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ドリスの学園生活が気まま過ぎて困る  作者: 朱村 木杏
第二章 三領巡りに出発!!
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39 万能薬!? 白くて可憐な花の秘密



 ある部屋に通されると、そこには無数の植物の種が小分けにして、一つ一つ、小さな棚の小さな箱に収められていた。箱の側面には種の名前が書かれている。


「ドリスは何の種が欲しいんだっけ?」


 エルがドリスに尋ねると、ドリスはちょっと考えながら口を開いた。


「……攻撃に使えるものが良いかな。一応、蔓系のタネは持っているのだけれど。麻痺とか、眠気が来るものとかで……育ったらすぐに攻撃出来るものが良い。もし毒なら、解毒も出来るものが良いなぁ」

「なら、大型の食虫植物で、粉を吐き出すものが良いよなぁ。大きな花になって、花粉を吐き出すものは、いくつかあるよ」

「私もそういうのは一応持ってるよ。観賞用の」

「恐らく……植物園などにあるものだろう。実用性が低いから、個人的な趣味としてコレクターが購入することもあるのだ。ここにあるのは、観賞用のものより、やや、麻痺や眠気が強いものだよ」

「そんなのあるの!?」

「ロザリファ産は無い。けれど、ドラッファルグ産のものであったはずだ。魔獣に近い種って言ってたな。確か……育つと知能も持つとか。ここでは危なくて育てられないから、厳重に保管してあったはずだ」


 するとエルは、金庫らしきものを解錠して開き、手早く何種類かの種を取り出した。


「ごめん。数があまり無いから……悪いけど一粒ずつな」

「ありがとう!」

「ここにあったのは、蔓系と、麻痺と眠気。毒に関しては、解毒剤が無いみたいだから渡せない」

「十分です!」


 ドリスはアイリスと相談しながら、種を選定していく。


「アイリス。もう持っているものと被っていないか、確かめてくれる?」

『わかった! これと……これ以外は全てもらっちゃおう!』


 その様子を見て、トールは眉を寄せた。


「なんか物騒な物を仕入れてるなぁ」

「しょうがないだろ? 狙われやすいから、戦う術が必要なんだよ。ドリスの精霊は戦闘系ではないからな」

「にしたって……麻痺とか眠気ってえげつない」


 トールは苦々しい顔をする。


「敵に向けるのだから、良いのではなくて?」

「リーナも恐いこと言うなぁ」

「ドリスは味方なのだから、良いではありませんか。トールに向くことはなくってよ」

「味方でよかった……」

「トール! そんなこと言うんだったら、試してくれる?」


 ドリスは麻痺の種を持ちながら、笑顔でお願いした。


「ごめんドリス! もう言いません!!」


 トールは素速く低姿勢で謝った。



 


 

「次に行くところで、ドリスに手伝ってもらいたいんだ。精霊にお願いできるか?」

「わかった。アイリス、出番だよ!」

『おっまかせ~♪』


 案内された場所は、新種や貴重な植物を育てる実験室だった。部屋ではなく、外であらゆる方法で、どんな育て方が良いのか研究していた。


「ドリスに見てもらいたいのは、これだ」


 それは、小さな芽が出ているものの、種から芽が出て三年もこのままの、貴重な植物だった。

 

「ドラッファルグから輸入したタネを、三年前に植えたものだ。いくら何でも、このまま成長しないのはおかしいと、植え替えたり、水を与え続けて見たり、肥料を与えたりもしたのだが、一向に成長しないんだ」

『確かに珍しいものね。それは魔力を注ぐか、少しでも魔素があるところじゃないと、いつまで経っても成長できないよ』

「魔素?」

「それはな」


 アンディが説明してくれた。






 魔素。

 それは、魔力があるものの周りに存在する、魔力を含んだ空気のこと。

 最近だと、ファルトマン伯爵領の魔木ファルトが記憶に新しい。


 元々、ロザリファは魔力がある植物や魔獣が存在しない土地だった。そこに、初代ロザリファ王が来た結果、魔力がある人間が住み始め、魔力がある植物を植え、やがて魔素が生まれ、魔獣を引き寄せる土地となったのだ。


 アピッツ領も魔素がないことはないが、ファルトマン領に比べて薄い。薬草には魔素を纏うものもあるが、アピッツ領にあるものはほとんど、魔素が薄いものばかりだった。






「このドラッファルグから来た種は、薄い魔素を吸って、やっと小さな芽が出て来たのだろう。水や土はあまり関係がなかったな。それに魔力が含まれているのであればよかったが……」

「なるほど。だからうちに売ったのかな? 育ててもうまく育たないのが分かっていたから……」


 本来、貴重な種を外国へ売るには国の許可が必要だ。許可が出た理由は、ロザリファのような土地では、満足に育たず、金にならないと踏んだのだろう。

 

 この種は、あくまでもドラッファルグという、大きな大陸の魔素が多い土地でしか育たないと、暗に言っている様だった。






『ファルトマン領の魔木の近くなら育つと思うよ。貴重な薬草だし、きっとお金にもなるよ!!』

「この種、どんな風に貴重なの?」


 ドリスがアイリスに問うと、アンディから指示が出た。


「ドリス、アイリスの力を借りて、この種を成長させてみると良い。そうした方がわかるだろう」

「わかった。アイリス」

『おっまかせ~♪』

「それ、気に入ったの?」


 アイリスが小さな芽に向かって両手をかざすと、あっという間に成長して、真っ白でまるで蛍袋の様な、下向きの花を三つつけたものになった。


「綺麗だけど……これのどこが貴重なの?」

『これはね~、HPとMP、それとどんな異常効果も回復させちゃう万能薬になる花なのでーす!! だから、どんな病気に罹っても、これを煎じて飲むだけであっという間に治っちゃう、ものすっごく貴重な花なんだよ!!』


 それを聞いて、皆、花を見て固まった。


「それ……めちゃめちゃ貴重な万能薬じゃん!!」

「なるほど……確かに大変貴重な花だ。王家に献上するものに加わってもおかしくない」

「そんなものをもらったのか。栽培する方法が確立されれば、かなりの儲けになるぞ」

「アイリス。これ、ファルトマン領で育てると何年くらいかかる?」

『う~ん。早くても五年くらいかな』

「五年か……意外と短いんだな」

『見つけるのが難しい花なんだよね。種があるならどこへ植えたかが分かるから、適したところなら、すぐ育つよ。……ただね、これを悪事に使う場合、摘み取った瞬間、花が真っ黒になって、枯れちゃう花なの』

「え……」

『何か邪な事を考えながら摘んだりすると、あっという間に黒くなっちゃうから、気をつけてね。金になるから盗もうとした奴が、摘んだ瞬間花が黒くなっちゃって、慌てていたところを兵士に捕まった事もあったんだよ』

「それ、テレシア王国での話?」

『うん。私の前の主人が育てていた花なんだ。私も手伝ってた。大分ダメになっちゃったから、主人は悔し涙を流していたの』


 それを聞いて、皆、黙ってしまった。


「あまり、世に出さない方が良い花の様だ。花に罪はないけど……争いになりそうだし、ドラッファルグがなんて言って来るか……」

「王には報告しといた方がいい。秘密裏に育てるか、この種を隠すか燃やすか……」


 結局、育った花は王への献上品として扱うことにして、その後どうするかは王の判断を仰ぐことになった。



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