23 実は同じクラスだった三人組
「お前らが、エルヴィン・アピッツとアナトール・ファルトマンか?」
教室で二人が話していたところに、なぜか、同じクラスのワシューの王子様が話しかけて来た。
「そうですが……」
「何か御用ですか?」
「アピッツ、お前の気持ちはアルベルツに伝わっているのか?」
アンディが唐突にこんなことを言って来るので、エルは動揺を隠せなかった。
「な……なんで、殿下が?」
「アンディで良い。アルベルツに婚約者の話を振ったら、諦めていますって返って来るから、お前が居るだろってつい言いそうに……」
「……言ったのですか!?」
「言いそうになったと言ったろ。思っただけだ」
「よかった……そんなことドリスが知ったら、また避けられる……」
「アンディ様が、こんな話を振るとは思いませんでしたよ」
「『様』もいい。そのままアンディと呼べ」
それを聞き、トールとエルは、王子の意図を理解した。
「では、俺のことはトールとお呼びください」
「敬語もいい」
「俺のこともエルで」
「わかった」
不自然な入り方をしたアンディだが、何とかエルとトールに受け入れられたところで、三人は話を続けた。
「じゃあ! ドリスのことは狙っていないんだな!?」
「あぁ。全く、女として見ていない」
「それはそれで、問題だと思うけれど……」
「トールもいないのか? 婚約者」
「俺は三男だからね。まず自立しなくちゃ」
「では、貴族ではなく、商人を目指すということか?」
「一応その方面で考えてる。うちの領は、紙が盛んなところで、それに絡めた商売がしたい」
「紙か……木から出来ていると聞いたが……」
「そうだよ。だから、のどかすぎる田舎で。それが悩みなんだよなぁ」
「あ、もしかして、それで情報屋やってるのか?」
「……まぁね。それもある。流行に遅れないようにしなくちゃ、田舎臭く見えるだろ?」
「うちも同じ様なものだ。学園になじめずにいたのも、田舎っぽさを知られたくなかったというか……空気が合わないというか」
この学園に通う貴族は、ほとんどが王都で暮らしている。領でしか生活してこなかった者には、田舎臭さがあり、それでいじられたり、下に見られたりすることもある。
「うちは国自体が田舎臭いぞ」
「ワシュー王国が?」
「他の国から外れた場所にあるからな。この国より緩い感じだ。だからこそ変えたいと思い、開発を進めているのだが、それが精霊の逆鱗に触れてな」
実は、精霊が視える国で今問題になっているのは、土地の開発である。木を倒し、新たに建物を多く建てたことに木の精霊は怒った。
それが、地属性の精霊に波及し、地の属性の精霊達は土地を離れてしまったのだ。
「精霊の加護は、作物の出来にも影響するからな。深刻な問題なんだ」
「精霊って偉大なんだなぁ。ここは信仰がないから、あまり加護なんてないだろうけど」
「いや、ロザリファはかなり地属性の精霊の加護が強いぞ」
「そうなの!?」
ロザリファは精霊信仰がない土地ではあるが、精霊に頼らない暮らしをしているため、独自で良くしようと努力している。
そのため、土の質が他の国と違うらしく、豊富な作物が育ちやすい。
精霊は特に、努力している人を好むため、土や樹などの為に良くしてくれるロザリファの人間が好きなのだ。
「今、地属性の精霊がどこも離れて行く中、こんなに地属性の精霊がいることはすごいことなんだ。どこの国も羨ましいだろうな」
「じゃあ、俺たちにも精霊が憑いているのか?」
「あぁ。下位精霊だか、憑いているぞ。二人とも」
「俺も?」
「何? 何の精霊?」
「エルは土の精霊だな。トールは木の精霊が憑いている」
「だから、俺が土の改良をしようとすると、良い出来になるのか」
「え? 結果出てるんだ! 俺は領に腐るほど木があるもんな」
「だからこそ、この国自体が狙われているけどな」
「どこに?」
「知っている範囲では、テレシア王国だな。そこは特に、食糧難が深刻だから」
テレシア王国とは、ワシュー王国と同じ、精霊が視える国である。
そこはワシュー王国より先に、開発に力を入れ、真っ先に地属性の精霊から嫌われた国だ。
しかもそこは、武力至上主義。田畑を耕すための知識より、精霊を手に入れた方が手っ取り早いと、他国から地属性の精霊憑きを、連れ去ることもあるらしい。
「自分で言っておいてなんだが、こうなると、ドリスが狙われるな」
「ドリスが!? なんで?」
「植物の精霊憑きなんだ。うちの国にも有益だからと、許可が出たので教えたが……」
「あ! この前、ドリス嬢とアンジェリーナ嬢が階段から落とされたのって……」
「それはないな。貴重な精霊憑きを、そんな目に合わせようとは思わないだろう」
「なんか……ドリス嬢って、悪目立ちしているよな」
「ん? そうなのか?」
「知らないの? ドリス嬢といえば、ミーシェ語とドラッファルグ語の単位を、入学式早々に取得。しかも子爵令嬢にも関わらず、友人は公爵令嬢。そのブローン公爵令嬢と二人で階段から落とされたことをきっかけにアンディという王子様とも知り合いになった。その上、子爵令嬢で初めての学年一位を獲得した。だから、一部の上位貴族達が厄介に思っているみたい」
「単位って、事前に取れたのか? 知らなかった。俺の国はミーシェ語だから、先生に取れるか聞いてみるか」
「食いつくところはそこか!?」
「確かにすごいな。本人は普通だと思っているところがすごい」
「まぁ、女子達の関心が今は別のところにあるから、被害は出ていないけどね」
「別とは?」
「うちの王子様、パシリウス殿下が入れ込んでいる、エミーリア・ボーム男爵令嬢だよ」
「あぁ……あの違和感のある」
「違和感? その男爵令嬢に?」
「そうだ。アルベルツには話したが、何か違和感を覚える」
「ちなみに彼女は、養子だってさ。突然、男爵がどこからか連れて来た子……らしいよ」
「それだけ聞くと、なんだか気味が悪いな」
「近づかないよう、気をつけた方がいいだろう。得体が知れない」
「うちの学年の五大美女令嬢の一人は、曰く付き……っと」
「メモるなよ」
「ほう? 五大美女というのがいるのか」
「いるよ! 聞く?」
従者のリコは、その状況を微笑ましく思っていた。
ジンも嬉しそうに三人組を見ていた。




