28 今学期終了と精霊授業
「良いか! 長期休みだからと言って、課題は出る。忘れず、新学期に持ってこいよ! それから、寮は今日から三日後に閉鎖されるため、すぐに帰り支度をして出て行ってくれ」
寮にはいつまでも居られないため、準備が出来次第、さっさと退寮しなければならない。
王都から離れている領に住んでいる者は、今日には馬車で出で行く様だ。
「それと、秋から行事が目白押しだ。特に剣術大会は新学期から三週間後に行われるため、皆、各自練習しておくように。大会に出なくても、授業点がつくからしっかりな。大会委員については、新学期の最初の剣術の授業で、我々から声をかけた者にやってもらう」
この学園には、生徒会や学級委員会といったものがないため、こういった委員は、学園からの指名制となっている。
それは名誉なことであり、特に男子で将来王城に上がりたい者にとっては、重要なことであった。
リーダーシップや連携して動けるかを見極める場にもなり、その委員としての活動が認められれば、加点となる。
現在ドリスのクラスでは、リーナが学級委員的な立場になっている。他のクラスも同様で、おのずと身分が上位で、成績が良い者が指揮を取ることになる。
ちなみに、生徒会長的な立場にいるのは、なんとワシュー王国の王子アンディ。
我が国の第二王子は、リーダーというよりは、駄々っ子の様だと誰かが言うほどだった。
「休みだからといって、ハメを外したりするなよ。仮にも貴族なんだ。周りの模範となる行動をするように。ちなみに以前、長期休みにハメを外し、廃嫡されたケースもある。肝に命じておくように。以上だ」
ボイス先生が注意事項と、新学期以降の話をして、今学期は終了した。
期末試験は、また、このクラスが断トツトップを守ったらしい。
ボイス先生の評価が上がったが、本人は……ゲッソリしている。
そんな先生に暫しの別れを告げ、ドリスは、学園で最後の精霊の授業に臨んだ。
寮の談話室も、今日をもって使えなくなるためか、どこもいっぱいだった。予約制なので、事前に予約していたドリス達は、担当者から部屋に通された。
「前回言っていた、『種』は持ってきたか?」
「私が思いつく限りのものを持ってきました」
ドリスは、何種類かの種をアンディに見せた。
「これらは、細めの蔓が育つ種です。こっちが巨大な花が咲くと、くしゃみをする様に花粉を飛ばすもの。効果は眠気が出たり、痺れが出るものがあります。あと、攻撃では無いのですが、クッションのような大きい実になる種も持ってきました」
「ほう……よく考えているでは無いか。毒はないのか?」
「解毒剤も無ければいけないので、入れませんでした。眠気も痺れも時間が経てば、回復するものにしてあります」
「賢明な判断だな。まぁ元々、植物の魔法自体、戦いに特化してはないからな。これだけでも集めたとは大したものだ」
「ありがとうございます!」
「エルの領に行ったら、薬草の種を貰うのもいいかもしれない」
「あ! なるほど」
「そういえば、アイリス。成長させたものを元に戻すことも出来るのか?」
『可能ですよ!』
「なら、時間があるときに、練習するといい。アルベルツは、組手や剣を嗜んだことは?」
「ありません」
「なら、その訓練もしとけ。剣なら、私でもいいが、エルの方が出来るからな。エルの領についたら、指導を頼むのもいいぞ」
「エルって剣、振れるのですか?」
「領が田舎だと、魔獣が出るんだ。討伐もしょっちゅうやっていたそうで、私が知る中では一番筋が良い。トールも良いな」
『三人の中では、アンディが一番剣が下手だな。実戦経験が少ないから、仕方ないかもしれないが……』
「しっかりやっているだろ?」
『運動神経の問題かな? センスが無いんだよなぁ。向こうではサボりがちだったし……』
「もう、黙ってろ!」
するとジンは悪戯な笑顔になった。
「じゃあ、私と勝負ですね!」
「……これはさすがに私が勝つだろう」
「私の父をご存知ないのですか? 一師団を任されている団長ですよ! リーナのお兄様も憧れの存在だそうです」
それを聞いて、何かがピキッと音が鳴った気がした。
「面白い。受けて立とうじゃないか。しかし、そんな父から剣を教わっていないということは、センスがない証拠ではないか?」
「運動神経には、少し自信があります」
「わかった。覚えていろよ」
お互いに、黒いオーラを纏いながら、笑顔で向き合う。
それを従者のリコとその精霊エン、ジンとアイリスは、穏やかな顔で二人を見守っていた。
ドリスとリーナは終業式の次の日に、寮を出ることになった。
馬車乗り場で一緒に、家からの馬車を待つ。
「ドリス! 約束の日に迎えに行きますからね!」
「よろしくお願いします! リーナ」
「今から楽しみだわ! ……殿方が居るとは思わなかったけれど」
リーナはちょっと引きつった顔をする。
「良いじゃない! 私も色んなところを見てみたいし」
「そうね。うちじゃ、街だけだもの」
「農地はないの?」
「少しはあるけど、主に出荷するための花なのよ。作物を作っているところもあるにはあるけれど、他の領に比べて少ないわね。ブレンターノ産の野菜や肉を主に仕入れているの」
「お祖父様の領地の?」
「そうよ。とてもお世話になっているわ」
そして、お互いの家から馬車の迎えが来たので、そこでドリスとリーナは別れた。
カレンとオリバーは元気かなぁ。せめて一日だけでもいっぱい遊ぼ!
ウキウキ気分で、ドリスはアルベルツ邸の馬車に乗った。




