41 最高の景色と最低の会話
アピッツ家の執事が、呼びにきたところで、今日の剣の訓練は終了した。
剣の訓練をしている間に、例のお祖母様は戻ったらしい。ただ、こちらへ向かう途中の無理が祟ったのか、疲れが出ており、着いて早々部屋にこもっているそうだ。
「よかった。……今日は顔を合わさずに済む」
「本当に……」
「ねぇ。お祖母様って、誰にでも厳しい人?」
「身内には特に……前も言ったけど、俺らはお祖母様に育てられたから、実質恐い母上みたいなものなんだ。あ・皆には優しいと思うから、安心して」
それを聞いて、皆ホッとした。
「多分早くて、明後日の午後にお茶会が入ると思う。皆……申し訳ないけど、付き合ってください」
エルがそう言った後、ヴィリーと皆に向かって頭を下げた。
「もちろん。アピッツ侯爵にも言われているし、ご挨拶くらいはしないとね」
「俺も、伝手ができるのは大歓迎なんだ!」
「私もぜひ、人生の先輩として、お話が聞きたいですわ」
「お祖母様の友人なら、私も挨拶しないと!」
「……ありがとう」
いい雰囲気になっていたところに、トールが水を差した。
「きっと、エルの情けない姿が見れるから、皆で目に焼き付けよう!」
「傑作だろうな」
「楽しみですわね」
「確かに見てみた~い」
「くっ……俺に味方はいなかった!!」
「兄上、俺だけはわかっているから……ぶふっ!」
「ヴィリー……お前もか」
なんとも締まらない結果になった。
そんな話をしていた夕食後、予想通り明後日の午後に、エルのお祖母様のお茶会のお誘いがきた。
「明日はどうする? お茶会に響かないように、剣とか乗馬は辞めた方がいいと思うのだけど」
「私、ちょっと体力つけたいんだよね。ランニングしようかな?」
「敷地内ならやってもいいけど……ドリス、せっかく皆がいるのだから、皆でできる事をしないか?」
「そうよ! 剣の訓練では、私は見ているだけなのだから、もうちょっとドリスと一緒に居たいわ」
すると、ヴィリーが名案が出した。
「あ! 閃いた。なら、ちょっと歩いたところに山があるんだ! そこまでピクニックしない? 多分皆で歩いていける距離だよ」
「あそこか! いいな。景色も見れるし、少しだが運動になるし、気分転換にもいいだろう」
「確かに。明日は適度に歩いて、のんびり過ごすのも悪くない」
「アンディは……剣の訓練やりたくないだけじゃない?」
「う……うるさい」
明日は、山へピクニックに行く事に決定した。
「気持ちいい~」
「本当ね~」
山の入り口から、少し進んだ所に開けた場所があった。そこからはアピッツ領の景色も観れる。そこで女性陣二人は吹く風に当たって、くつろいでいた。
そこには、徒歩三十分ほどで着いた。運動にもなっていないのではと思ってしまうが、今回はリーナもいるし、一応ブーツを履いているけれど、履きなれない靴で長時間歩く事は困難だと、エルとヴィリーが思ったからだ。
この場所は、アピッツ兄弟お気に入りの場所。たまに一人になりたい時に、来る事が多い。ここで、軽食でもとれば、最高だと思っている。田舎思考かもしれないが……
「こういうところって、王都にないから新鮮ね!」
「私の家は領持ちじゃないから、こういう所に来ること自体初めて! いいなぁ。ここに入り浸りたい」
案外好評だったので、エルはホッとした。けれど、ここに勝手に来られてはいけないので、釘を刺しておく。
「夜以外ならいつでもいいよ。夜は、魔獣も出るかもしれないから」
「え……」
「ここはトールの領ほどじゃないけど、魔獣が出るんだ。だから、アピッツ領の男は皆、剣が扱える」
「剣の強さはそれか」
「娯楽があんまりないからね。よく、剣を振っている人もいるよ」
「研究者が多いから、そういうのはからっきしかと思ってたけど、土地柄か」
「トール。お前もな」
「あぁ。意外だった? でもウチは元々騎士団に入っている者同士の結婚から始まっているからな」
「騎士団って……その当時、女性は禁止だったはずじゃ……」
「ひい祖母様が、男装して入っていたんだよ。実は、ヘルマン家の人にもそんな人が居たらしいし。だから、剣術は必ず習うんだ」
「かっこいい……!!」
「本当……それ、物語にしたらいいのに!!」
「もう! トールは何で、そんな良い話をたくさん持っていますの?」
「誰かに、二人の馴れ初めを書いて欲しいね〜!」
女性陣がキャピキャピしていると、トールはげんなりした顔になった。
「ネタバレするとさ。ひい祖父様が、いつの間にかひい祖母様を囲ってたって話だから、あまり嬉しい話じゃないんだよね。ひい祖父様が腹黒って話。ひい祖母様からしてみれば、あれよあれよと、気づいたら結婚していたわけ。ロマンもクソもないよ」
「え……それは……」
「執着していたってこと?」
「ひい祖父様がひい祖母様を好きだって自覚してから、逃げられないように、外堀を埋めて、確実に仕留めたんだ」
「ちょっと! 女性を狩るように言わないでくれる?」
「そんな感じだったんだよ。ひい祖母様の日記にもちゃんと残ってるし」
「そっかぁ。それは……嫌な人は嫌だなぁ」
「自分の知らないところで、話が進んでるって、不気味ですわ。まぁ……貴族だから仕方がないかもしれないですが」
それを聞いて、アンディは女性陣の反応に固まっていた。
「え? それって、ダメなのか?」
アンディが驚くように言うと、エルが青い顔をして驚く。
「いや……本人の気持ちも定まらないうちに決まるのって、俺も嫌だな。相手があまりこっちの事を好いてくれないなら、囲ったって意味ないと思う……むしろ関係が悪化するかも」
「ワシューの第二王子は、好きな女性を囲いたい……っと」
「メモするな! うちの王族ではそんな人は珍しくないから、驚いただけだ」
「え? ワシューの王族って、ハンターなの?」
「まぁ……好きになったら一直線というか……って、ロザリファの王族も似たようなものだぞ!!」
「え!? そうだったの?」
「アンディもそうなるのかな?」
「知らん!」
一方女性陣はというと、白けた目で男性陣を見ていた。
「何か……空気が悪くなったわ」
「そうだね。……この景色見て、落ち着こうか」
リーナとドリスは、山の連なりを見ながら、持ってきて居た軽食をつまんだ。
この話を読んで、トールのひいお祖父様に興味が出た人は、「とある貴族の結婚事情」ヘルマン侯爵令息をお読みください。
※気分が悪くなるかも知れませんが、責任は負いません。
ちなみに本作では、上記の話をディスっている話になっております。
あまり自分で書いた話をディスるって事ないなぁと思って、楽しんで書きました。
この話が好きな方には申し訳ないです。




