24 怖! 真夜中の謎の訪問者
今日は、アンディに魔法を使う方法について教えてもらう日。
「嬉しそうね、ドリス」
「アイリスに魔法を見せてもらう日だもん! 楽しみだよ~。リーナも教わればいいのに」
「私の精霊は炎なのでしょう? 傷つけそうで怖い……」
リーナの斜め上には、リーナの精霊がいる。
その精霊は残念そうな顔で、リーナを見ていた。
『私は火でも、回復系なのに~!! まぁ……攻撃もいけるけど~』
ドリスはたまに、リーナの精霊に話しかけたりしているので、精霊が話したがっているのも知っていた。
「リーナ。リーナの精霊って、炎でも回復系みたいだよ」
「炎で回復?」
「殿下もおっしゃっていたのだけど、精霊は色々いて、リーナの精霊は攻撃も出来るけど、怪我を治したりすることも出来るんだって。怪我を治すなら怖くないでしょ?」
「まぁ……そうね。……考えてみるわ」
すると、リーナの精霊はにっこりと笑って、ドリスに『ありがとう!』と感謝した。
「では、指定したものは持ってきたか?」
「はい!」
ドリスが取り出したのは、植物の種だった。
「それを精霊に言って、成長させてくれ」
「わかりました」
ドリスは、アイリスに向いて、口を開いた。
「アイリス、この種を成長させて」
『わかりましたぁ!』
アイリスが嬉しそうに一粒の種に手をかざすと、種からは芽が出てニョキニョキと育ち、綺麗な黄色の花を咲かせた。
「成功だな」
「これが……魔法」
『どう? ドリス。 感動した?』
「した! 今度は全部やってみようよ」
「待て」
そこで、アンディが止めた。
「恐らくアルベルツの精霊は、全部の種を成長させるのは、造作も無いだろう」
『そうね。このくらい簡単!』
「ただ、アルベルツのMPも使うことを忘れてないか?」
『あ……』
「MP?」
「まだ言っていなかったな」
人には、体力の残量を表すHPと魔力の残量を表すMPがある。
魔法を使うには、MPが必要。
精霊に頼み魔法を使っても、精霊のMPが減るのではなく、人のMPが減る。
精霊はその人の魔力量に合った精霊が憑くことが多く、ドリスの場合、上位の精霊が憑いていることから、MPが高いと思われる。
だが、自分のMPは見えず限界が分からないため、一気に魔法を使ってすぐに魔力切れを起こし、倒れてしまうこともあるのだ。
「魔力切れは、身体にも良くない。自分の魔力の限界を知るのは良いことでもあるが、切れてしまっては意味がないのだ。魔力切れの一歩手前は、身体が重しの様に感じられ、動かなくなることが多い。もし、その状態になったら、魔法を使うことはやめろ。いいな?」
「……はい」
「アイリスもアルベルツの体調を気遣いながら、魔法を使う様に」
『わかりました。気を付けます』
アンディがいつもとは違う、低い声で注意したので、思わず二人で恐縮してしまった。
次回までに、攻撃出来るような植物の種を持ってこいと、割と無茶なことを言われてしまった。
「アイリス。武器になりそうな植物って、あるの?」
『武器になるかわからなけど……あ! 虫を食べる食虫植物とか? 植物の魔獣みたいなのもいるよ! あと、種がなると、弾ける植物もあるし……』
「食虫植物かぁ……知識ではあるけど……そんなのに種なんてあるの?」
『あるよ〜。けど、虫を食べるだけで実用的ではないから、除いていいと思う』
「色んな種持っていた方が、対処しやすいか」
『思いついたの?』
「う~ん。とりあえず、興味がある種をかき集めることにする」
『楽しみ!』
アイリスとそんな話をしていた、夜中のことだった。
コンコン
ドアをノックする音が聞こえた。
コンコン
「……ん……誰?」
ドリスは寝ていた身体を起こし、ドアに向かおうとすると、アイリスから待ったがかかった。
『ドリス、ちょっと待って』
「アイリス?」
『私が誰が来たか、確認してくる』
そう言うと、アイリスはドアを擦り抜けた。
こんなことも出来たんだと感動するドリス。
カンカンカン
ドアではない。
なぜか天井から聞こえてきた。
ドリスが上を向き、アイリスを呼んだ。
「アイリス! 戻って」
するとすぐに戻って来て、アイリスが天井に行くと、またドアからノック音が。
「アイリス。誰かいた?」
『誰もいないの! ドアの外も天井も!!』
「またドアから聞こえる」
コンコン
ドリスはアイリスと向かい合い、アイリスがまたドアの外へと擦り抜けた。
キィンキィン
また、天井裏から音が聞こえた。金属音の様だ。
なに……これ……
ドリスは異様な怖さを感じた。
アイリスは中に戻ってきて、困り顔で言う。
『誰も居なくて、気味が悪い!』
やっぱり、外にも誰も居なかったらしい。
コンコン
またノック音かとうんざりしていると、なぜかドアの外から、声が聞こえて来た。
「ドリス?」
「その声……リーナ!?」
「うん。何か……胸騒ぎがして、心配で……顔、見せてくれる?」
おかしい。
自分の部屋がある階以外は立ち入り禁止のところに、なぜ、リーナがいるの?
ここは、一年の下位貴族の部屋がある階のはず。
どうして二階下にいるはずのリーナがこの階へ?
貴女は誰?
ドリスは恐る恐るドアに近づくと、アイリスが手でドリスの行く手を阻んだ。
私が行く!
ドリスの頭に、アイリスの声が響いた。
アイリスがドアをすり抜けると……
『待ちなさい! ちょ……あ!』
アイリスは、再び、部屋の中へ戻って来た。
『ごめんなさい。逃げられちゃった』
「いいの! 大丈夫だった?」
『うん、平気。居たのは、顔も見たことがない女だった』
「女?」
『目しか見えなかったけど、あんな人見たことないし……しかも、精霊が中位くらいなの』
「中位の精霊? うちの生徒にそんな精霊、憑いている人……いる?」
『ううん。見たことない。それに彼女、黒くて動きやすそうな服を着ていたし、鼻から下は隠していて見えなかったの』
「……そう」
そう言ってから、天井を見ると、もう音がしなくなった。
確認のため、アイリスに見て来てもらったが、誰も居ないと言う。
「さっきの。……リーナの声だったよね?」
『でも、それにしては、違和感があったの』
「それは?」
『リーナの感じじゃないというか……精霊同士には、それぞれの波動があるのだけれど、リーナの精霊の波動は全く感じなかったの。だから、偽者だとわかったんだ』
「そっか……」
ドンドンドン
ドリスとアイリスが二人が、ドアのノック音に驚いていると、声が聞こえて来た。
「ドリス様! さっきから、コンコンコンコンうるさいんだけど!」
「こっちも気になって、寝れなかったわ! さっさと出てきて」
アイリスにも確認してもらい、ドリスの両隣の部屋の住人ということが分かった。
ドアを開けアイリスのことは伏せて、事情を説明すると、二人の顔がサーっと青くなる。
「今すぐ! 警備のところへ!」
「一緒に行ってあげるから!!」
その二人に連れられ、事情を話すと、すぐに、警備の強化を手配してくれた。
しかし、その警備の兵達が走った音で他の生徒達も起きてしまい、寮に侵入者が出たと大騒ぎになってしまったのだった。
この話はとりあえず、ドリスが何者かに狙われたと言うことが、わかっていただけたら良いです。




