺さぶった。
それでもドリスは、皆について行きたかった。
「……もし、倒れそうになったら、アイリスにこの麓まで運んでもらう」
『私がその判断をすることは可能だよ。もしドリスが倒れそうなら、強制送還できます!』
「……アイリスもそう言ってくれているから、私も連れてって。こう言う機会、これから多そうだし」
エルは難しい顔をしながら、コクリとうなずいた。
「……無理はしないと約束してくれ」
「そうなったらすぐ言うね」
こうして、エル、トール、ドリスと兵士十名で、狼の魔獣達の縄張りに入ることになった。
狼達についていくと、だんだん冷んやりとする空気になってくる。ドリスはここまで山を登ったこと自体初めてだったが、持ち前の運動神経と剣で鍛えた若干の体力で、皆に遅れることなくついていくことが出来た。
ふと、ツンとくる嫌な匂いが漂ってきた。鉄の匂いだ。嫌な予感が頭をよぎる。
どんどん奥へ歩いていくと、木々が開けた空間に出た。
そこは、血の海と言っていいほどのおびただしい量の血が溜まっていた。周りをよくみると、あちこちに血が飛び散っているのがわかる。大人の兵士の中にも、吐き気を起こす人すらいたくらいだ。
ドリスはハンカチを口に当て、眉を寄せているものの、意外と冷静だった。
あちこちに、魔獣の残骸と思われるむき出しになった骨や肉が転がっている。ついばまれたのか、お腹周りの肉がごっそりえぐられるように無くなっていた。
『ドリス。ここ、随分濃い魔力が漂ってる。これじゃあの子達、近づきたくても近づけないよ』
アイリスの言葉を受けて、狼達をみると、みんな震えていた。エルやトール、兵士達すら、ドリスの様に魔獣の残骸のところまで、入ってこれないようだ。
「皆、こっち来ないの?」
「逆に聞きたい。なんで、そっちに行けるんだよ」
トールが不機嫌そうに言うと、その理由をアイリスが教えてくれた。
『ドリスは元々、高い魔力を持ってるからね。だから、高濃度の魔素が漂っていても平気なんだよ!! そこの狼くん達は中位の魔獣だから、ここまで濃い魔力が漂うと、そこには入れないんだよね。後、他の人間は問題外。魔力がない、又は下位精霊が憑けるくらいのレベルだから、狼くん達同様、足が震えて、本能的にここに近づくことが出来ないの』
その説明をすると、エルから何とか出来ないのか? と質問を受けた。
『殿下くんにお願いしてみたら? ジンは風の上位精霊だし……あ! リコくんにもお願いしてみよう!! 炎の精霊憑きだから、魔獣の残骸を燃やすことも可能かも!!』
「アイリスはこの状況、どうにか出来ないの?」
『私だと、植物を成長させることしか出来ないからなぁ。肉や骨の処理までは無理』
「植物を成長……あ!」
『どうしたの?』
「一旦帰って、対策を練ろう。もしかしたら……」
ドリスはイタズラな笑みを浮かべた。




