26 早速、ブルーノさんにお願いしたよ!
ドリスは休日に入り、実家に戻ることになった。
実際は実家がついでなのだが、表向きそうしている。
アルベルツ家から馬車が学園に到着し、それに乗りこむ。
しばらく走らせると、ある商会の前で止まった。
そこは、ドリスのお義兄様、ローレンツが経営する商会だった。
裏口から中に入り、ローレンツの元へ向かう。
コンコン
ノックをすると、「どうぞ」という声が聞こえたのでドリスはドアを開けると、そこにはローレンツとブルーノが待っていた。
「お待たせしてしまい、申し訳ございません」
「そんなに待っていないから、いいよ」
ローレンツに促されドリスがソファーに座ると、早速学園内で起こったことを話し、ブルーノに他国からのスパイが入り込んでいないか依頼することになった。
「おい! もうそれ国家案件じゃねぇか!」
「それ! 普通国王から、依頼が来る案件だよね?」
二人とも、焦った顔でこちらに身体を突き出した。
「でも、狙いは私ですよ? 国家は大袈裟では?」
「あのな……子爵家でも貴族には変わりないし、特に今の王は平民がそんな目にあっても、国家案件として動かすんだよ。かなり大事になるな」
「階段から突き落とされたことも聞いていたが、てっきり過激派の仕業かと思っていた。他国の人間だとしたら、大問題だ。このことは、王に報告しなければならない」
「そこまで?」
「精霊のことは先生には?」
「言っても見えないから、意味がないかと」
「確かになぁ。そのことを他に知っている奴は?」
「アンディ殿下と、友人のブローン公爵令嬢。あと、アピッツ侯爵子息と、ファルトマン伯爵子息」
「ワシューの王子か……他国の人間が知っているのも、問題だよな」
「ただ、アンディ殿下に精霊や魔法のことを習っている関係で、殿下も調べてくれるっておっしゃってくださいました」
「そう言って、嘘言ったりして」
完全にからかっている顔でブルーノが茶々を入れる。
「殿下はロザリファと縁を結びたがっていらっしゃいますから、それはないと思います。それに、ロザリファから睨まれれば、ワシューも終わりではないですか?」
「食料問題か……」
ローレンツが少し渋い顔をした。
「ワシューは他の国よりはマシだけど、ロザリファに切られたら、痛い……か」
「私は味方だと思っています。階段から落ちた時も助けてもらいましたし」
「タイミングが良すぎると思わないか? 普通、たまたま近くにいたりはしないだろう」
「それは、精霊が教えてくれたのです。一緒に落ちたリーナ……ブローン公爵令嬢も私と同じで、上位の精霊が憑いていたから、気になっていたと」
確かに、よく考えてみればおかしい。
けれど、アンディ殿下の言葉は信じられた。
二人には言わないけど、彼が、リーナのことを婚約者相手として狙っていることを知っている。
だからこそ、殿下のことを信じることが出来る。
「ドリスがそう言うなら、殿下を疑うのはやめよう」
「どっちにしろ調べれば、出てくるかもしれないからな」
殿下を疑うのは一旦やめてもらって、ドリスはホッとした。
「それより、ドリスが狙われるのは精霊が原因か。でもドリス一人居たってそんなすぐに、食糧問題が改善できるのか疑問だな」
そう言われ、アイリスに目を向けると、眉を顰めながら、こっちをみる。
『多分、ドリスが倒れるまで、農地を回復させるつもりだと思う。私、ドリスを見つける以前は、テレシア王国に居たの。すごく居心地が悪い国になったから、離れたのに……』
そのことを伝えると、二人とも厳しい顔になった。
「奴隷と同じじゃねえか!」
「最悪だな。王はこのことを知っているのか?」
「先生には報告していますし、アンディ殿下もご存知だから、恐らく知ってはいると思いますけれど……」
「こんなことになるなら、どうして、精霊指導の許可なんて出したんだ?」
「最終的にはアンディ殿下のお父様、ワシュー王国の国王陛下に、許可を求めたのです。ワシューも食糧難が問題になっていますから」
「嬢ちゃんを友人として、ワシューに招こうってか? 考えそうなこった」
「うん。まぁとりあえず、うちにいても学園にいても、状況は変わらないだろうな。一応、警備強化を要請しているか、義父上に確認してみるよ」
「お願いします」
「こっちも動くけど、相手は密偵だからな。期待するなよ」
「他国から不審な船が来たって情報はないのか?」
「なくは無いが、商船に乗ってこっそり入ったというのが有力だろう。テレシアからなら、しょっちゅう船を見かける。国内で、食料の生産が見込めないからな。他国というなら、この近隣の国は、入っているだろうし……。いつまでに分かれば良い?」
「出来れば、来週までに聞ければ……。ちょうど来週は期末試験で、それが終わったら、聞けるのが良いかと」
「一週間か。出来る限り集めてくる。他からも依頼が来そうだしな。ちょうど良い」
「無理を言ってすみません」
「いや、これは国の緊急事態でもある。普通はすぐに大人たちが動かなければならない案件だ」
「すぐに、義父上のところへ、王に進言するよう、報告するよ」
「お願いします」
ドリスはその後、馬車で実家に戻り、期末試験の勉強もしつつ、カレンとオリバーに癒されながら休日を過ごした。




