それは始まりの始まり2
彼、彼女らが呼び出されたここ…ミックスワールドは可能性の世界である。ありとあらゆる可能性が集約した、何が起こっても不思議ではない世界。
そんな混沌とした世界で秩序が保たれていたのは単に『MOTHER』のおかげであると言っても過言ではない。無限に近い可能性の中からより良いものを…と選び抜かれたそれは『彼女』が生まれてから何十年と絶え間なく計算し、算出し、選りすぐり、そうして、是としたものである。この単純かつ面倒な仕分けの結果、まさに、『彼女』が描いた理想の世界、ミックスワールドが作り上げられた。
ここは可能性の世界。ありとあらゆる可能性が集約した世界。そして、自由のない世界。
「まったく気に入らない世界だよ、ここは」
「あまり人の事は言えないけど、全部を全部支配するのはねぇ…。何も無い時くらいゆっくりしたっていいじゃないか」
「この世界に住む生き物のことを思って生み出されたんでしょうけど、正直本末転倒っていうか…本来、制御する側が制御されちゃあね。あたしも気をつけよっと」
「てか、このポンコツ今までは一応、正常に働いてたんだろ?急にどうしたよ」
「なんかぁ、やること多すぎてぇ、全然身の回り、掃除出来なくてぇ、ゴミが溢れかえっちゃってぇ、代わりに掃除頼んだらぁ、クーデターにあったぁ、みたいなぁ?……ほんと裏切る奴ってクソだよね」
「間違ってはないけど言い方。もう少し詳しく言うとバグの処理を怠った所為で、動きにくくなっちゃって、ほぼ同じ演算機能をもった…あー所謂、コピーね。を作ってバグ処理全部任せたはいいけど、バグの影響か良くない自我持っちゃったみたいでねー」
「なるほど、分からんが、分かった」
「このバカ」
はぁ、と1つ溜息がこぼした少女は呆れた目のまま光を見上げる。それは未だに不快な音と光を発し続け、こちらを敵視する。もう、無理なのだ。いくら、バグを取り除こうと、いくら、容量を外付けしようと、『彼女』は正常には戻らない。『OTHER』と名付けられたコピー体に侵食され、機能の4分の3も奪われているのだ。まぁ、以前の状態が正常だったか?と聞かれればそれはそれで答えにくいが、ちゃんとした理由はあった。突然、こんな所に呼び出され、戦えと言われ、そのくせこちらの行動に一々いちゃもんを付けられる。たまったもんじゃなかった。ここに来ていい事など数える程もない、が、『彼女』の根底にあるものは何時だって変わらず「この世界で生きとし生けるものが幸せであるように」といったささやかながらも尊大な願いだった。
「だからと言ってやり過ぎなのよね」
「ここが可能性の世界だからって別世界の僕らみたいな存在が集う可能性をかき集めるなんてね。仕方ないけどはた迷惑」
「私たちは集められたのに、コピー作って反逆に合う可能性を算出するだけの余裕はなかったみたいよ?」
「そもそもさぁ、ちゃんと掃除しとけばこんな事にならなかったんじゃねぇか」
「ほんとそれー」
3人は笑いながら、透明な筒で囲まれた光を見上げる。もう当分見ることはないだろう。会うこともないだろう。次に『彼女』と相見えるのは『彼女』からの願いを、依頼を、頼みを叶えた時である。
「さて、と…うん。こっちの準備も整ったし、いいかしら?」
「むしろ遅せぇ」
「あんたが『彼女』を怒らすようなことをしなければもう少し早くできたのよ?謝りなさい?」
「ごめんね」
「いいわ。さぁ、この部隊のリーダー(笑)さん?号令を」
「よろしく、リーダー(笑)さん」
「えー…こほん。では、可能性演算システム母体中枢、通称『MOTHER』さん。長い間お疲れ様でした。あとは、あんたに呼ばれたオレたちが請け負います。ゆっくり休んでて下さい。おやすみ!!」
「おやすみなさい」
「おやすみ、少しの間寝ててちょうだいね」
タン、と少女が1つのキーを押すと、ビカビカ光っていた光が一つ一つ輝きを失っていく。暗くなっていく。奪われていく。ごちゃごちゃしてた情報が凍結していく。整理されていく。
ああ、そうだわ…なんで忘れていたの?ごめんなさい。あなた達の所為ではないわ。あなたの所為ではないわ。ええ、そうね。これは私の責任。バグを溜め込んだ私の責任。あの子を作り出してしまった私の責任。でも、ごめんなさい。私ではもうどうしようもできないの。勝手に呼び出してごめんなさい。勝手に押し付けてごめんなさい。勝手に期待してごめんなさい。それでも、私は勝手にあなた達に希望を託します。
ーーーわたしたちの世界をよろしくお願いします。
光が消えた。
さて、急だが問題だ。簡単な問題だ。この世界に呼び出された彼、彼女らは何者だろうか。生まれも生き方も世界だって違う、そんな彼、彼女らには世界が定めた、決めつけた、自ら選んだ共通点がある。『ちから』があると言ったが、『ちから』があるだけでは呼ばれない。思い付かないか?守るべきのがあり、頼りになる仲間がおり、強大な敵がいる。この三拍子が揃えば流石に分かるだろう。
古今東西、呼び方は様々だ。
あるものは言った『ヒーロー』と
あるものは呼んだ『英雄』と
あるものは縋った『勇者』と
あるものは掲げた『正義』と
ここは可能性の世界。ありとあらゆる可能性が集約した世界。そして、壊れた世界。
そんなどうしようもない世界が求めたモノはそんな存在たちであった。
ほんとはここまでが序章の序章にあたる部分なので、前回のとくっつけて上げるべきか迷いました。