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ドリスの学園生活が気まま過ぎて困る  作者: 朱村 木杏
第二章 三領巡りに出発!!
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35 トールのひいお祖父様の体質理由



 牧場を見学した後、ファルトマン伯爵領邸に到着した。

 すると、何やら玄関の辺りに、多くの女性が詰めかけている。


「もう一度! もう一度だけで良いから、ロイ様を抱かせて~!!」

「ちょっとで良いの! 顔もちらっと見るだけで良いから!!」

「こら、落ち着け!! 領主邸の前で騒ぐな!!」


 それを見て皆、唖然とした顔になった。


「何あれ?」

「何か、大物が来ているのか?」

「そんな奴とうちは縁がありませ~ん」

「女性ばかりよね……まさか!」

「あぁ。リーナも気づいたか」

「あ! もしかして……」

「え~……考えたく無いな」

「何だ? 何が分かったんだ?」

「エル……気づかないのか?」


 エルだけ分からないまま、馬車は領主邸の前に止まり、馬車を降りて中に入った。






 ファルトマン家の執事が皆を出迎えた。


「アナトール様、お久しぶりにございます! ご友人の方々も、歓迎致します」

「それより、外の騒ぎはなんだ?」

「あぁ……それは……」


 歯切れの悪い様子の執事に首を傾げると、トールの一番上の兄が玄関に来た。


「トール! 帰ったのか!」

「兄上。外の騒ぎのことで……」

「あ~……それな。とりあえず、お客様がいるのだから、中に入りな。皆様ようこそ! ファルトマン領へ」

「どうも」

「自己紹介は後ほど、とにかく客間へご案内いたします」


 トールの兄は、自分より上の身分の人がいることを知っているのか、ドリス達を上等そうな客間に案内してくれた。






「トールの一番上の兄で、嫡男のアルマントと申します。しかし……上の身分の方が多いですね。まさかワシューの王族の方まで、弟が連れてくるとは思いませんでした」

「後ほど、領主に話があるのだが」

「はい。ただ今、領主は外に出ておりますので、夕食後になりますが……」

「それで構わないが、出来るだけ、早く報告を上げて欲しい案件がある」

「私が伺っても?」

「構わない」


 アンディが召喚獣ビジネスが画期的だと伝えると、アルマントは目を丸くした。


「他の領ではやらないのですか!?」

「まず、魔獣を飼うという発想がない」

「そ……それは、早急に王に進言しなければなりませんね。出来るだけ早く戻ってくるよう、使いを出します」


 アルマントは執事を呼び出し、すぐに領主に戻って来て欲しい旨を伝えて、執事は部屋を出ていった。





 そしてすぐ、トールはアルマントに尋ねた。


「で、兄上。外の騒ぎは一体……」

「俺に息子が産まれたんだ」

「それは知ってるけど……」

「その息子を見た侍女達は、皆、ああなってしまったんだ」

「まさか……」

「あぁ……。ひい祖父様にそっくりだ」


 ゲッソリした顔のアルマントに、皆、苦笑いをした。






 アルマントはこちらから頼むまでもなく、息子を連れて来てくれた。

 金髪に碧眼で、将来が楽しみと思ってしまうくらい、綺麗な赤ちゃんだった。

 ちなみに父親のアルマントは金髪に碧眼だが、顔はロイと若干パーツが似ているかな? と思うくらいで、貴族の中では平凡な顔だった。


「は~……女の子じゃないんだ」

「男の俺でも、惚れちゃうくらい綺麗な子だな。本当に、俺の甥なの?」

「紛れもなく、そうだ。俺も最初は疑ったよ」


 すると、女性陣に異変が現れた。


「も……」

「も?」

「ものすごく、神秘的で、綺麗な赤ちゃんですわーーーーーー!!」

「うわーーーーーー!! 抱かせて!! 抱かせて!! 抱っこさせてぇーーーーーー!!」

 

 リーナとドリスがぶっ壊れた。


「おい! ドリス!! 口からヨダレが!!」

「リーナも! 目がおかしくないか?」


 よーく見ると、目がハートマークになっていた。


「これは……まさか!!」


 アンディは周りを見回し、ある一点を見た。


「おい! リコ!! アルベルツ!! お前達、精霊が見えないか?」


 アンディの大声に反応し、二人は上を向くと、そこには鍛えられた肉体をはだけさせた、金髪に碧眼の色っぽい男が浮かんでいた。






『あれ? 君たち、俺が視えてる? よく見ると、俺と同じ上位の精霊が憑いているじゃないか』


 声も低くて色っぽいそれは、やっぱり上位の精霊だった。


「あ……あなたは?」

『俺は、君達が言うところの、魅了の精霊さ!』

「魅了!」

「そんなのあるの!?」

「あります。テレシア王国周辺の国には、こういった特殊属性を持った精霊がいるのです」


 リコが説明すると、アンディは眉を寄せた。


「だが……なぜ、赤ん坊に憑いている」


 普通、精霊が憑くのは、もう少し大きくなってからだとされている。


『前に憑いていた奴の魔力が気に入っちゃってさ。また同じ魔力を持った奴に憑いたという訳さ』

「ってことは……」

『彼は前に憑いていた奴の生まれ変わりだよ。前はエーミールって言ってたっけ?』


 色男な精霊は、赤ちゃんを見てそう答えた。

 その言葉に、皆、呆然と立ち尽くすしかなかった。






「つまり、この子は初代様の生まれ変わりだと?」

「あぁ。間違いないだろう。トールから初代の話は聞いていたが、まさか精霊のせいだとは思いもしなかった」

「では、この状況を止めることはできるので?」

「それは、その子次第と答えておこう。魔力が制御できれば、こういったことはなくなるが……いっそ、精霊を視える様にした方が早いかもしれないな。 

 精霊と会話が出来るし、やめてくれと言って聞かせるのも可能だ。だが、いうことを聞くとは限らないとも言っておこう。とりあえず、今、この場で頼んで見るか」


 アンディは精霊に目を向ける。


「この魅了を撒き散らすのはやめてもらいたい」

『えぇ~……この子がモテるところ見るのが醍醐味なんだけどな!! それに俺だって、十分配慮していると思うよ。この子の家族の女性には、魅了は使っていないし』


 そのことについてアルマントに聞くと、確かに奥方や、トールの母と祖母は正常だそうだ。


「先代はこの事をとても困っていたのではないか?」

『困りはしたが、利用もしていたぞ。女をよく連れて歩いていたこともあったし』

「結婚してからは?」

『妻一筋になった。精霊としても、俺の魅了に惑わされない者と一緒になって欲しかったからね』

「じゃあ、全てがわざとでは無いのか」

『精霊はさ。常に主人のことを思っている訳よ。先代の妻はいい子だったよ。俺の魅了に耐え抜いた子だ。魅了が効いているはずなのに、気力で吹き飛ばしたんだ。一応風の精霊が憑いていたけど、下位だったから当てにならなかったっけ。うん。あの精霊にもまた会ってみたい』

「とにかく、このままでは、この子が連れ去られていてもおかしくは無い状況だ。魅了を解いてはもらえないだろうか?」

『……そうだね。連れ去られるのは、この子が可哀想だ。……分かった。この子を後に(精霊)が見えるようにしてくれれば、約束しよう』

「わかった。その約束、こいつが引き受けよう」


 アンディがドリスの肩に手を置くと、慌ててドリスがアンディに身体を向けた。


「え? 私!?」

『娘! よろしく頼む』

「あ……はい」


 頭の冷えたドリスは、うなずくしかなかった。

 その後ろではまだ、リーナが目をハートにさせながら赤ちゃんを見ていたのだが、それには誰も気付かなかった。





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